祖母の畑は

庭守透子

祖母の畑は

ローマ字で書いた怒りをめじるしにすれば日記は熱をかくまう


生き残る文字は無言死火山に届かない人にも名前がある


怒る人はやさしくないはずなのに産毛みたいにふるえる瞳


傷つきに海をさすらう流木のあらゆる記憶を水越しに見て


さりげなく教えてくれた歌を聴くあなたの顔は憶えていない


蹴り飛ばした掛け布団を抱きしめるまるめた背中に翼があれば


今日もまた何事もなく起きあがり腐った野菜をようやく捨てる


飽きるのが楽しみになる利き手ではない手で書く字は大きく


味つけを濃くしたほうが忘れるよ隠すんでしょ水が叙事詩なこと


うららかな言葉が透る縁側でたゆたう服が母をつかまえ


声域にまかせて歌う無責任にまつげが揺れて眼鏡にあたる


いちごは太陽の水 火照る頬はひかりをしまい宇宙を孕み


海のことうらみませんよそう言って埋め立てられた祖母の畑は


春雷だったらいいなバベルの塔を見守る友のまなざす爪


天井の木目を眺めるかあさんのおなかのなかのうねりに似てる


ゆたかさを愛でられない鉛筆を噛んで過ごすあたらしい道徳 

 

岐路の人と名づけられる安心のために苗畠にした足うら 


はなびらみたいな歯並びだね時間はロマンチックに老いを背負って


ほんとうの海な気がする潤沢な出雲平野の山に祈った 


カーテンをくだる光がさす部屋のよすみの埃みたいにのどか

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