第18話 (最終回) ひとりじゃないって
私達はローカル線の座席に並んで腰掛けて、3月というのに屋根や樹々に積もった雪がまだ眩しい北国の景色を見つめていた。
マユリンは私の胸に顔をつけて小さな寝息を立てている。ベージュのコートがよく似合っていて愛おしい。
単位がたくさん取れて、こうやって安心してお泊まりに来られてよかった、と私はつくづく思った。その後のマユリンが必死に勉強した甲斐があって、苦手科目克服ができたからだ。
「マユリン、お昼にしようか」
私が揺り動かすとマユリンは頷いて、上の網棚から大きなお弁当箱を二つ取り出した。
「わあ、これシンちゃんが全部作ったの?」
「そうさ」
私は自慢げに答えた。海苔で巻いた大きな三角お結びと関西風の俵形のおにぎり。だし巻き卵と買って来た蒲鉾、そしてタコ型に切り目を入れた赤ウインナー。
「アーンして」
これがやりたかったんだよなオレ、と私は幸福感を噛み締めた。
マユリンは小さな口を精一杯縦に開けて俵形お握りに齧り付いた。急いで食べたせいで少し咽せた様子もまた私の胸を熱くときめかせた。
「ほらほら急いで食べるから」
ペットボトルのお茶を口元に寄せると咳き込みながら全てを飲み込んだ。
「あー、もう食べきれないよ」
少し量が多すぎたのか、マユリんはタコ型のウインナーを残した。
「オレももうダメ、これは包んでおこう」
そう言って元々包んでいたラップに包み直した。それからもマユリンは私の胸で眠り、その体温効果で私も睡魔に襲われ、心地よい振動と共に眠った。
小さな温泉町の駅に着いて、私達は渓谷の上に立つ旅館への坂道を登って行った。切り立った山のこちら側には清々しい渓流の水音がこだまして、私たちは手を繋いで山道歩きを楽しんだ。
旅館を見上げる位置に少し開けた平坦があり、その向こうに土産物屋兼茶店が見える。赤い飲料自動販売機が外の色褪せたベンチに並んでる。鄙びた町の地方によくある光景だ。
私たちは休憩と土産物探しを兼ねて、ベンチに腰掛けた。まるでタイムスリップしたかのように有線放送の昭和歌謡曲が流れて来た。
ひとりじゃないって、ステキなことね
マユリンはそれに釣られて復唱した。
「ねえ、これって聴いたことあるよ」
「うん、確か昭和の歌だよな」
私は応じた。その時だった。どこからか一匹の白い小さな野良犬が私たちのそばへ寄って来てふさふさした尾っぽを降った。マユリンの両脚の間に入った子犬はデニムの裾を引っ掻いた。
「お客さん、すみませんねえ、こら、この子この辺の野良犬で、気に入るとこの通り、すぐ甘えるんだから、ほら向こう行って」
この店の女将だろうか、エプロン姿の人の良さそうな高齢女性が苦笑いしながらマユリンの足元から子犬を引き出そうとする。しかし子犬は踠きながらもそこを離れようとしない。
不意にマユリンが立ち上がったので子犬は驚いたのか引き下がった。私も立ち上がった。
「シンちゃん、あのお昼のウインナー頂戴」
マユリンがそう言ったので、私は鞄からラップに包んだウインナーを出して子犬の足元に置いた。子犬はクンクンと匂いを嗅ぎ、美味しそうにそれを齧った。
「もう行くよ、ワンちゃん。元気でね」
マユリンは頭を優しく撫でて、私たちは別れを告げた。子犬は途中までじゃれついて来たが、店の平地を過ぎて小径に入る頃、立ち止まってじっと私たちを見送った。マユリンは何度も振り返ると笑顔で子犬に手を振った。
夜。
混浴の露天風呂、マユリンを少し酔わせた夕食、私は二つ並んだ枕の前にある行灯型の灯りを小さくする頃、情欲が全身に漲るのを感じていた。
「あのワンちゃん、どうしたかなあ」
マユリンの言葉が、二人の間に暗黙のスイッチをオンにした。私はマユリンの浴衣をはだけ、ノーブラのふくよかな胸を鷲掴みにしてその頂点にある硬直した突起を吸った。
「激しくして、乱暴にして」
マユリンの許諾は私の炎を余計に燃え上がらせ、両脇から脇腹を舌の全面で味わいながら帯を荒々しく解いて、白い下着を引きちぎるように下げた。両脚を大きく開かせてその温かく湿った蜜壺とその頂点の突起を嫌というほど愛撫した後突入すると、マユリンは紅潮しながら甘く呻きながら息遣いを荒め、私の肩に両手でしがみつき爪を立てた。
その甘美な冷たい激痛は私を更に硬直させて動きを速めた。寒さ厳しい北国の宿を包む配慮の効いた暖房で汗が布団を濡らし、そして淫欲の限りを尽くした末に二人とも同時に果てた。
私は萎えてゆく己が欲望の主をマユリンからゆっくりと引き抜くと、マユリンの手を握り締めてゆっくりとキスした。今まで味わった中で最高の接吻だった。
ひとりじゃないってステキなことね、
マユリンは小さな声で歌った。
たとひわれ死のかげの谷をあゆむとも禍害をおそれじ。なんぢ我とともに在せばなり。
私は応じた。
私たちはそれから後ニ回交わり、三度目は浴衣の紐でマユリンを目隠しして更なる淫欲の放恣に身を任せた。don’t disturb の札が二人を守護してくれたので、私たちは朝食の期限ギリギリまで惰眠を貪り、朝食会場で大きな欠伸をしたマユリンを更に愛おしく眺めた。
ひとりじゃないって、ステキなことね。
お茶を汲みながら微笑んでマユリンは呟いた。
たとひわれ死のかげの谷をあゆむとも禍害をおそれじ。
なんぢ我とともに在せばなり。 詩編23編4節
終わり。
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最後までお読みいただきありがとうございました。とても熱い純愛物を一度書きたかったので
著者としてもとても幸福感に満たされています。
「 Cheating On Loveー出逢いはカンニング」 山谷灘尾 @yamayanadao1
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