第17話 告白

 マユリンはやや緊張気味にカフェに入ってくると、先輩とユキナに短く礼をして四人がけの席で空いていた私の右横に座った。


「マユちゃん、ごめんね。呼び出したりして。でもこうやって4人で話してキッチリしておきたかったの」


 ユキナは申し訳なさそうな顔をしてマユリンに詫びた。


「ううん、全然」


マユリンはユキナに微笑んだ。


「シンちゃん、ごめんね、今までずっと黙ってて」


マユリンは私に深く頭を下げた。


「事情分かったし、いいよ。別に気にしてない。オレ、マユリンと付き合ってマジハッピーつうか」


私は直ぐに自分の感情を告白する自分の性格を自覚していた。


「それじゃ、今までの経緯を正直に打ち明けたらどう?」


 ユキナがマユリンを促した。


「うん、いいよ」


マユリンは私の方を向いて告白し始めた。


「あたし、入学当時からシンちゃんを狙ってたの。最初は比較的人数の少ない基礎中国語のクラスだった。ユキナさんからあなたの特徴や髪型、ファッションを見聞きしてたから、すぐに一番前に座ってるのに気づいたの。


 で、授業が終わって空き時間になり、シンちゃんが談話室へ行くのを後ろから気づかれないように追跡したんだ。あなたは全然気づかずに、コータと自販機でジュース買って、楽しそうに女の子の話で盛り上がってた。


最初やっぱ二人ともチャラ男って感じでさ、軽そうって思ったの。あたしも人のことは言えないけどさ。アハハ。


 でもさ、次の英語リスニングクラスの時、その見方は完全に変わったの。シンちゃん講義中、ずっと前の席で必死でノート取ってた。電子辞書で単語引きまくってさ。ネイティブの先生が質問あるかってきいたら、シンちゃん、すぐに手を挙げて質問してたよね。


 講義終了後、跡をつけたら図書館へ行って、今度は沢山本借りて勉強してた。この人、なんてマジメで勉強家なんだろうって。


 中国語の講義でもさ、いつも前の席で必死だったよね、シンちゃん。隣の席に座ってたなんだっけ、ちょっと地味目の男の子、そうそう梶本くん、に負けるものか、って感じでさ。梶本くんは高校で中国への長期留学経験者だったよね、で、シンちゃんはアメリカ。二人で英語と中国語の天下を二分してる感じでさ。みんな二人のライバル心にちょっと嫉妬してた感じ。英語も単語力じゃ帰国子女の子にも負けてなかったじゃない。


 で、一年の夏休みに上海へ短期語学研修に行ったのも知ってるよ。梶本くんにそう言ってたじゃん。あの時確か、梶本くんはシンちゃんに上海方言のことを話して語学の実力格差を見せびらかしてたの。それも可笑しかった。


 それに比べてあたしは授業だけでいっぱいいっぱいで、どんどんついていけなくなってたの。でも、今の大学でなんとか頑張ろうと思ったのはシンちゃんがとっても前向きでいつも一生懸命だったからよ。


 で、いつかお話しようとキッカケを探してたんだけど、シンちゃんっていつも勉強や部活、バイトなんかで忙しくしてたから、取りつく島がなかったの。唯一の例外がコータと部活前に談話室で駄弁っていた時かな。


 あたし、コータと友達になったらあなたに近づけるかも、って思った。コータも軽そうな子だったけど、音楽には熱が入ってて、ライブ聴きに行ったら、ギターも弾けるし、キーボードもドラムも演奏できるんで、ちょっと好きになったの。


 で、コータと連絡先交換して、シンちゃんのことを訊いたの。付き合いたいって。その頃あたしに言い寄ってくる男子がみんな変な奴でことごとく振ってた。知ってるでしょ、SNS上で散々ディスられてたよね、魔性のマユってさ。あはは。


 だからコータもあたしをそんな目で見ていて、自分なら落とせるっていう感じで、オレと遊びでいいから付き合ったら引き合わせるみたいなこと言って。で、あたしも勉強やる気出なくなってズルズルとコータのペースにハマってた。


 それで二年になり、単位が全然取れてなくってどうしようと思ってた時、いっそカンニングを大っぴらにやってシンちゃんと繋がれないか、って思ったの。で、大学の規定読んでカンニングは該当教科が0点になる、って書いてあったの。でも悪質性が高い時は停学もあり得るってさ。あたしはビビリながらもラッキーな方に賭けた。


 言語学の講義でもシンちゃん必死に勉強してたもんね。いつもあたし、斜め後ろの席に座ってたのに全然気づいてくれなくて。

 

 で、あのカンニングでついにシンちゃんに繋がったの。最初拒否されたけどそれはユキナさんのことがあったら、ってすぐ分かったの。でもあたしもう必死だった。カンニングの犠牲を払ったってことじゃない。


シンちゃんをマジにスキになってたから。


 勉強であれだけマジメなのに普段は女好きでちょっとエッチっていうギャップ萌えもあったのかもしれない。でもこうやってカノジョになれて今とっても幸せよ」


 マユリンは一気にそこまで話し終えると、注文でやってきたアイスコーヒーを美味しそうにストローで一気に啜った。


つづく











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