第16話 真相の開示

 数日して、連絡先を知らせておいたヤナギモト先輩からメッセージがやって来た。それはこの街から電車3駅ほど離れたとある中核都市にあるショッピングモールの中にある洒落たカフェでの待ち合わせだった。


 私はなぜそんな場所で待ち合わせなのか訝りながらも、自宅で母親が使っている軽自動車に乗ってそのモールを目指した。


 モールには地方都市によくありがちな巨大な駐車場があり、その隅っこに駐車すると眩しい日光の照り返しの中、カフェに入って行った。冷房の風がヒヤリとして心地良い中を歩いていくと、中央の四年掛け丸テープルで先輩が大きく手を挙げていた。


 そして向かって先輩の左側にユキナがいた。髪をショートにして、清楚な白Tと黒のミニスカート、そして薄ベージュのハイソックスと大きくリボンがついたエナメルのサンダルがガーリーでよくまとまっている。


 私の好みに合わせてややボーイッシュなコーデだったユキナは先輩色に染められていた。それが私を必要以上にときめかせず、ホッと一息つく。先輩はカラフルなキースヘイリングの絵柄が付いた白Tと濃紺のワイドスラックスを合わせて、サッカーによる日焼けとよくマッチしていた。大学では野球からサッカーに転向したようだった。


 「よお、こっちこっち」


 先輩に勧められてユキナの斜め前に座ると、彼女はまだ伏目がちに彼の方を向いていた。


「ほらほら、元カレにご挨拶は?」


 先輩が微笑みながら優しい声で促すとユキナはやっと顔を上げて私を見た。


 「シンタロウ、元気だった?」


 彼女は言うべきセリフが見つからず、ぎごちなく、取り敢えず無難な質問で切り出して来たようだった。


 「うん、ユキナも?」


 カノジョだった時に常にふざけて使ったアナクロニズム的表現「ユッキーナ」は控えた。


 「うん、元気だったよ」


 笑顔が元に戻りつつあった。


  「ごめんね。」


彼女は小石を水面にそっと投げたように、ポツリと言った。その瞬間、ふたりの間に起こった不幸な出来事がフラッシュバックして眼前に鮮やかに蘇った。


「謝るのはオレの方さ。傷つけちゃって本当にごめん、こうやって謝るチャンスが与えられて嬉しいよ。先輩にも感謝しています。」


 私は先輩の方を見て軽く一例した。


「もう済んだことじゃないか、それに君もオレもこうやって新しい関係が持てたことだしね」


先輩はテーブルに置かれたユキナの手をぎゅっと握った。それは見せびらかすのではなく、私に安心感を与えるためだとすぐに分かった。ユキナも微笑みながら頷いた。


「そのことなんですけど」


 私はふたりに最大の疑問を投げかけようとしていた。前回先輩に会った時、その疑問は今日の出会いで解けるから待って欲しいと言ったのは先輩だった。


「分かってるよ、君の新しいカノジョさんのことだろ」


先輩は運ばれて来たアイスコーヒーをユキナと私の前に配りながら微笑んでいた。


「ユキナ、説明してくれるよね?」


「はい」


ユキナは丁寧にそう返して話し始めた。


「三年の二学期、あのことがあって、わたしは酷く落ち込んでたの。もう何もする気がなくなって、受験校が決まったある日曜日にこのショッピングモールに来て、当てもなくぶらぶら歩いてた。


 下を向いてた私は、通学定期券が落ちているのに気が付いた、それでね、モールの入り口にあるインフォメーションデスクに持って行った。比企真由っていう名前が書かれていたわ。それで館内放送で呼び出してもらった。


 すると間も無く、はあはあ言いながら制服姿のカワイイ女の子が飛び込んできた。彼女は何度も頭を下げてお礼を言ったわ。で、彼女はこう言ったの。


「お時間あったら、お礼がしたいから一緒にお茶でもいかがですか?」って。


 私はすっかり元気を喪失してたので、元気いっぱいでキラキラした彼女に元気をもらおうとした。それでこのカフェに来たの。そして彼女の奢りで同じ大きなパフェを一緒に食べた。生クリームをほっぺたにつけながらパフェを掘り出すように食べてる無邪気なマユさんを見て、私は本当に癒された。


  で、彼女と連絡先を交換して友達になったのよ。幸い彼女はこの都市に住んでいる子だった。


 私が元気がない時、テレパシーでもあるかのようにラインでメッセージがやって来た。そしてカワイイキャラクターがいっぱい付いた励ましメッセージもらったんだ。


「元気だしなよ、また会おうぜ」


なんて書いてあった。私がシンタロウとの破局を話したのは、彼女と三回目に出会ったこのカフェだった。彼女もカレシと行き違いがあって別れた話をしてくれた。なーんだ、おんなじ事情持ちか、私は少し気分が良くなりかけてた、なんか運命の出会いっぽいな、とかね。


 私たちはモール内のアクセサリー屋さんへ行って、彼女が好みそうなカワイイピアスを探してあげたの。ちょうど進路の話になって彼女が尚英大の英文科を第一志望にしていることを知ったの。わたしはその時、言ったの。私の元カレも尚英志望だって、でも国際関係学部だよ、ってね。


 すると彼女は英文科って国際関係学部と選択教科ダブってるはずだって。私、最初そっちへ行こうとして偏差値高すぎて英文科に回ったから、っていうの。


 で、ネットで調べると複数の教科が共通だと分かった。ひょっとしたらわたし、シンタロウ君に会えるかも、っていうから、私言ったの。もしシンタロウに会ったらあなたにカノジョになって欲しいくらいだって。だってあなたみたいに太陽のように明るい子に、落ち込んでるシンタロウを励まして欲しいって。


 あなただったら私、絶対嫉妬しない、私の身代わりになってくれたらもう最高に嬉しいって。


 考えてみたら、不躾なお願いよね。それまで見知っていなかった女の子に突然見知らぬ男子のカノジョになれっていうんだから。シンタロウも新しいカノジョ見つけるかもしれないのにね。


 でもね、第六感っていうのかな、私、この子があなたのカノジョになりそうな気がしたの、で、提案したのよ。尚英で共通に選択する教科でシンタロウを探して欲しいって。見つけたらアタックして欲しいって。写真見せたらルックスはドツボだっていうのよ、童顔でカワイイ、って。


で、言い返してやったよ。ルックスカワイイけど人一倍スケベだってね、あはは。スマホの中はエッチなグラビアでいっぱいってさ。でも人一倍純情で優しいよって。


 で、カノジョになったら私にメッセージ欲しいってね。私は祈るような気持ちで待ったの。自分にはカレシがまだいないけど、私の分身をシンタロウに出会わせて幸せにしたいってね。


 それが見事に叶ってわたし、今とても幸せ。で、私も結局優しいカレシできたし。」


ユキナは喉を潤すようにストローでアイスコーヒーを啜った。


私はもうひとつ解けない謎をユキナにぶつけてみた。


「でもさ、どうしてマユリンはそのことをオレに打ち明けなかったんだろ。ユキナとマユリンの関係も含めてさ」

「あ、あはは、マユリン、そうだったわね、そう呼ばれてるって言ってたから」


花が開くようにユキナの笑顔が全開になった。


「私が言ったの、決して言わないでって。私の配慮を知ってあなたの気持ちが私に戻らないようにって、でも今日はそのことで実は呼んでるのよ。」


ユキナはスマホを手に取り、

ゆっくり呼び出した。


「マユちゃん、いつものカフェへ来て。もういいのよ。」


自動ドアが開き、ユキナとお揃いのスカートを履いたマユリンが入って来た。


つづく













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