第2話 二日目

「我はサタン! 地獄からの使者である!」

「え。なに?」

「か、可愛い……! そ、そんなぁ~♪」

「ふふーん♪ ま、悪い気はしないね」

「え。黙っていれば……」

「わたしだってショックを受けるんだよ?」

「分かっているなら、なんで言うの!」

「……え。泣いている姿も可愛い? ひどいよ!」

「もう怒ったからね。今日は一緒にいる。夜まで」

「困るんだったら言わないの!」

「まったく、キミは……」

「ふふ。でも嬉しい♪」

「さて。なんのことでしょう?」

「それでは、我が儘を言うわよ!」

「我の前にひれ伏しなさい。耳かき、してあげる」

「さあ、やるよ!」

 耳に耳かきを入れる音。

「綺麗にしているね。あまりないかも」

「ん。綺麗になったよ。今度は反対側」

「なにためらっているのよ」

「いいわ。気にしないから」

「もう我が儘なんだから……」

「ふー」

 甘い吐息が耳にかかる音。

「さ。終わりだよ。だから、約束通りしき勾玉まがたまをちょうだい」

「そう! それ!」

「ありがとう! 欲しかったんだぁ~♪」

「これぞ、我が魔の力を封じ込めた力の奔流。我が手中に収めた。あとは天野村雲あまのむらくも八咫鏡やたのかがみだな」

「え。か、可愛い……?」

 煙りが出る音。

「も、もう! 何を言っているのかな!?」

「もうこんな時間。料理作ってあげるね」

「え? 料理できるのか、って? ふふ。それはできてからのお楽しみに!」

 ジューッと肉を焼く音。

「いい香りしてきたでしょう?」

 腹の虫が鳴る音。

「はいはい。待っていてね!」

「はい、できたよ」

「一緒に食べようね~」

「チャーハンとサラダ、それにローストビーフ。我ながら頑張った!」

「いただきまーす」

「どう?」

「おいしい!? 嬉しいなぁ~」

「ふぇ!? 毎日、食べたい!?」

「もう、大げさなんだから……」

「そうだ。今日の晩ご飯は何がいい?」

「え。そんなに長居するつもりか? っていいじゃない。暇なんでしょ?」

「ならいいじゃない♪ 我と一緒にいられるなんて幸せなんだぞ~!」

「もう真面目返さないでよ。ハズいじゃん……」

「で、晩ご飯は何がいいの?」

「えー。なんでも? じゃあ、得意料理にするね!」

「その前に!」

「ゲームしよ?」

「良かった。手加減はなしだからね!」

「えいえぃ! このぉ!」

「あー。強い。勝たせてよ!」

「ケチ……」

「ん。少し休憩。魔の力を補充しなくては」

「あ。コーヒーでお願いね」

「ブラックが飲める大人のレディなのです……」

「え。嫌そうな顔? ないない! わたしは魔に引き寄せられるのだから」

「うぇ。にっが……」

「む。ミルクなんて子どもっぽい」

「さ、砂糖はもらおうかな!」

「うん。飲める飲める」

「邪悪なる聖杯に、我の心が潤う。お主に〝ブラディー・ジョー〟の称号を与えよう」

「え。なんのことか分からない……?」

 がーんとショックを受けたSEサウンドエフェクト

「ま、まあ、世界はわたしだけで回っているって訳じゃないってことよ!」

「だから、わたしの知らないこともたくさんあるってこと!!」

「え。わたしの気持ち、知りたい?」

「ふふーん。それにはまだ早いかな」

「知らない。ばかっ」

「むう。じゃあ、次はポーカーでもしようよ! わたし、運だけはいいから!」

「はい。勝ちぃ!!」

「へへん。運だけはいいんだ。出会いも良いことばかりだったし!」

「え。あけみちゃん……。気になる?」

「まあ、よく話すけど……」

「なんでそんなこと言うの。わたし、キミのこと好き、だよ……?」

「本当だってば。もう、からかわないでよ」

「ん。そろそろ夕食にするね」

「ふんふん♪」

「できたよ! そっちあけて」

「さ、グラタンだよ。一緒に食べよ」

「キミの好きな味にしてみたよ。……どう?」

「ふふーん。毎日、食べたい?」

「いいよ。毎日作ってあげる♡」

「うん。キミのことはずいぶん前から好き、だったの……!」

「ありがと。つたないわたしですが、どうぞよろしくお願いします」

「ん。幸せ」



「さ、片付けるよ!」

「もう、照れ隠しじゃないってば!」

 皿洗いをする音。

「顔が赤い? ……ふーん。そういうキミも赤いよ?」

「意地悪言わないでよ。いいじゃない。初恋なんだから」

「ふたりして初恋なんだ……ちょっと嬉しいかも」

「さ。少しマッサージしてから帰るよ」

「ベッドに寝て?」

「うん。じゃあ、指圧マッサージするね」

「ここ、痛い?」

「じゃあ、こっちは?」

「うーん。お客さん、こっていますねぇ~」

「あ。ここのツボが痛いと疲れがたまっている証拠だよ?」

「そうなの。わたし、意外とマッサージ上手なの!」

「ええー。毎日して欲しいの? しょうがないなー」

「特別だぞ?」

「キミだからして上げるんだからね!」

「え? 両親にもしないよ。せいぜいお婆ちゃんとお爺ちゃんくらい」

「年寄り扱いじゃないよ~。マッサージの練習になってもらっているのよ」

「ふふ。ごめんね。意地の悪い彼女で」

「でも、キミもけっこうな意地悪だと思うけど?」

「だったらなんでさっきからこっちの気持ちをくんでくれないのかなぁ~」

「わたし、して欲しいこと、たくさんあるんだよ?」

「我が儘だからね!」

「今日はこれくらいにして、帰るね!」

「じゃあね! バイバイ!」

 ドアが閉まる音。

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