第3話 三日目 前半

 ドアを開ける音。

「我が名に従い、契約の契りを結べ。我が半身!」

「え、なんでそんなにノリ悪いのさ!」

「わ、わたしと一緒に中二病にならない?」

「そ、それが無理ならラバーの血の契約をかわさない?」

「もう。何よ! 本気で言っているのに、笑い出すなんて!」

「わたしの眷族のクセに生意気なんだから!」

「いいじゃない。減るもんじゃないし、わたしと契約しなさいよ!」

「え。わたしの魅力?」

「ははは。そんなのあるわけないじゃない。まだ荷電死炎かでんしえんの中。わたしはその力を乗り越えていない!」

「コントロールするのは難しい。だって膨大な魔力を秘めているから」

「力を放出する際、細胞レベルでの振動波が襲う」

「それはもう身体を切り刻むような痛みよ。あなたに耐えられるかな?」

「ふふ。いいの。わたしはその力を完全にコントロールできるのだから」

「あら。なんでそんなこと言い切れるの? この世界は限りなく神秘で満ちているというのに」

「まだ分からないのね。じゃあ、自分の今生きている感覚はどこからくるのかな?」

「ふふ。神秘的だよね? 自分の感覚がなくなったあとも世界は続いていく。他の人にも感覚があって、共有できない。それが今の世界の常識よ」

「なら、その孤立した精神に宿る力も、他の者ととは違う可能性があるの」

「つまり、自分の力が全てではないの。分かる?」

「この世界には自分では認識できないことがたくさんあるわ」

「そう、世界の反対側の人と知識や言葉を共有できないように……」

「その個別で感じた感情がどう昇華されていくのか」

「仏教ではその先は転生という概念があるわね」

「個々の感覚――つまり魂は輪廻の輪に導かれて新たな精神体として確立される」

「なら――わたしたちが必死に足掻きながらも生きるわけは全て未来のため」

「未来の自分をより良くしたいからこその世界構築。偏見や差別、全ての人に公平と平等を与えるために……」

「もちろん、それだけが社会の役割ではないわ。みんな必死で生きている。この喜びを分かち合う」

「それも重要よ!」

「話が長くなったわね。安心して。キミはわたしとまた出会える」

「未来を一緒に築いていくの。その先にあるあなたの顔が見たいから――」

「いいじゃない。わたしだって好きな人くらいいるもん」

「あ、笑った! 中二病でも好きな人は、いるんだよ!」

 ため息を吐く。

「まあ、相手の人が微妙だけど」

「ふふ♪ 冗談よ。可愛いね!」

「わたし、生まれてきて良かったと思いたいの。あなただってそうでしょ?」

「生まれてきたからには死はさけられない。でも」

「それで生きるのが辛くなっちゃったら、それは寂しいよ。悲しいよ」

「わたしたちは人を笑顔にするために生きているの」

「もちろん、誹謗中傷とか、貶めるとか、嘲笑うとかじゃないよ!」

「この世界が平和にならないのは曲解する人がいるからよ」

「人は知恵を正しく使って、真実を認められるようになるべき!」

「うん。ごめん。こんなテンションで」

「でも。わたし、世界を変えたいの。キミと一緒に」

「だから一緒にいこ?」

「いいじゃない。わたし、好きな人と一緒に未来を見たいから」

「いつまでもどこまでも」

「だから、ね?」

「わたしと一緒に人生を歩んでみませんか?」

「ふふ。ふつつか者ですが、よろしくお願いします」

「わたし、キミのこと愛しているっ!」

「良かったぁ。嫌いではないんだもの」

「幸せ……」

「わたし、生まれてきて良かったっ!」

「こんなにも幸せになれるなら、もっと早くに見つけて、仲良くなりたかった」

「全ての根源は愛だよ。だから人は生きていけるの」

「愛が世界を変えて、偏見を変えて。世界を作っていくの」

「この町並みも、毎日食べている食事も、衣服も、すべては誰かが必死になって作っていったから。だから他人ひとの知恵で、他人ひとの努力で、この世界は作られていく――」

「だから、努力は無駄じゃない。知恵は人を笑顔にする」

「簡単なことだよ。愛し合えばすべてが解決するの」

 顔を近づける。

「愛しているよ」

 ささやくように呟く。

「ふふ。一緒に昼食、食べよう?」

「今日はオムライスなの」

 フーフーと冷ます音。

「はい。あーん」

「おいしい?」

「良かったぁ」

「作ったのは笑顔にするため。お礼なんていいの」

「わたしが好きでやっていることだから」

「さ、一緒に食べよ」

「ふふ。明日も料理作るね。何がいい?」

「なんでもいいって、困るなー」

「じゃあ、わたしが得意な料理を披露するね!」

「さ。今日は食べ終わったらマッサージして あ げ る♡」

 甘い吐息を漏らす。

「さ。横になって」

「お客さん、堅くなっていますね~」

「肩も凝っているんじゃない?」

「頑張りすぎだよ。ゆっくり休んでね」

「ふふ。だんだん眠くなっているみたいだね」

「寝顔。堪能しちゃうぞ♡」

「あらら。ここで寝ると風邪ひくよ?」

「そんなに眠いんだ」

「毛布掛けてあげるね」

「わたしも眠くなってきちゃった」

「ベッド借りていい?」

「ゆっくりお休み」

 頬に唇を近づけて言う。

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