ちょい中二病な彼女がデレて溺愛してる!!

夕日ゆうや

第1話 一日目

「我が半身よ! よく来た!」

「我の寵愛をうけたいのであれば、誠意を見せい!」

「我が真名を聞くがよい!」

 マントを翻す音。

「……え。聞かない? そんな殺生※な!」

「わたしの話を聞いてよ〜」

「わたし、頑張っているのに〜」

「ほむっ! 我が真名を聞く気になったか!」

「我が名は香菜かな! 葉月はづき香菜!」

「え。普通……」

「ありきたり……」

「わたし、泣いちゃう……」

「拗ねた。わたし拗ねた」

 泣きすする。

「なによもう。勝手なんだから」

「わたしの話、聞いてくれるの?」

「鼻声じゃないやい。泣いてなんていないもん!」

「我は最強の四天王が一人、クロノス。時を操りし者!」

「この出会いは運命ってことよ!」

「しょうがないなー。わたしがすごいってこと見せて上げる」

 筆箱からペンを取り出す音。

「どう? 鉛筆が曲がって見えたでしょ!?」

「でしょでしょ!!」

「我ができる魔法の一つなの!」

「え。できる? あなたが?」

「…………うそ」

「わたしの特権だと思ったのに……」

「泣いてなんていないやい!」

「わたし、まだできるもん!」

「このトランプをめくると……!」

「ほら! 同じ色! 同じカード!」

「え。種があるんじゃないか? そ、そんなことないもん!」

「喰らえ! 我が魔法を!」

「滅びのバーストシュート!!」

「どど~ん!」

「相手は死ぬ」

「なによ! 台無しじゃない。ちゃんと演技してくれないと!」

「わがままじゃないもん、中二病の決まり事だもん」

「なによ。今更攻撃を受けたフリをしても無駄なんだからね!」

「そ、そう? そう言われると悪い気はしないの」

「ふふーん♪ しょうがないわね♪」

「我の半身よ。よくかえってきた。褒めて使わそう」

「撫でるの、嫌い?」

「良かった。これからも撫でるね!」

「え。わたし?」

「わたしは、あなたに触られるの、嫌いじゃない」

「え。聞こえなかった?」

「もう一度言うの?」

「えと。……さわ……きら……。もう! バカ!!」

「なによ! 鈍感なあなたが悪いんだからね!」

「え。なに?」

「ふーん。そんな態度とるんだ?」

「いや別にぃ〜? だってこっちには四天王が控えているのよ?」

「あら。いい子ですね。何ちゃいですかぁ?」

「何よ! あんたが悪いんじゃない!」

「え。な、なに?」

「そんなに近づかないでよ。後ろ壁だよ?」

 とんと壁を叩く音。

「え、これって壁ドン?」

「ど、どいう意味よ!」

「が、我慢しなさい! わたしは安い女じゃないのよ!」

「ん。知っている。わたし可愛いもの」

「ふーん。いくじなし」

「いや、ごめん。そういう意味じゃないの!」

「お願い。許して! その子がいないとわたし今晩のおかずが買えないじゃない!」

「わ、わかってくれたのなら別にいいけど?」

「う、上ずってなんかいないわよ」

「そうやってすぐバカにする」

「え。可愛いからついいじめたくなる? そんなの勝手な理屈よ!」

「わたしを馬鹿にしたバツよ。今日の夕食は手抜きね」

「今更謝ってもしょうがないんだからね!」

「わたし、根に持つタイプなの」

「それでもわたしのこと好きなんでしょ?」

「はいはい。わかっているわかっている」

「ほら、今日は手抜きのサラダ」

「え。物足りない?」

「……しょうがないわね。少し待って」


「ほら。唐揚げ」

「知っている。大好物なんでしょ?」

「わたしが何も知らないみたいじゃない」

「……クククッ。我は全知全能の神クロノス」

「クロノスはときの神?」

「……そ、そんなの知っているわよ!」

「全知全能だったらゼウス……?」

「い、いいじゃない! わたしの趣味よ!」

「もう! からかうくらいなら言わないでよ!」

「いいじゃない。わたしは好きだよ。ブラディ・ハウンド」

「あなたの二つ名じゃない。素敵……」

「あのね。わたし、あなたを知ってから中二病を知ったの」

「最初は何言っているんだか、って思った」

「でもそれってとても素敵なことに思えてきたの」

「だってこんなにも世界が輝いてみえるんだもの」

「わたしだけじゃ知らなかった世界がそこにはあるの」

「それがたまらなく愛おしいの」

「だって自分の妄想よ? それなのにこんなに世界を色づけてくれる」

「こんなことってないよ!」

「だからあなたも世界を広げて」

「そしてわたしと……!」

「……なんでもない」

「頬が赤い? えっと、なんでもない!」

「また遊びにくるね! 待っていてね!」

「必ずくるから!」

 ドアを閉める音。

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