妖の長、海へと堕つ

粟沿曼珠

霞姫の堕ちる時

 縄で縛られた村の少年を運ぶ輿が、山の奥へと進んでいく。少年も、それを担ぐ男衆も涙を流し、内心嫌だと思い、しかしそれでも進んでいく。

 切り開かれた道を進んでいき、その果てに円形に開けた場所へと着く。そこから先に満ちは続いておらず、男衆は担いでいた輿を下ろし、簾を上げ、現実から逃げるように、或いは何かから逃げるように駆け足で踵を返した。

 少年は逃げたくても逃げられない。手足は縛られて逃げようがない。助けを呼ぶにも口は塞がれ、仮に塞がれていなくとも、こんな山奥で叫んだところで獣か妖を呼ぶくらいにしかならない。

 それでも少年はじたばたと体を動かし——その時、森の奥から霞が迫ってくるように生じたのが、彼の目に映った。霞は輿とその中の少年をも堤、彼は死期を悟って目を閉じ——

「ふふ、愛い童よのぅ」

 妖しくも優しさも感じる声を耳にし、少年は目を開ける——霞が人の形へと変わっていったかのように、霞から人の姿をした妖が現れた。黒、金、赤の厳かで豪奢な装束を見に纏い、地面に届く程の長い黒髪を持つ。見た目こそ人であるが、耳のある場所には人の耳では無く獣の耳があり、加えて狐のものに近しい細い尻尾も生えている。人のようで人では無いその存在に、少年は怯える。

「そう怯えるでない、別にうぬを喰ったり殺したりする気は無い。妾は『霞姫』じゃ。うぬも一度は聞いたことがあろう」

 霞姫——この海と山に挟まれた地域を支配する妖であり、霞を自在に操る力を持つ。彼女は支配する人々に、このように食料や子供——特に男児——を献上させているのである。

 怯える少年に彼女は近づき、その額に接吻する。するとそこに黒い花の紋章が生じた。

「ふふ、これでうぬも妾のものじゃ……」

 そう言うと彼女は両手で彼の服を掴み——少年の服と足を縛っていた縄が、まるで霞に溶けていったかのように消えた。少年はその状況に驚愕し、困惑する。そんな彼をよそに、彼女は少年の短い脚を掴み、股を開かせ、小さな魔羅を露わにする。

「体も魔羅も愛いのぅ。じゃが、それが好い」

 彼女も着ていた装束を霞の中に消し、裸となる。そして少年の魔羅を、乗るようにして自分の陰部へと挿し込む。そして何度も少年を輿の床に押し付けるように激しく腰を振る。口は塞がれていても、少年の鼻からは荒い呼吸が出てきてしまう。

「どうじゃっ? 気持ち良いかっ?」

 そう問いかける彼女の息も、少し荒かった。そして彼女は段々と腰を振る勢いを激しくさせ、

「んんぅっ……!」

 という喘ぎ声と共に絶頂する。彼女は掴んでいた少年の脚を放し、彼を見る——初めて出会う妖、初めての恐怖、初めての性行為——様々な初めてを同時に経験した少年は、まるで目を開いたまま意識を失ったかのように倒れていた。

「この続きはまた後で、じゃな」

 そう言うと彼女は自身の装束を霞の中から出現させて身に纏う。そして裸の少年を抱き上げ、彼諸共彼女は霞の中へと消えていった。


 霞姫は山奥に豪邸を築いていた。支配下にある人間達に屋敷を造らせ、己の直接的な支配下に置かれている妖や人間の大人、子供などを奴隷のように酷使している。

 一部の強力な妖は、例えば人がするように武力で地域や村落とそこに住む人々を支配するだけで無く、相手に紋章を与えて洗脳し、直接的に支配することもできる。それに抗うには強い力や意思などが必要で、故に非力な妖や人間達は強力な妖に洗脳されがちである。

 今日も今日とて霞姫は豪勢な生活を送っていた。酒に溺れ、大好物の数の子を喰らい、献上されて洗脳された少年達が裸で踊っている光景を楽しんでいる。

「ふふ、酒を呑み、数の子を喰らいながら眺める踊りは格別よのぅ」

 そう言って、彼女は口の中に皿一杯に盛られた数の子を次々と運んでいく。口の中で数回咀嚼し、酒と共に飲み込み、また口へと運んで咀嚼し——これをずっと繰り返している。

 彼女がこの地域を支配して初めて献上された食料の一つが数の子であったが、彼女はそれを酷く気に入り、献上品として大量の数の子を要求するようになった。その結果、この地域から鰊が消えかけてしまった。

「しかし、このままだと数の子が献上できなくなる、と言われたな……であれば、あ奴等が孕んで数の子を作れば良いだけのことであろう」

 彼女にとっては由々しき事態であるが、酔った勢いもあって彼女はそう冗談を言って微笑んだ——流石に人の体に卵を孕ませるようなことはせずとも、そのような勢いでこの事態に人々が対処しないのであれば、最悪の場合彼女はこの地域を滅ぼすと考えているからだ。

 そうして数の子を食べ続けているうちに彼女は満腹となった。彼女は洗脳した少年を呼び、僅かに数の子が残された皿を指して言う。

「ほれ、この余った数の子を持っていけぃ。妾は今気分が良い。特別に、その数の子をうぬらに喰わせてやろう」

 そう命令すると少年は皿を手に取り、部屋を出ていった。

「げに楽しき生活よ。生まれ持った力で人を支配すれば、食べ物も奴隷も楽に入手できてしまう。やはり、この生活はやめられない」

 彼女は笑みを零しつつそう言い、畳の上に横たわった。酒を呑み、たらふく数の子を食べたことで眠くなった彼女の瞼は重く、閉じては開いてを繰り返し——

 建物の一部が吹き飛ばされた音が、彼女の耳をつんざいた。突然の爆音に、重かった瞼は一気に軽くなり、彼女の眠気が消える。焦った表情で立ち上がり——

「っがはぁっ!?」

 彼女の体に、投げられた槍が突き刺さった。力を振り絞って体を霞にして逃げようとするが、次々と槍が突き刺さり、力が抜けていって気を失ってしまった。


 目が覚めると、彼女は洞窟の中にいた。服は脱がされ、天井から生えているような触手に体を拘束されて吊られ、洞窟の中に流れてきた海水が彼女の真下にある。

 霞と化して脱出をしようと力を込め——

「ぐぅっ……!?」

 それに反応した何十本もの触手が、先端から針を出して彼女の体に突き刺し、力を吸い取る。それによって霞と化すことができなくなってしまった彼女は、ただじたばたと体を動かすことしかできなかった。

「こんな、触手如きにっ……!」

 そうしているうちに、洞窟の奥から人と魚が合わさったような筋骨隆々の妖がやってきた。彼女は彼らを睨んで問う。

「ここはどこじゃ……!? うぬらの狙いはなんじゃ……!?」

 そう聞かれ、一方の魚の妖が片言の日本語で答える。

「ここ、おれたち、すみか。おれたち、にんげん、きょうりょく。おれたち、にんげん、おまえ、たおす」

「斯様なことはどうでもよい……! 何故妾をここに連れてきて、こうも拘束しておるのじゃ……!?」

 求められた答えを得られず、彼女は痛みを堪えつつも鬼の形相で怒鳴った。

「にしん、いない。おまえ、たまご、くう。おまえ、わるい。おまえ、たまご、うむ」

「た、卵を産む……!?」

 突然放たれたその言葉に、彼女は驚愕と困惑の言葉を叫んでしまった。

「待て! 魚でも無い妾が魚の卵など——」

 そう叫ぶ彼女の口を、魚の妖が塞ぐように接吻し、舌を入れる。

「んぅ!? んぐぅぅ!?」

 じたばたと体を動かすも、彼女は抵抗ができない。無理矢理ねじ込まれた、潮の香りと味がするその舌に彼女は吐き気を催して涙を流す。そんな彼女の額には、魚の目のような紋章が浮かび上がった。目に見えずとも、体が言うことを聞かなくなったことでそれを察する。彼女はじたばたと体を動かすことすら難しい。

 触手が拘束している彼女の体の位置を下げ、魚の妖達に尻と陰部を向けさせる。そして何が起こるかを察した彼女はぽろぽろと涙を流して懇願する。

「嫌じゃ嫌じゃ! 数の子など孕みとうない! そも妾は魚では——ふぐぅっ!?」

 魚の妖の魔羅が彼女の陰部にねじ込まれる。口で抵抗しようとも、懇願しようとも、拘束され洗脳されかけた彼女はそれを受け入れざるを得なかった。魚の妖は獣のように激しく腰を振り、彼女を腹の中から突き上げる。

「お゛っ!? ふっ!? ん゛っ!?」

 魔羅によって突き上げられるのと同時に汚い喘ぎ声を零す。何十回も腰を振られ、突き上げられ——そして互いに絶頂した。桶一杯分はあるのではないかと思わせる程の腎水が魔羅から飛び出し、彼女の腹と陰部を満たす。

「お゛ぉ……」

 事が終わって魔羅が引き抜かれると同時に、魂が抜けたかのような声を彼女は零した。この一連の出来事に、彼女の意思は砕かれてしまった。しかし元々力ある妖だったせいで洗脳しきれず、それを快楽だと感じずに苦しんでしまった。

「もう……嫌……じゃぁ……」

 苦しみ嘆く彼女を、触手は水面の上へと運び、魚の妖達は洞窟の奥へと消えていった。


 その後はというと、彼女は何日も何日も激しい痛みと苦しみに襲われていた。

 魚の卵を孕ませる為に、彼女の陰部は形を変えていった。陰部の中、奥にあるべきものが激痛を伴いながら蠢き、露わとなる。それは日に日に膨張していき、巨大な卵巣を形成した。

「もう嫌じゃぁ……誰か、妾を殺してくれぃ……」

 そう力無く懇願するも、その声に応える者はいない。力が吸い取られている為脱出することも自殺することもできず、そもそも半ば洗脳されている為体が言うことを聞かず、また体に突き刺された触手からは栄養が送られてくる為、死ぬことは無い。

 その力無い声と激痛による叫びが何日も洞窟中に響き——そして、何日が経過しただろう。

 卵巣は丸まった大人が余裕で入れる程の大きさとなった。触手に支えられている為問題は無いが、その重さは自重で引き千切れてしまう程である。

 卵巣の先端がひくひくと蠢き、彼女はこれから何が起こるか察する。

「い、嫌——あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛————————————————っっっ!!!」

 激しい痛みと共に卵巣が動き、その先端部分が開き、その中にあったものがぼちゃぼちゃぼちゃと海へ落ちていく。

 少し経って排出し終わり、中に何も無くなった卵巣はまるで尻尾のようにぶらんと伸びている。

「こ、これで終わ——」

 そう安堵した瞬間であった。触手が再び動き、彼女の体を運んだ。彼女は何とか首を動かして運ばれる方を見遣り——そこに、魚の妖達がいるのが見えた。彼女を運んでいた触手が止まり、それと同時に妖達が迫ってくる。

「も、もう嫌じゃ……卵など、数の子など……」

 涙を流しながら力無く呟く彼女。そんな彼女をよそに魚の妖達は卵巣を掴み、魔羅を一気に何本もねじ込み、そしてまた孕ませるのであった。

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妖の長、海へと堕つ 粟沿曼珠 @ManjuAwazoi

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