第2話-② 言葉にするなら、今日が人生の転換期。

 気まずい沈黙に耐え切れず、俺はこの場から立ち去ることを選んだ。


 「ご、ごめんね?見なかったことにするから、じゃあ俺はこれで」


 俺のラブドールのことも彼女は触れないでいてくれたわけだし、俺もここはスルーを...

 

 「...待って」


 鋭いその声は俺の心臓を掴むようで、思わず身体が硬直してしまう。


 「な、何かな?」


 「まぁ、とりあえずこっち来て座んなよ」


 いつもとは違う、妙に威圧的な声色が耳に触れる。


 言われるがまま、俺は音霧さんの目の前に座るが、彼女の目を見ることができない。


 「...どう思った?」


 「...え?」


 「だから、私がこんなことしててどう思ったかって聞いてるの。幻滅した?」


 「いや、別にそんなことは」


 「建前は求めてないんだよねー」


 顔は見れないけど怖い、音霧さん怖いって。


 「い、意外だなぁとはお、思いました」


 本能的に敬語に切り替わってしまう。


 「ふーん、そう。ま、いっか。最近マンネリ気味だったし、丁度いいや」


 「え?」


 「私、忍崎くんに二つくらいお願いがあるんだけど...いいよね?」


 恐る恐る彼女の顔を見てみれば、普段通りの優しい笑顔をしていた。


 普段通り、そのはずなのに空気は威圧的で圧迫感を孕んだままだった。


 「一つ目は、今見たことは誰にも言わないでほしいんだ」


 「あ、それは大丈夫!い、言わないつもりだったし最初から!」


 焦っているのか何故か倒置法を使ってしまった。


 「そう?じゃあ二つ目。私の...趣味?に付き合って欲しいんだ」


 「し、趣味とは?」


 「私がさっきやってたことだよ」


 音霧さんがやってたこと...?


 「い、飲酒はちょっと...」


 「あぁ、そうじゃないそうじゃない笑」


 違うのかよ。


 「言葉足らずだったね。私ね、色んな『やってみたいこと』をやってる。今まではさ、一人でできることしかやってこなかったんだ〜」


 「は、はぁ」


 「こうやって学校で隠れてお酒飲んでみたり、お父さんのタバコくすねて吸ってみたりさ」


 「は、犯罪の手助けをしろってこと?」


 「あぁ、違う違う笑」


 違うのかよ...いや、ってか何も違わないだろ。


 「別に悪いことばっかしようってわけじゃないんだよ。文字通り私がやってみたいことをやるだけ」


 「例えば誰かの悩み事を聞いてそれを解決したり、学校で噂の人気者になってみたり、そういうのも含めて私がやりたいことをやるの」


 「でもね、一人じゃ限界ってものがあるじゃん?だからそれを忍崎くんに手伝って欲しいんだ」


 『何で俺が』なんて分かりきった問いが口から出ることはない。


 理由は単純、俺が彼女の秘密を知ってしまったからだ。


 「まさか断るだなんてことはないよね?忍崎ラブドールくん?」


 それは禁止カードだろ...俺、何も言えなくなるじゃんか。


 てかここで触れてくるのかよ。


 「わ、分かった、手伝うよ」


 「うん、忍崎くんならそう言ってくれると思ったよ!じゃあ、今日からよろしくね?」


 そう、この薄暗くて埃っぽい部屋の中で、俺と音霧愛清の日常が始まったのだ。


 「...忍崎守しのざきまもるくん」


 小中高と同じだったから、もうかれこれ10年以上は彼女の色んな顔を見てきた。


 深く関わったことはないが、彼女と言う存在は俺の中で色濃く印象に残っている。


 なのに、こんな彼女は初めて見た。


 今まで見てきた彼女のどれよりも魅力的で、蠱惑的だったのを鮮明に覚えている。

 

 綺麗な髪を風に靡かせながら、ニヤリと微笑む彼女に、俺は魅了されてしまったのだ。

 

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僕にも君にも、秘密がある。 @DANTSU1tt

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