第4話


コウside



恐ろしい声が聞こえて恐る恐る視線をあげると、そこには俺でも見上げるほどの大男…いや大人魚が波打ち際に立っていた。



M「大王魚様…この人は…」


「お前はもう人魚じゃない…人間だ。」


M「え?」


「そのネックレスの貝殻には秘密がある。その貝殻に相思相愛の人間が涙を落とし強く願いを込めると願いが叶うと言われている。そのネックレスにそやつの涙が落ちた時…マリンは何を願った?」



大王魚様がマリンさんにそう問いかけると…



マリンさんの目からはまるで真珠のような涙がこぼれ落ち、俺のことを見つめた。



M「人間になりこの人に…コウに愛されたいと願いました…」



俺はそれを聞いて震えながら涙を流す。



「その願いが叶ったと言うことはそやつはマリンを愛し…マリンもそやつを愛してるという事だな?」


K「はい…心から愛してます。」


M「私も…コウを愛してる。」



俺たちがそう愛の言葉を交わすと大王魚様はキラキラと光る杖を出し、勢いよく振るとマリンさんの前に綺麗なマリン模様のワンピースが出てきた。



「明日の朝にはここに助けが来るようにしてある。マリンはその服に着替えて2人で朝を待つんだ。分かったな?コウ…マリンを頼んだよ。」


M「大王魚様…ありがとうございます…」


「あぁ…たまには海へ遊びに来い。人魚伝説のこの海へ…」



そう言って大王魚様は海にいた人魚達と一緒に海の底深くへと帰っていった。



そして、俺たちは着替えを持ちマリンさんが言っていた島の奥にある民家へと向かった。



古びた民家は屋根が朽ち果てて落ち、夜風をなんとか凌げる状態だった。



寒さから身を寄せ合うようにして寝転がった俺たちは自然に身体が触れ合い、唇を寄せ合うと自然と互いの手が相手の体に伸びる。



次第に荒く激しくなる呼吸は身体を火照らせ寒さを忘れさせてくれた。



K「マリンさん俺…」


M「…抱いて…」



そして、俺たちは月が見守るなか口付けを交わし、互いの体力が尽きるまで身体を重ね合わせた。



眩しい光で目を覚ますと横で眠っていたはずのマリンさんがいなくて俺は飛び起きた。



慌てて周りを探しても姿は見当たらなくて俺の不安が募る。



あれは幻だった?


それとも幻覚?



いやまさか…俺の知らない間に泡になって消えてしまった?



不安に押しつぶされそうになりなが砂浜に走って行くと…



そこには、岩に腰掛けて歌をうたいながら海水で髪を洗うマリンさんがいて俺はホッと胸を撫で下ろす。



K「マリンさん。」



俺がそう呼び掛ければニコッと微笑み、手を振って自らの足で岩を降り走って飛びつく可愛い俺の人魚姫。



K「急にいなくなるからびっくりした。」


M「ごめん。助けが来る前に髪の毛の寝癖直しておきたかったの。」



マリンさんはそう言いながら俺の寝癖を手ぐしでなおしてくれた。



すると、少し離れた海の向こう側から船が見えた。



M「助けが来たね…ねぇコウ…本当に私も一緒に行ってもいいの?コウの住む世界に……」



目を潤ませてそう問いかけるマリンさん。



俺がそばにいて欲しいのに…



俺はその言葉にキスで返事をし頷くと、マリンさんと手を繋ぎ波打ち際まできた船に2人で乗った。



そこには心配そうな顔をしたニヒトくんとヨシくんがいた。



N「コウ!!めちゃくちゃ心配したんだからな!!無事でよかった…」


Y「ほんと無事でよかった…で?この美人さんは…誰?」



ヨシくんは不思議そうな顔をしてマリンさんをマジマジと見つめた。



K「この人は俺の…人魚姫です。」



そうドヤ顔で言った俺はこのあと半年間ほどずっと…



ニヒトくんとヨシくんに「この人は俺の人魚姫です」とネタにされつづけ、酒のつまみとして二人は楽しそうに酒を飲んでいた。




そして…



1年後



M「久しぶりに海に潜るから緊張する。」


K「俺も緊張する…」



俺たちが出会ったマリンの生まれた海。



その海は昔から言い伝えとして人魚姫の伝説がある海だった。



そして、俺たちは久しぶりにその海へと訪れウェットスーツを着てボンベを背負う。



M「ここは私の自慢の海…珊瑚がダンスをして魚達が歌うそんな海なの…だからコウにもその海の美しさをこの綺麗な目で見てほしい。」


K「行こう…」



俺たちは2人手を繋ぎ、ボンベを咥え仲良く海の底へと潜っていく。



ぼんやりとした意識のまま見た海の中の風景はどこか仄暗くて恐怖心しか無かったが…



今、俺の瞳に映る海の中はまるで宝石箱の中に迷い込んでしまったかのようにキラキラと輝いていた。



マリンはあの時のような優雅に泳ぐ人魚姫の姿ではなくなってしまったけど…



俺の横で幸せそうに手を繋ぎ海の中を案内してくれる。



時折、魚達に手を伸ばし会話をするマリンのその姿はとても美しく幻想的で…



自由に身体をくねらせながら泳ぐその姿は俺の目には人魚姫にしか見えなかった。



上を見上げれば太陽の光が海に差し込み、俺たちを照らし出しまるでバージンロードのようだ。



そして、俺たちは見つめ合うとどちからともなくボンベを口から外し、お互いの唇を塞ぎキスをし酸素を送り合った。



幼き頃、初めてキスを交わしたこの海で…



ふたりの永遠の愛を誓い合うように…



M「もう溺れちゃダメだよ?助けてくれる人魚姫はもういないんだから。」


K「あれはわざと溺れたんだよ?愛するマリンと出会うために……」


M「バカ…でも好き。」



砂浜に座りふたり寄り添いながら夕日の沈む海を見つめ、俺たちは幸せな時間を過ごす。



首にはお揃いの貝殻のネックレスが光っていて、俺たちが寄り添うたびにキラキラと光り揺れている。



子供の頃に読んだおとぎ話の人魚姫はとても悲しい物語だったけど…



横にいる俺の可愛い人魚姫の物語は…



とても幸せなお話となりました。



おしまい

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

人魚姫の伝説 樺純 @kasumi_sou_happiness

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ