第3話

マリンside



少し腫れた私の唇は彼と短い時間で交わした愛の証。



彼は私が生まれたままの姿だということに気づくと、自分のパーカーとTシャツを脱ぎ捨て、私にTシャツを着せてパーカーを腰に巻いた。



そして彼はまた、私の唇に甘いキスを落とす。



唇が離れる僅かな合間に交わされる会話は、私が今までに経験した事がないほど甘く切なかった。



K「あの日からずっとマリンさんのこと忘れられなかった。」


M「私も…」


K「マリンさんが2度も俺を助けてくれた…俺の大切な命の恩人…」


M「そんな事ないよ…」



そしてまた繰り返される口付けは更に深さを増し、どちらの唇なのか分からないほど交わり合い、いつしか空の色が青から茜色に染まるまで続いた。



太陽が完全に沈み



月が姿を表すと寒さを感じはじめカタカタと体が震えだす。



海にいる時は感じたことない感覚に私は少しの恐怖を覚えた。



そして月の明るさが私に残されている時間を示し、私をギュッと包み込んでいる彼からそっと離れた。



M「コウ…この島は昔、人が住んでたの。あの道を真っ直ぐいけば建物があるわ。そこだと冷たい夜風を凌げるから朝までそこで過ごして…きっと朝になれば助けが来てくれる…」



私はそう言って彼の頬を撫で、軽くチュッと唇を重ね彼の背中を押すが、彼は不安そうな目をして私の腕を掴み見つめる。



K「マリンさんは…マリンさんは一緒じゃないの?」


M「私はもう…行かなきゃ…早くあっちの建物に行って。」


K「やだよ…やっと会えたのに…また離れ離れになるの!?マリンさんも一緒じゃなきゃ俺は…」


M「お願い!!!!お願いだから…早く行って!!!!」



私がそう叫ぶと海がザワザワと騒がしくなり、思わず私は波打ち際を振り返ると、そこには人魚のお姉さんたちが貝殻の鋭いナイフを持って姿を現そうとしていた。



M「コウ早く!!早く逃げて!!」



波打ち際を見たコウは私の言葉の意味に気づき、私越しに海から上がってこようとする人魚のお姉さんたちをみて怯えた顔をしている。



K「マリンさんも逃げよ!!一緒に逃げ…」


M「それは…出来ないよ…私はもう泡になって消えちゃうから……」



それがこの海の掟。



人間に人魚だとバレた人魚は月の光が1番強くなる0時に泡となり消えてしまう。



しかし…



人魚だとバレた人間の胸を刺し、その人間の心臓から流れる血液を私の足に塗れば人魚に戻れるのだ。



そう…コウの命を引き換えにしなければ私は人魚に戻ることは出来きず、泡となって消えてしまうのだ。



それを知っている人魚のお姉さんたちは私の命を守るためにコウを狙い幾つものナイフの先を向けている。



でも、私はそんなことは望まない。



コウの命と引き換えに私が生きるくらいなら…



私が泡になって消えたほう幸せなの。



今までずっと…



彼だけを想い続けてきたのだから。



K「泡になって…消えちゃうの?」


M「そう…だから早く逃げて…大人になったコウとまた会えて幸せだった…ありがとう。」



私がそういうと私の身体がフワッと光り半透明になり、水の泡が身体中にあらわれはじめた。



それに怯えたコウは私のことをギュッと抱きしめる。



私たちの身体は微かに震えていて、それは寒さで震えているのか、それともお互いの事を想い震えてるのか考える余裕のないほど追い詰められていた。



K「やだよ…いかないで…お願い。なんで泡になって消えちゃうの?やっと会えたのに消えちゃうなんて…やだよ…ねぇマリンさん…好きだよ…あの日からずっと俺は幻覚かもしれないマリンさんのことを愛してたんだよ…」



コウはそう言うと涙をポロポロと流しながら私の頬を両手で包み込み、溶けてしまいそうなキスをした。



私にキスをした弾みでコウの涙が私の鎖骨を伝い落ち、胸元の貝殻のネックレスにぽたぽたと落ちていく。



どんなに胸を押しても私から離れないコウ…



このままだと本当に人魚のお姉さん達に刺し殺させれしまうのに…



そう私が思った瞬間…



私の付けていた貝殻のネックレスから強い光が放たれ、私の全身を水しぶきように包み込んだ。



その光の強さでコウは私から吹き飛ばされ、人魚のお姉さんたちは後退りしながら驚いた顔をして私を見つめる。



自分の身体がどうなってるのかわからない。



手のひらを出して見てみると強い光の中、半透明になり水泡が出来ていた私の体がみるみるうちに血色を取り戻し、人間の姿へと戻っていく。



すると、眩しいくらいだった強い光は一瞬にして消え、闇のように真っ暗となった。



砂浜では月明かりだけが優しく私たちを照らし出す。



K「なに…が起きたんだ…?」


M「分からない…でも私…泡になって消えてないよね…?」


K「消えてない…ここにいる…」



驚いていたコウは立ち上がると涙を流しながら私の元に駆け寄り、私を抱きしめた。



「そやつがマリンを人間にした男か?」



泡になって消えずに済んだ喜びをコウの胸の中で噛み締めていると、後ろから威圧的な声が聞こえて思わず私は固まった。



つづく

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