第2話

人魚姫side



私たちは人魚は15歳になると成人人魚とみなされ、年に1度だけ自分の望んだ日に人間の姿になり人間の世界へと行ける。



まだ10歳だった私は人間界の話を人魚のお姉さんたちから聞くのが大好きで、15歳になるのことをずっと心待ちにしていた。



そんなある日



海の中で歌をうたいながら泳いでいると、私の目の前に私よりも少し小さな男の子がユラユラと力なく海底へと沈んでいった。



私は思わず尾びれを動かし、男の子の元へと泳いで向かう。



空な目をした男の子はあまりにも可愛らしい顔をしていて、私の胸がドキンっと跳ねた。



ゆっくりと男の子を抱きかかえ私は彼の耳元で



「大丈夫だよ…もうここには来ちゃダメ…」



そう呟き、彼の唇を塞いで彼の身体に空気を送ると、私の心臓が壊れてしまうんじゃないかと思うほど暴れだす。



何度も彼の唇を塞ぎ、彼の身体に空気を送りながら私は彼を抱きかかえ泳ぐと…



砂浜で楽しむ人たちの目を盗んで彼を波打ち際の砂浜にそっと寝かせた。



「……バイバイ……」



意識のない彼の高い鼻を摘み、大きく息を吸い込んで彼の唇を塞ぎ空気を送り込むと、彼は身体を跳ねさせ咳き込み水を吐き出した。



私はそんな彼を見届けると海の中へと戻った。



あれから何年の月日が流れたのだろう…?



私はとっくの昔に15歳を過ぎたのに未だに人間界には行った事がない。



それは人間界に行ってしまうと彼と再会しまうのではないかという恐怖があったから。



彼と会いたくない?



ううん…それは違う。



あの日…



私が彼を助けたあの日から私の胸は彼に恋焦がれ、彼の事でいっぱいに埋め尽くされてしまったから。



きっと…



人間の姿になって人間界に行き彼を見つけてしまったら私はもう…



この大好きな海に戻る事が苦痛になってしまうだろう。



私の心の中で育った彼の大人の姿。



あの男の子は今どんな大人の姿になっているのだろう?



私はそんな彼の姿を思い描きながら、今日も海の中で優雅に歌いながら魚達と一緒に泳ぐ。



すると…



私の目の前にあの日と全く同じ光景が映し出された。



あれは…?え…うそ……



ひと目で彼だと分かった私はあまりの動揺に心臓が早く動き出す。



気づけば尾びれを思いっきり使い一心不乱に彼の元へと泳いでいた。



海底に落ちてゆく彼の身体を受け止めると…



私よりもはるかに大きくなった身体に想像通り可愛らしく整った顔立ちに育った彼の姿に胸が躍る。



彼と同じ場所にあるホクロを見つけて私は思わず涙が溢れた。



「会いたかった」



そう呟くと私は彼の唇を塞いで彼の身体の中に空気を送り込む。



しかし、ここはあの時とは違いだいぶ沖にまで来ていて、きっと砂浜にたどり着くまえに彼は息絶えてしまうだろう。



そう考えた私は仕方なく私は近くにある小さな無人島へと彼を運んだ。



砂浜にそっと寝かせた彼はピクリとも動かず、私は頭がパニックになり微かに震え出す。



そして、私は初めて首につけてある貝殻にキスをし、人魚から人間の姿に変身すると彼の唇を塞ぎ人工呼吸と心臓マッサージを夢中でした。



涙が溢れ出しながら必死で続けていると、突然彼の身体がビクッと跳ね上がり彼は大きく咳き込むと、水を吐き出した。



良かった…戻った…



少し安心した私は彼の身体を横にして背中をさすり水を全て吐き出させた。



「大丈夫…大丈夫だからゆっくり息して…」


K「ゴホッゴホッゴホッ……」



意識がしっかりしてきた彼は大きく息を吸い込むと、横にいた私の顔をじーっと見つめ、そっと私の頬に手を伸ばした。



K「…これは…夢?」


「夢じゃないよ…?」


K「会いたかった…ずっとずっと会いたかった…僕の人魚姫……」



私は彼が言ったその言葉に凍りついた。



人魚姫…



彼の言っている事は間違ってはいない。



実際、私は半分が魚で半分が人間の人魚だから。



しかし、今は人魚の姿ではなく人間の姿で…



彼に人魚の姿を見せていなのになぜ…



彼は私が人魚だということが分かってしまったのだろう…私は彼の顔を見つめながら戸惑い硬直したまま動けない。



成人の人魚になると年に一度だけ人間の姿になる事を許されている人魚たち。



しかし、それには絶対に破ってはいけない掟があったのだ。



そう…それは…



人間には絶対、人魚だという事がバレてはいけない。っと…



なのに私はたった数分で彼に人魚だとバレてしまった。



どうすればいいのか分からず、思わず私がたじろぎ彼に背を向けると、彼は私の手をギュッと握り私を振り向かせる。



K「あなたの名前は?」


「わ…私の名前は…マリン…あなたの名前は?」


K「俺の名前はコウ。マリンさん…俺のこと覚えてますか?」



その問いかけに私はコクンと頷くと彼は私をギュッと抱きしめた。 



まさか…彼は…



数年前、私が助けたことを覚えていたのだろうか?



素肌が擦れ合い、ピトっと密着するその感覚に私はドキドキと胸を躍らす反面、タイムリミットが迫っている切なさで胸が痛む。



少し、彼の胸を遠慮気味に押してみても、彼は私から離れようとはせず、ずっと私を抱きしめて背中を撫でる。



その心地よさからつい、彼の背中に手を伸ばしかけて私はやめた。



この海の掟を破ってしまった私にはもう…



明日は無いのだから。



K「マリンさんは俺のこと…抱きしめ返してくれないんですね?」



彼はそう言いながら私から離れて少し悲しそうな顔をしながら私の顔を覗き込む彼。



彼は何度も何度も私の頬に触れて、キラキラと光る水面のような瞳で私を見つめる。



その瞳があまりにも美しくて吸い込まれてしまいそうになり、私が思わず視線を逸らすと…



彼は私の唇を掬い上げるようにして塞いだ。



はじめて味わう温もりにピクンっと跳ねた私の身体を彼はギュッと包み込むように抱き寄せ、唇の角度を変えると舌先で私の唇をなぞるように舐め私の舌に絡ませた。



ドキ…ドキ…ドキ…



全身で脈を打つ私の心は正直で、未来のない彼とのこの行為に無理やり意味をこじ付けて、彼との時間を意味あるものにしようとしてしまっている。



無意識に彼の首に手を回せば、彼は私を砂浜に押し倒し、私たちは砂浜に寝転がり波の音に耳を傾けながら、私たちは愛の囁きよりも先に夢中で口付けを交わした。



つづく

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