第75話EP、祝福と為す。

「うわ、もう修正されてら」


三日後、俺がやった即席イカサマダイスを作る技はあっという間に修正されていた。

それによるとどうやらスキルエフェクトの形が同じものを引き継がず、毎度新規のものを参照するようになったようだ。

もし同じことをやろうとするなら、スキルを使用してダイスを掌から放すリミット十秒の間にどうにかして形を変えなければならないわけだ。

敵にデバフをかけてピラーで即死しない程度の威力まで落とすとかすればできなくはない、のかなぁ……? まぁ相当準備がいりそうだし、事実上無理になったとだと考えるべきいいだろう。


余談だが掲示板では祭りになっていた。

俺がやったイカサマダイス作りが何故か時期を同じくして広まったらしく、フレイムピラーが使えるサラマンドラフォークが一夜にして高騰したのだ。

しかしすぐに修正されてしまった為、高値でサラマンドラフォークを買った人たちやガチャでギャンブラーを引いた人たちが怒り狂ったのである。


「普通に考えればすぐ修正されるなんて分かりきってたことなのに、そんなので炎上するなんて運営の人たちが可哀想だ……コジロウさんだっけ。ゲームの運営は大変って言うし、寝不足とかになってないといいけど」


それにしても不思議なのはどうして俺がイカサマダイスを使った次の日に、もうその作り方が知れ渡っていたかだ。

幾らなんでも偶然とは考えにくい。奈落でここまで足を伸ばしているプレイヤーは俺くらいしかいないし、見られたわけではないだろう。一体……?


「ハッ、そうか! 俺のプレイを見ていた運営がプライベートで真似をして、それを他のプレイヤーが真似したんだ!」


俺のプレイが見えるのは運営だけ。そしてプレイヤーの多い大陸なら広まるのもあっという間だろう。

うーむ、我ながら完璧な推理である。

それなら運営が叩かれていることも納得だな。同情して損したよ。


「神谷くん! そろそろ出番だぞ」

「竜崎さん、すぐ行きます」


慌ててスマホを置いて控え室からステージへ。

そう、ここはライブ会場。今日は俺のデビューコンサートなのである。

ステージに出ると眼下には沢山の人が集まっていた。もちろん俺は前座であり、お客さんの目的は俺の後に控えている有名グループなのはわかりきっている。

それでも俺みたいな陰キャに視線を向けてくれるだなんて、お客さんを精一杯楽しませないとな。


「よろしくお願いしまーーーす!」


精一杯挨拶をし、俺は曲を歌い始めるのだった。



「おう、お疲れ。よかったぜ。初舞台なのに見事なもんよ!」


汗だくになってステージから降りてきた俺を、竜崎さんが出迎える。


「ありがとうございます。緊張はしてましたけど、上手く出来て良かったですよ」

「ほう、その割にはかなりのキレだったぜ。本番に強いタイプかな?」


オルオンで吟遊詩人やってたからかなぁ。

魔術大会で降り注ぐ魔法の中を踊ってたことを考えれば、何の障害物もない中を踊るくらい大したことはない。


「客の反応も上々! こりゃあパズるぜ! 忙しくなるから覚悟しとけよ!」

「ははは……でもあの事件のこと、広まってなくてよかったですね」


あの事件ーー数日前、俺が両親を殴ったこと。そのあと警察に連れて行かれたこと。両親に前科がついたこと……とコンサート前に色々問題を起こしてしまい、今日も炎上しないかとハラハラしていたのだ。


「両親は捕まるまで家で自由にしていたし、恨みも買っていたようだったし何か起こるかもとは思ってましたけど……」

「我々も何かが起きた場合すぐ対応できるようにしていたが、何も起きなくてよかったよ」

「えぇ、本当に」


実はあれから何度かエゴサしていたが、何度か俺の情報が漏れていたことはあった。

書き込みの時期からして二人が暇つぶしに行っていたのだろう。

しかし火消しとでも言うべきか、何者かが動いていた影は感じられた。

てっきり竜崎さんかと思っていたのだが……なら一体何者なのだろうか?



「ああっ! また神谷優斗への誹謗中傷が書き込まれているっ! ふざけおって馬鹿者がーっ! 通報! 通報」


それを行っていたのは以前小鳥遊のストーカーをしていた男、マコトであった。

あれ以来すっかり優斗の追っかけになっていた彼は、ネットでの書き込みを見つけては削除するよう働きかけていたのである。

なお、本人曰く別にファンとかではないらしい。


「コラ! うるさいわよマコト!」

「はーい、わかってるよ!」


そう返事をしながら、マコトは今日もパソコンに向かうのだった。



ともあれ、デビューコンサートは概ね成功で終わったらしい。

竜崎さん曰く『あまり調子に乗りすぎないで欲しいが、新人としては百年に一度レベルの大成功だった』とのことだ。

心配しなくても流石にそこまで言われて言葉通りには受け取らない。

即ち『新人としてはまぁまぁ』くらいの評価と考えるべきだろう。

他の新人がどれくらいかはわからないが、俺みたいな陰キャにしてみれば上出来だろう。

それにしても本当に人を乗せるのが上手い人だよなぁ。


「それにしてもなんだか最近、人に見られることが増えてきた気がしなくもない……かな?」


街を歩いていると俺を見て指差している人をちらほら見る気がする。

……いや、気のせいかな。デビュー直後の俺の知名度なんかないに等しいだろう。

エゴサしたらちょいちょい名前は出ているっぽいけど、ネットに書かれていることを鵜呑みにするのは良くないのはネット民なら誰でも知っていることだ。

俺が知ってるアイドルとかはテレビに毎日出ているような有名くらいだし、テレビにも出たことがない俺を知っている人がそんなに多くいるはずがない。うんうん。


「コラ! バカ優斗!」


なんてことを考えていると、ばふっ! と後ろから帽子を被せられる。

振り向いたそこにサングラスまで押し当てられた。

薄暗いグラス越しに映るのは、俺を睨みつける唯架さんだ。


「ボンヤリ街を歩かない! あんた有名人の自覚が足りないわよ!」

「ゆ、唯架さん……?」

「ったく……デビューコンサートの直後、ファンクラブが乱立するくらいの人気だってのが分かってないのかしら。ネットでは百年に一人のイケメンとか言われてるのにさ。今や若い女子で知らない子はいないくらいだっての。……っと、いけないいけない。だからってあまり調子に乗らせないようにって念を押されてたんだった」


……何やらブツブツ言っていたかと思うと、唯架さんは俺の襟首を掴んで目線を合わせ、言う。


「いい? これからは街を歩くときは常にその格好でいること! 私のお古だけど別にいいでしょ」

「そ、そりゃあ構わないけど……」


これ唯架さんのだったんだ。道理でいい匂いがすると思った。


「でもその帽子とサングラス、貸すだけだから。そのうち返して貰うわよ。私だってそのうちあんた以上に有名になって必要になるんだからね!」

「うん、待ってるよ」

「あー! 上からっぽい! もーお父さんに会わせてあげないし、サインも頼んであげないんだから!」

「ええっ!? それはひどいよ唯架さん!」

「あははっ!」


満面の笑みを浮かべて駆け出す唯架さん。

最初はむすっとしていたけど、こんなに可愛く笑う人だったんだな。

アイドルか。最初はどうなることかと思ったけど、案外上手くやれているのだろうか。

そんなことを考えながら夕焼けの街を駆けるのだった。


これにて第二部終了となります。

後半忙しくて中々更新出来なかったですがなんとか完走しました。


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