第74話EP、呪いは転じて
「おおーい、アイテムが大量だぞユートよ!」
「すげぇお宝がいっぱいだぜ!」
グノーシスが消滅したその後には言葉の通り大量のアイテムが落ちている。
高級ポーションや大量の
すぐに鑑定メガネを使用する。
「む、こいつは金剛石の腕輪だな」
DEF、MDFが10も上がる防具だ。
盾が装備できない職業用の防具として使えそうである。
「おおおっ! 更に槍もあるぞ!」
ボスレアの装備は全て熱いが、武器は別格だ。
レアな武器というのは大抵面白い効果を持つものが多いのである。
どんなものだろうとワクワクしながらその真の姿を詳らかにする。
サラマンドラフォーク
ATK190(両手)
属性 火
攻撃時低確率でフレイムピラーが発動。
「うはー、面白そうな武器じゃないか!」
過去シリーズには幾つかこういった魔法武器があったが、どれも『使用時に』という但し書きがあるものばかりだった。
ただ魔法スキルが使えるだけの武器なんて正直あまり使い道がなく、(それ用にステータスを振っているわけでもないのでまともなダメージは出ないからだ)長らくネタ武器扱いされていたのだ。
しかし攻撃時発動となると純粋な火力アップに繋がるから訳が違う。しかもかなりATKが高いし、INTを上げている俺みたいなバランス型とは特に相性がいいはずだ。
今度はこの武器を使える職業をやろうっと。
「……ハッ、待てよ? これでフレイムピラーが出せるなら、イカサマダイス作り放題じゃね?」
ウィキによるとギャンブラーはネタ職扱いされてるし、フレイムピラーもネタスキル扱いされてるからそう簡単にこの組み合わせが見つかるとは思えないが、もし広まったら相当ヤバそうだな覇王羅刹撃の何倍ものダメージをお手軽に叩き出せるんだし、ボスなんか狩り放題である。
俺はゲームを楽しむ為にやっているからこんなズル技を使う気はないが、他のプレイヤーが知ったらとんでもなる気がするが……ま、俺が広めなきゃ他のプレイヤーが知ることはないだろう。うんうん。
誰かが見つけるかもしれないが、その時はその時である。
◆
ーーゲェーッ! ま、マジでオール7出しちまった……運、じゃないよな? さっきのユートさんの発言からして、どうも狙ってやったっぽいけど……?
ーー画像解析班からの情報によると、フレイムピラーでダイスを溶かして歪め、七を出したらしいぞ。てかそんな考えに思い至るとは、ユートさんって一体何者?
ーーこれさこれさ、誰でも真似出来るんじゃね? 一般人でもボス狩り放題! サイコーじゃん!
ーーってもフレイムピラー持ちの魔術師を育てるのはかなり時間がかかるぞ。持ってる奴あんまいないしさ。
ーーとはいえグノーシスは結構狩られてるボスだし、サラマンドラフォークはかなり落ちるしバランス型じゃないと使えないからそこそこ安めで売りに出されてるでしょ。
ーー残念ながらこの情報は既に廃人たちが共有済みだ。取引サイトでサラマンドラフォークの価格は90Mギルにまで釣り上がってるよ。とてもじゃないが買える額ではないね。
ーークソ廃人共ぉぉぉ! 元は1Mで売ってたのに足元見やがってェェェ! 絶対に許さんぞぉぉぉ!
ーーおま、キレすぎだから。引くわ……
ーーそっとしといてやれ。サラマンドラフォーク用の重騎士を育て、ようやく900kまで金を貯めたところだったんだ……
ーーな、南無……
◆
「ん? これは……?」
お宝を拾い集めていると、瓦礫の側に一枚の写真が落ちているのを見つける。
「女の子……?」
黒衣の少女が笑顔で手を振っている写真だ。
横にいるのは破れていて顔が見えないが、母親だろうか。
周りに映った建物から貴族のような雰囲気が伺える。
「それにしてもこの女の子、どこかで見た気が……?」
「お、おい! 見やがれユート!」
色々考えているとギュスターヴに呼ばれる。
今はいいかとアイテムボックスに仕舞って駆け寄る。
鋭い爪で摘み上げているのは小さな金属のカギーー除鍵であった。
「むぅ、それが呪いを解くというカギか……」
レイモンドがゴクリと喉を鳴らす。
元々ここへきた理由は俺たちの呪いを解除する手がかりを探す為である。
しかしその目的はギュスターヴも同じ。
流れで俺たちと共闘することになったとはいえ、本人も早い者勝ちだと言っていたのだし俺たちに声などかけず、さっさと使ってしまえばいいではないか。
何故、さっさと除鍵を使ってしまわないのだろう。
首を傾げているとギュスターヴは神妙な顔で尋ねてくる。
「……いいのかよ。お前らも呪いを解きに来たんだろ? その……俺様に使わせちまってよ」
「お主が言ったのではないか。早い者勝ちだと」
「バッ! そりゃそうかもしれねぇがよ……ガキ相手にがっつくようなみっともねぇ真似ができっかよ! どうしてもって言うなら譲ってやってもいいんだぜ!?」
レイモンドは少し考えて答える。
「……呪いは解きたいが今回ボクは何もしていない。懸命に戦った二人に変わって鍵を使うなど、出来ようはずがなかろう」
「じ、じゃあユートどうなんだ!? 奴はお前が倒したもんだろうがよ!?」
「俺はーー」
モリガンにかけられたこの呪い。
最初はとんでもないものを付けられたと思ったが、そのおかげで出会えた人、変われたこと、得たものだって沢山ある。
今困っているというわけでもないし、順番を譲られてまで使おうとは思わない。少なくとも今はまだ。
「……いいよ俺は。実は呪いってやつと真面目に向き合ってみようと思っててね」
「あァ? どういうこったよ?」
俺にとってこの呪いは楽しいことを運んでくるものでもあった。
そしてゲームは楽しむものだ。
呪いも祝福も、俺にとっては似たようなものかもしれない。
「ともかく今回はギュスターヴ、君に譲るよ」
だからしばらくはこの状況を楽しもうと思っている。
急いで呪いを解く必要はないだろう。だったら優先すべきは功労者であり、それだけ必死に解呪を求めたギュスターヴであろう。
「……じゃあその、いいんだな?」
「いいってば」
何度も念を押しながら、全身に広がった黒縄、その中心である胸元に鍵を差し込む。
それにしてもギュスターヴの元の姿か。一体どんなのだろう。
本人曰く相当ワイルドなイケメンらしいが、一体どんな姿なのだろう。
鍵は溶けるようにして体内へ入っていき、かちりと小さく音が鳴った。
その瞬間、黒い煙が噴出しギュスターヴの全身を覆い隠していく。
「うおおおおおおおおおおっ!」
煙の中から聞こえるのは苦しむような叫び声。
「お、おい大丈夫なのか!? ギュス!」
「が……グァ……!?」
しかし返ってくるのは苦悶の声のみ。
「……やっぱり罠だったのかもしれない」
モリガンにしてみたら呪いを解除する手段をわざわざ自分の目が届かない場所に置いておく理由はない。
やるとすればそれを手に入れようとした獲物が罠にかかり悶え苦しむ様を嘲笑う為、とか。
だとしたら……ギュスターヴがヤバい。
「うおおおおおっ!」
「っ! ユート!? 危険だぞ!」
構うものかと俺は煙の中に突っ込む。
手探りでギュスターヴを探すと……いた!
だがなんてこった。抱きかかえたその身体は恐ろしく小さくなっている。
とにかく抱きかかえて煙の外へ転がり出るとそこにいたのはーー黒い子犬だった。
「な、なんてことだ……」
ようやく呪いが解け元の姿に戻れると思ったのに、まさかこんな姿になってしまうだなんて……やはり罠だったか。モリガンめ。
さぞかし落胆しているのだろう。手足を確認するその背中は小刻みに震えて、悲哀さえ感じさせていた。
「えーとその……大丈夫か……?」
慰めるべく声をかけるがーー
「うおおおおっ! やった! 元の姿に戻れたぞぉぉぉっ!」
「……は?」
立ち上がり声を上げ、全身で喜びを表現するギュスターヴの姿に俺は固まる。
え? 今なんて? この子犬が元の姿と、そう言ったのか?
「よかったではないか。うーむ、見事な毛並みと鋭い目付きよ。ボクが見てきた他のワーウルフと比べてもかなり格好良いのではないか?」
「へっ、だろうが。俺様も自分の美形っぷりにゃ思わず見惚れちまうくれぇだからよ」
うんうんと頷くレイモンドに嬉しそうに話すギュスターヴ。
……ど、どうやらこの姿で問題ないようだな。
しかしこれ、格好いいのか? どちらかといえば可愛い系だと思うのだが。
「どうよユート? 超が付くほどのイケメンだろうが!」
つぶらな瞳でドヤ顔してくるギュスターヴ。
そのあまりに愛らしい表情に思わずニヤけてしまう。
「なんだそのニヤけた顔は! オラァ!」
「あーはは、ごめんごめん」
キャンキャン吠えてくるギュスターヴに謝罪する。
昔飼ってた犬がこんな感じだったなぁ。なんてことを考えては失礼だろうか。
彼は不機嫌そうに背を向け、舌打ちをして言う。
「チッ、相変わらずだらしねぇ奴だぜ。この調子じゃ俺様がついてってやらなきゃダメかなぁ」
「へ?」
「へ? じゃねぇ! テメェらの呪いを解く旅、俺様も付き合ってやるって言ってんだよ!」
レイモンドと顔を見合わせる。
「オイ二人ともなーにノロノロしてんだ! 早く来やがれってんだよ! チクショウ!」
声を荒らげるが今までの迫力はなく、俺は思わず苦笑してしまうのだった。
◆
ーーつつつつつ、ツンデレキターーー!
ーーていうか俺様子犬ってギャップやばいんですが。
ーーカッコいいか……まぁこのゲームの運営、ちょっと美的感覚がおかしいところがあるからな……
ーーそうそう、どう見てもグロ系のモンスターを可愛いペットとして飼ってるNPCがいたりね。最初はギャグだと思ってたんだけど最近マジかもと思い始めている。
ーーうーん、個人的にはギュスたんはあの巨体が良かった。子犬化は違うかな……それはそれとしてハスハスしたい。
ーーケモナー乙。
◆
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