第73話VSグノーシス、後編
◆
――えええええええ!? ギャンブラー!? この場面で!? ……ユートさんとうとうトチ狂ってしまったのか!?
――いや、悪くないかもな。戦闘中のグノーシスとギュスターヴの周囲には魔法が吹き荒れており、近づいて覇王竜虎撃を撃つのはもはや不可能。
――かといって弓手や魔術師で削ろうにもギュスターヴがいつまたやられるかわからない以上、安易な遠距離攻撃はあまりに危険だ。
――なるほどそこでギャンブラースキル、ワールドダイスでオール7を出すことで発動する『レインボースクリーン』は固定で7777777ダメージを叩き出す。グノーシスのHPも減っているし、当たれば倒せるってわけだ。
――当たれば、だろ? あれ成功させたやつ見たことないんだが。
◆
以前、ガチャで出したEX職業ギャンブラー。
ウィキで少し調べたがこいつのスキルを使えばグノーシスの膨大なHPを削り切ることも可能。
問題はこいつで7を揃えること、だな。
ワールドダイス発動により俺の手の中に出現する七つの七面サイコロ。
……まずは一回投げてみるか。
ダイスをぎゅっと握り締め、グノーシスに投げつける。
ばしっ、と乾いた音と共に命中したダイスたちが跳ね返り、地面に転がり数字を残す。
2、3、2、3、7、7、5、並んだ数字と共にグノーシスに与えられるダメージは、1だった。
「何やってんだユートォォォ! このボケェェェ!」
「そうだぞユート! ギュスのやつが真面目に戦っているというのに!」
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ーーあちゃあ、非難轟轟だな。まぁそれもやむなしよ。だってみんな戦ってる中でお遊びプレイしたんだから。
ーー初心者がパーティに混じった時よくやるよなアレ。はっきり言ってやめた方がいい。イラつくから。
ーーしかしこういうヤケクソプレイはらしくないよなぁ。一体何を考えてんだ? ユートさんは。
ーー何か考えがあるかと思ったが、如何にユートさんでもダイスの目まではどうしようもないか。
ーーやはりギャンブラーはネタ職でしかなかったということが証明されたな。残念ながら。
◆
二人の言葉を聞きながら俺は再度、スキルを使用する。
土が付いている……このダイス、さっき投げたのと同じものか。
「これなら……おおっと!?」
すぐ近くに出現したフレイムピラーから飛び退く。
何度か躱してわかったが、こいつは順番に魔法を使う。注意してれば喰らいはしない。
「ユート! またそんなことを! 今はそんな場合では……」
「まぁ見てなって」
本番はこれからである。
「よしいけ! ワールドダイス! ……っと、あちち」
さっきの炎で熱されたダイスをグノーシス目掛け、投げつける。
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ーーあーあー、やっちゃった。何度やってもそう出んよ。確率は7の7乗だぜ。偶然に期待するには薄すぎらぁな。
ーーん? でも今投げたダイス、ちょっと変じゃなかったか?
ーーそうだったっけ? スピンが掛かっていたからよくわからなかったわ。
ーーえ……? み、見てみろ! ダイスの出目を! 7が三つも続いてるぞ!
◆
うん、よし順調だ。
7、7、7、7、7と、いい具合に止まっていくダイスの目に俺は頷く。
「い、一体どうなっているのだ……?」
「ちょっと細工を、ね」
昔、養父の茂典は友人を家に招いてはギャンブルで大勝ちしていた。
そのタネは彼の作り出したイカサマダイスである。
電子レンジで熱することで僅かに形を変え、重心が変えることで特定の出目が出やすくしたイカサマダイス、以前あいつがやっていた作り方を真似てみたのだ。
先刻のフレイムピラーで熱したことでダイスの形は変形し、遠目からでもわかるように歪んでいる。
これだけ重心が傾けばもうほぼほぼ7しか出ない、というわけである。
……それにしてもまさかあいつから得た知識がこんな風に役に立つとは思わなかったが。
どんな経験も役立つことはある、か。父さんが言ってたことは本当だったな。
◆
ーー何ぃぃぃっ!? スキルで作られたダイスを歪ませるなんて、んなこと出来んのぉぉぉ!?
ーー理論上は不可能ではない。スキルで作られたエフェクトはより強いそれで歪めることが出来るからな。
ーーあー、それでフレイムピラーを……しかしスキルで出したダイスが全て同一ものだとよく気付いたね。
ーー魔法スキルを連発してるとわかりやすいよ。障害物などで削れたら、次に出したスキルエフェクトはかなり歪んでいるから。
ーーしかしそんな仕様を悪用してとんでもない使い方を思いついたもんだな……こりゃ即修正だな。
ーーおおっ! 六つ目も7が出た! 後一つで成功だぞ! あと一つ! あと一つ!
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「……マズい」
最後のダイスの回転が終わろうとしているが、その示す値は7ではない。
ここまで来て外してしまうとギュスターヴたちにキレられてしまう。それはいかん。
慌てて使うのはギャンブラースキル『チップショット』。
所持金を1ギル単位で消費し、投げて攻撃するスキルである。
「ていっ!」
チュイン! と弾くような音がして、ダイスが再度回り出す。
……ふぅ、危ない危ない。
そして今度こそ出た目はーー7、であった。
「7、7、7、7、7、7、7、フィーバー! レインボースクリーン! ヲ発動シマス!」
ダイスから響く七つの声、同時に七色の光が立ち上る。
光はゆっくり、しかし徐々に回転速度を上げながらグノーシスに向かっていく。
「うおおお!? な、なんだァ!?」
「離れろギュスターヴ!」
俺の声に慌てて飛び退くギュスターヴ。と、同時に光の柱がグノーシスに直撃するーー
ドガガガガガガッ! と激しい音と共にグノーシスの頭上に7777777のダメージ表示が浮かぶ。
そしてーーどぉん! と土煙を上げ、白い巨体が崩れ落ちた。
「ふぅ、なんとか倒せてよかったな」
それにしてもなんとも不思議な感じである。
発端となったギュスターヴは元々敵だったし、決め手となったイカサマダイスの作り方は憎んでも憎みきれないはずの養父、茂典から覚えたものだ。
人を殴るという考え方、親を殴るという行為、そして実際に殴って得た『何か』、今までの俺にはまるでなかった経験だ。
全てが俺を一回り大きく成長させてくれた気がする。
呪いと祝福というのは裏表なのかもな。それを乗り越えることで新たな成長がある、的な。
「おおーい! 何してんだユートォ! 早く来やがらねーと全部貰っちまうぞォ!」
「すぐ行くよ」
ギュスターヴに呼ばれ、俺は駆け出すのだった。
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「わーお、見ました児島さん。ユートくんてば、ほぼソロでグノーシスをやっちゃいましたよ」
パソコンの並ぶ部屋にて、一人の女がモニターを確認しながら言う。
「うむ、驚いた。見事な状況判断力と反射速度だよ。三浦を倒しただけはあるな」
隣の席では男が同じようにしながら、電子タバコを付けながら答えた。
二人は以前魔術大会で優斗が戦ったミュラーとその上司、コジロウの『中の人』であった。
「しっかしとんでもない仕様の穴を突かれちゃいましたねー。ダイスの変形とか、全然想定してませんでしたわー」
「エフェクト周りは未だにバグが多いからな。そう易々と真似ができることでもないが……一度作れてしまえば何度も使い回せるのは流石にマズい」
「彼、モラルありそうだからやりそうにはないですけどね。ズルしてゲームを楽しむタイプにも見えないですし」
「他のプレイヤーがやらないとは限らんだろう。運営の仕事は不正を取り締まること、だからな」
モラルの悪い行為であっても、出来るとなればやる者は確実に存在する。
やる者が周りにいればモラルのあるプレイヤーもいずれは流される。人は低きに流れてしまうものだ。
故にGMは常に監視の目を光らせておく必要がある。
「っすね……あーあ、ユートくんの配信見ている人多いし、こりゃ相当のプレイヤーに広まっちゃっただろうな。早めに修正しないと」
「ま、プレイヤーが製作者の予想を超えてくるのも、それはそれで製作者冥利に尽きるってもんだろ?」
「うー、でもまたまた徹夜コースにぃぃぃー」
「そりゃま、頑張るしかねぇわな。んじゃ俺は帰るわ。可愛い嫁と子が待ってるんでな」
「鬼畜ーーーっ!」
泣きごとを漏らす三浦を背に、児島は携帯を手に歩き出す。
「それにしてもユート君、か。思った以上に魅せてくれる。ゲームの宣伝に使えばオルオンが跳ねるのは確実だろう。とはいえあそこまでの逸材となると、売り出し方も重要か……ここはあいつに連絡してみるかなぁ。おっと出やがった。もしもしーー」
月夜の下、旧友と話す児島の表情は何とも言えず楽しげに見えた。
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