第72話VSグノーシス、中々編
◆
――足逝ったぁぁぁぁぁぁ!
――覇王竜虎撃は強制部位破壊効果があるからね。リスクはあるがリターンはデカいよ。
――しかしHPとSP強制1はキツすぎるよな。今シリーズからは回復も連打出来なくなったし、特化型も人間爆弾みたいな扱いよ。
――なのにユートさん、粘ってるね。つか普通に全快しつつあるわ。よくもまぁ触られたら即死、スキルも使えない状態でボス相手に立ち回れるもんよ。
――これもまたギュスたんへの愛のため……?
――ケモナー乙。
◆
『歩法・蝶々』
ゆらめく足取りで回避率を大幅に上げる歩法スキルだ。
演奏スキルのように俺の周囲に光るオブジェクトが無数に生まれ、ては消えていく。
その感覚は丁度一秒、光を踏んでいる間はずっと回避効果が付与され続けるのだ。
「オオオオオオオオオン!」
咆哮と共に降り注ぐ
俺はそれを光の導くまま攻撃を躱しながら、少しずつ距離を詰めていく。
◆
――『蝶々』ォ!? あんな使いにくいスキルを最大限利用して攻撃を躱しているだってーーー!?
――ユートさんはやはりリアルダンサーだった……? にしてもあのスキル、魔法まで躱すのか……ネタスキル扱いされてるけど、意外と強いんじゃ?
――いやあれ回避率最大50%とかだから、多段ヒットする魔法スキルにはほぼ無力だよ。
――よ、よく見ろ! 降り注ぐ雷を殆ど避けているじゃねーか! 無茶苦茶な足捌きだぞ!?
――直撃以外でたまに当たってるけど、回避のおかげで大したダメージにはなってないのか……俄かには信じられねー……
◆
光の導きに従い、グノーシスの胸元まで辿り着いた。
HP、SPは既に全快。遠慮なく打ち込む、拳を――
「ゴアアアアアアア!」
突如、魔法陣が足元に浮かんでいるのに気づく。
こいつはフレイムピラーだ。俺の動きを予測して設置していたのか。
サンダーストームと違い、一発の威力があるスキル。喰らえば即死は免れない。
「く――っ!?」
ままよ、と身を任せるその直後、
ずどぉぉぉぉん! と轟音が鳴り響いた。
◆
――うあっ、モロだぜ。流石のユートさんも死んだか。
――ピラーは多段ヒットだから『蝶々』でも耐えられないしなぁ。
――い、いや待て! 煙の中に人影が見える!
――ユートさんだぁぁぁ! グノーシスの心臓を貫いているぞぉぉぉ!
◆
「……覇王竜虎撃」
渾身の一撃がグノーシスの胸を貫いていた。
弱点部位破壊が成功し、膝から崩れるグノーシス。
呼吸と共にポーションを飲み干す俺にレイモンドが声をかけてくる。
「し、信じられぬ……あの炎の中、どうやって生き延びたのだ?」
「蹴り飛ばしたんだよ」
そう、フレイムピラーは罠などと同軸設置型のスキル。
一部のスキルには設置型オブジェクトを吹っ飛ばす効果がある。
俺が先刻使用した『羅刹蹴』もその一つ、これは足払いによる範囲攻撃を仕掛けるスキルで、一瞬のスタンを発生させるという足止めスキルだ。
もちろんボスには無効だが、このスキルにはスタン以外に設置型オブジェクトを吹っ飛ばすという副次効果がある。
それでフレイムピラーを範囲外に蹴り飛ばしたというわけである。
◆
――いやいやいやいや、サラッと言ってるが相当とんでもないことだぞ!?
――あの火柱、フレイムピラーはどう見ても作動していた。てことは発動と同時に蹴り飛ばしたってコト……?
――回避50%付与されるから一発なら運が良ければ躱せるか。てか『蝶々』使いながら攻撃って出来るもん? しかも足払いをさ。
――足払いしながらオブジェクト踏んだんじゃね? どういう判断速度だよ。引くわ。
――まぁユートさんだし……さて、弱点部位を破壊されたわけだがどうなる……?
――ギュスターヴは逃げていっちゃったっけ。他のボスもこういう場合は大幅に弱体化するものだが……
◆
「アアアア……アアアア……!」
む、様子がおかしいな。
消滅するでもなく逃げるでもなく、その場に蹲り苦しんでいるように見える。
さっきの一撃、弱点部位を破壊したことで5Mくらいのダメージを与えられた。(弱点部位を破壊する際のダメージは三倍になる。覇王竜虎撃がボス狩りに非常に有用な点の一つである)
しかも部位破壊効果のおかげでスリップダメージが発生している。
そのダメージは五秒間に9999、三十秒で自然回復するが奴のHPは色々含めてあと半分も残ってないはずだ。
「よし、今のうちだぞユート! やれ! やってしまうのだ!」
「レイモンド……意外に容赦ないのな」
とはいえ彼の言う通りである。
ボス相手に躊躇は無用、今がチャンスとばかりに削りまくる。
その間もグノーシスは不気味に沈黙を守ったままだ。
「三度目の覇王竜虎撃、いくか――」
ポーションでの回復も追いついてきたし、奴のHPはまだまだ残っている。
ここらでもう一発かましておくのも悪くはない。
――が、その瞬間、俺の背筋に悪寒が走る。
「ッ!」
ガキィィィン! と耳鳴りが響いて聞こえる。
音の方を見ると、飛び退いた俺の立っていた場所には巨大な氷柱が生まれていた。
あっぶな……あのまま攻撃をしてたらやられてたぞ。
今のはアイスエッジ、凍結効果を持つ単体指定魔法スキルで、あいつの攻撃力を考えたら即死でもおかしくない。
それにしても本来は長めの詠唱があるはずなのに瞬時に出してくるとはズルいぞ。
所謂ボス仕様というやつだな。ボスの使うスキルはプレイヤーとは仕様が違うものが多いのだ。
「ガアアアアアアア!」
咆哮、そして降り注ぐ氷柱を避けまくる。
くそ、無詠唱か。避けるのが難しすぎる。『蜥蜴』を駆使せざるを得ない。
ゴリゴリSPが削られていくぞ。
◆
――どうして無詠唱、しかも対象指定スキルを避けているんですかねぇ……
――足元の魔法陣はタゲられた瞬間に出現するから、恐らくそれを見て避けているんだと思う。それでも完全には避け切れない時は『蜥蜴』使ってる感じだね。
――移動には若干のタイムラグがあるから、それを『蜥蜴』でキャンセルしてるってことか……いや、なんにせよどういう反応速度だよ。
――だがこのままじゃSPが尽きる。やられてしまうぞ。
――あれだけ削ったのになぁ……いや待て、何かが近づいてくるぞ! あれは――
◆
「オラァ!」
拳を振り上げ、俺を狙っていた氷柱を打ち砕いたのは黒き人狼、ギュスターヴだった。
「ギュスターヴ! もう大丈夫なのか?」
「おうともよ! ……悪りぃなユート、面倒かけちまってよ。だがここからは俺が戦う! ……ま、テメェはせいぜい安全な場所から隙をついて攻撃しやがれよ」
頬を掻きながら照れくさそうに言うギュスターヴ。
つまりはまぁ、前衛を買って出てくれるということか。ありがたい。
「今までの借りは返させてもらうぜ! どらぁぁぁ!」
「グオオオオオ!」
がしっ! とがっぷり組み合う二人の巨獣。
ギュスターヴは本気のようで、さっきまでと違い身体も大きくなっている。
グノーシスも接敵したからか魔法で俺を狙わなくなった。これで攻撃に専念できるというものだ。
ならば俺がやるべきことは一つ――
「レイモンド、転職だ」
「うむ」
淡い光が身体を包み込んでいく。
変じた職業は――ギャンブラーであった。
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