第71話VSグノーシス、中編
「邪魔、だァ!」
現れるモンスターに拳を打ち込む。
コンボを放つまでもなくモンスターたちを瞬殺していく。
「……驚いたな。ユートお主、更に拳のキレが更に増しておらんか?」
「そうかな?」
両親をぶん殴ったことで更に覚悟が決まったのかもしれない。
なんだか素直には喜べないが……ま、今は良かったということにしておこう。
◆
――おいおいマジですげぇよユートさん。鬼気迫るってのはこのことだぜ。
――空手の達人にオルオンやらせる企画があったけど、レベル1にも関わらずかなり強いモンスターを倒せてたっけ。
――現実の熟練度が高いもの程ゲームでも反映されるっていうけど……もしかしてリアルで空手でも覚えてた?
――いや、技術っていうか覚悟が決まった感じかも。一週間ログインしなかったあたり、リアルで何か壁を超えたのはあるかもね。殴るべき相手を殴った、とか。
――俺もクソムカつく上司殴ったらモンクの攻撃力かなり上がったわ。……そのあと首になったけど。
――お、乙……
◆
「あっちだユート! 激しい戦闘音が聞こえるぞ!」
「巨大な火柱……あれはフレイムピラーだな」
火属性最強の魔法スキル、フレイムピラー。
巨大な火柱を生み出すスキルで簡単に言えばファイアウォールの超強化版だ。
以前、不死属性のモンスターはファイアウォールに触れてもノックバックせず一気に焼き切ると説明したが、当然これにも適用される。
そしてギュスターヴはボス属性。あらゆる状態異常を無効化する特性を持っている。
即ちノックバックも無効化され、フレイムピラーもモロに喰らってしまう。土属性のボス相手にはそれを利用したピラー狩りという手法もあるくらいだからな。
あれを何度も喰らったとしたら、もしかしたら危ないかもしれない。
「大丈夫か!? ギュスターヴ!」
駆けつけたその場所ではギュスターヴが膝を突いていた。
全身傷だらけ、息を荒らげながら肩を上下させている。
「チッ……ユートか。情けねぇ姿を見せちまったな……」
「ポーションがある! これで回復を!」
「ありがとよ……だが奴さん、そんなことをさせてくれるつもりはねぇみたいだぜ……」
俺の出現に気付いたのか、グノーシスがのしのしと近づいてくる。
「大丈夫だよ。俺が時間を稼ぐから」
「ハァ!? な、なんでンなことを……?」
「ギュスターヴには世話になったしね。さ、少し離れてて」
パチン、とウインクをして俺は駆け出す。
長々と行った修行によりモンクから上位職のグラップラーに転職、更にそのレベルも既に80を超えている。
グラップラーは近接では最強クラスの職だ。
モンクの時はなかった防御スキル『歩法』と更なるコンボスキルを有しており、攻守ともにバランスが良い。
その上相手は悪魔属性、対魔の心得も効いているのでレイドボスと言えど、十分に戦えるスペックはあるはずだ。
「グノーシスは光属性、となると闇で殴った方がいいな」
正呪印を再度使用、効果をオフにして攻撃属性を闇に戻す。
攻撃属性を光と闇で切り替えれるってのは便利だな。
「オオオオオオオオオ!」
襲いかかるグノーシスが咆哮と共に拳を振り下ろしてくる。
画面全体を覆う巨大な塊、避ける場所はないがグラップラーのスキル『歩法・蜥蜴』で躱す。
これは『ステップ』と似たような移動スキルだが、無敵時間はないものの移動速度が非常に長く、方向も自在に制御が効くことから非常に使いやすく、最強の移動スキルと言われている。
「……うん、これは確かにいいスキルだな」
一気に懐に潜り込む。使いやすさ、移動距離共に文句がない。
だが贅沢を言えば消費SPが多いかな。ステップの倍は些か重すぎる。
ま、今はこれでどうにかするしかないか。俺は溜めていた拳で軸足を打ち抜く。
「はぁ!」
ズドン! と鳴り響く衝撃音、そこから更にコンボに繋げる。
『連打撃』、『崩拳』、『虎砲』、『竜撃拳』そして――
「グラップラーの最強奥義、見せてやる。行くぞ――『覇王竜虎撃』!」
一瞬の暗転の後、『覇王竜虎撃』の文字が拳撃を中心に敵の身体に刻まれる。
文字がひび割れるような演出の後、ずどぉぉぉぉん! と爆音が響いた。
同時に1650000のダメージ表示がグノーシスの頭上に踊る。
おー、流石はオルオン最強スキルの一つ、中々のダメージが出たな。
◆
――うおっ、コンボから覇王竜虎撃決めちまったぜ。流石ユートさん。
――覇王竜虎撃は一応コンボスキルだけど、あまりに入力がシビアで打てるやつがいないから、単発でも打てるようにベータ版から変更されたんだっけ。
――猶予2フレとかだろ? まぁ無理ってわけじゃないが、レイドボス相手に狙って決められるのはやっぱ流石だよなぁ。
――てか威力やばくね? 廃人勢の特化型覇王竜虎撃でも2Mとかでしょ。俺もコンボ型で打ったことあるけど、1Mも出んかったぞ。
――公式は確か最大3000%+最大HPとSPの合算なんだっけ。だから覇王特化グラップラーはSTR、VIT、INT型になるんだよな。確かにバランス型の威力じゃないわな。まだレベルも80のユートさんが出せる威力じゃないな。
――恐らく拳の鋭さも加味されているんだろう。ユートさんの修行の分析動画とか出てたけど、かなりバラつきがあったよ。
――あー、それ俺も見た! 分析によると拳の入り方によって100%前後に振れるんだよね。だから動きのイメージを完全に再現する為にAGIとDEXがないとダメなのかもな。てかそれ以前にリアルで空手するのが重要かも。
――てことはまさかのバランス型が最適解ってコト……? しかもリアル込みで。
――最適解はまた違うんだろうけどね。でもそれにかなり近そうだよ。オルオン奥が深いわぁ。
◆
「グオオオオオオオ……!」
ズズン、と膝を突くグノーシス。
今ので片足を破壊したが、部位破壊は弱点でなければしばらくすると再生してしまう。
それを防ぐには付かず離れず戦い、俺への攻撃を引きつけておかねばならないのだ。
「……とはいえ、回復をしなけりゃなっと」
覇王竜虎撃の使用コストは全てのHPとSPだ。HPは1、撫でられただけで即死である。
ポーションを飲んで回復を図るが……うーむ、過去シリーズとかだと回復ボタンを連打すれば良かったが、VR化したことで飲むことにモーションが必要になったからなぁ。連打出来たら強すぎるのはわかるが、すぐには飲み切れないので回復にも時間がかかる宇野田。
おかげで高いポーションを使わざるを得ない。まぁドロップで拾った高級ポーションだから問題はないけど。
とりあえずSPだけ回復し、『歩法・蜥蜴』で距離を取る。改めてHPを回復しながらグノーシスを睨む。
「ちまちま戦いながら次は狙う。弱点部位の心臓を……!」
膝を突かせたのはこれが狙いだ。
回復されないようにしながら弱点部位を貫けば、勝てる可能性はある。
ポーションを飲みながら俺は拳を構え直すのだった。
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