第71話VSグノーシス、中編

「邪魔、だァ!」


現れるモンスターに拳を打ち込む。

コンボを放つまでもなくモンスターたちを瞬殺していく。


「……驚いたな。ユートお主、更に拳のキレが更に増しておらんか?」

「そうかな?」


両親をぶん殴ったことで更に覚悟が決まったのかもしれない。

なんだか素直には喜べないが……ま、今は良かったということにしておこう。



――おいおいマジですげぇよユートさん。鬼気迫るってのはこのことだぜ。

――空手の達人にオルオンやらせる企画があったけど、レベル1にも関わらずかなり強いモンスターを倒せてたっけ。

――現実の熟練度が高いもの程ゲームでも反映されるっていうけど……もしかしてリアルで空手でも覚えてた?

――いや、技術っていうか覚悟が決まった感じかも。一週間ログインしなかったあたり、リアルで何か壁を超えたのはあるかもね。殴るべき相手を殴った、とか。

――俺もクソムカつく上司殴ったらモンクの攻撃力かなり上がったわ。……そのあと首になったけど。

――お、乙……



「あっちだユート! 激しい戦闘音が聞こえるぞ!」

「巨大な火柱……あれはフレイムピラーだな」


火属性最強の魔法スキル、フレイムピラー。

巨大な火柱を生み出すスキルで簡単に言えばファイアウォールの超強化版だ。

以前、不死属性のモンスターはファイアウォールに触れてもノックバックせず一気に焼き切ると説明したが、当然これにも適用される。

そしてギュスターヴはボス属性。あらゆる状態異常を無効化する特性を持っている。

即ちノックバックも無効化され、フレイムピラーもモロに喰らってしまう。土属性のボス相手にはそれを利用したピラー狩りという手法もあるくらいだからな。

あれを何度も喰らったとしたら、もしかしたら危ないかもしれない。


「大丈夫か!? ギュスターヴ!」


駆けつけたその場所ではギュスターヴが膝を突いていた。

全身傷だらけ、息を荒らげながら肩を上下させている。


「チッ……ユートか。情けねぇ姿を見せちまったな……」

「ポーションがある! これで回復を!」

「ありがとよ……だが奴さん、そんなことをさせてくれるつもりはねぇみたいだぜ……」


俺の出現に気付いたのか、グノーシスがのしのしと近づいてくる。


「大丈夫だよ。俺が時間を稼ぐから」

「ハァ!? な、なんでンなことを……?」

「ギュスターヴには世話になったしね。さ、少し離れてて」


パチン、とウインクをして俺は駆け出す。

長々と行った修行によりモンクから上位職のグラップラーに転職、更にそのレベルも既に80を超えている。

グラップラーは近接では最強クラスの職だ。

モンクの時はなかった防御スキル『歩法』と更なるコンボスキルを有しており、攻守ともにバランスが良い。

その上相手は悪魔属性、対魔の心得も効いているのでレイドボスと言えど、十分に戦えるスペックはあるはずだ。


「グノーシスは光属性、となると闇で殴った方がいいな」


正呪印を再度使用、効果をオフにして攻撃属性を闇に戻す。

攻撃属性を光と闇で切り替えれるってのは便利だな。


「オオオオオオオオオ!」


襲いかかるグノーシスが咆哮と共に拳を振り下ろしてくる。

画面全体を覆う巨大な塊、避ける場所はないがグラップラーのスキル『歩法・蜥蜴』で躱す。

これは『ステップ』と似たような移動スキルだが、無敵時間はないものの移動速度が非常に長く、方向も自在に制御が効くことから非常に使いやすく、最強の移動スキルと言われている。


「……うん、これは確かにいいスキルだな」


一気に懐に潜り込む。使いやすさ、移動距離共に文句がない。

だが贅沢を言えば消費SPが多いかな。ステップの倍は些か重すぎる。

ま、今はこれでどうにかするしかないか。俺は溜めていた拳で軸足を打ち抜く。


「はぁ!」


ズドン! と鳴り響く衝撃音、そこから更にコンボに繋げる。

『連打撃』、『崩拳』、『虎砲』、『竜撃拳』そして――


「グラップラーの最強奥義、見せてやる。行くぞ――『覇王竜虎撃』!」


一瞬の暗転の後、『覇王竜虎撃』の文字が拳撃を中心に敵の身体に刻まれる。

文字がひび割れるような演出の後、ずどぉぉぉぉん! と爆音が響いた。

同時に1650000のダメージ表示がグノーシスの頭上に踊る。

おー、流石はオルオン最強スキルの一つ、中々のダメージが出たな。



――うおっ、コンボから覇王竜虎撃決めちまったぜ。流石ユートさん。

――覇王竜虎撃は一応コンボスキルだけど、あまりに入力がシビアで打てるやつがいないから、単発でも打てるようにベータ版から変更されたんだっけ。

――猶予2フレとかだろ? まぁ無理ってわけじゃないが、レイドボス相手に狙って決められるのはやっぱ流石だよなぁ。

――てか威力やばくね? 廃人勢の特化型覇王竜虎撃でも2Mとかでしょ。俺もコンボ型で打ったことあるけど、1Mも出んかったぞ。

――公式は確か最大3000%+最大HPとSPの合算なんだっけ。だから覇王特化グラップラーはSTR、VIT、INT型になるんだよな。確かにバランス型の威力じゃないわな。まだレベルも80のユートさんが出せる威力じゃないな。

――恐らく拳の鋭さも加味されているんだろう。ユートさんの修行の分析動画とか出てたけど、かなりバラつきがあったよ。

――あー、それ俺も見た! 分析によると拳の入り方によって100%前後に振れるんだよね。だから動きのイメージを完全に再現する為にAGIとDEXがないとダメなのかもな。てかそれ以前にリアルで空手するのが重要かも。

――てことはまさかのバランス型が最適解ってコト……? しかもリアル込みで。

――最適解はまた違うんだろうけどね。でもそれにかなり近そうだよ。オルオン奥が深いわぁ。



「グオオオオオオオ……!」


ズズン、と膝を突くグノーシス。

今ので片足を破壊したが、部位破壊は弱点でなければしばらくすると再生してしまう。

それを防ぐには付かず離れず戦い、俺への攻撃を引きつけておかねばならないのだ。


「……とはいえ、回復をしなけりゃなっと」


覇王竜虎撃の使用コストは全てのHPとSPだ。HPは1、撫でられただけで即死である。

ポーションを飲んで回復を図るが……うーむ、過去シリーズとかだと回復ボタンを連打すれば良かったが、VR化したことで飲むことにモーションが必要になったからなぁ。連打出来たら強すぎるのはわかるが、すぐには飲み切れないので回復にも時間がかかる宇野田。

おかげで高いポーションを使わざるを得ない。まぁドロップで拾った高級ポーションだから問題はないけど。

とりあえずSPだけ回復し、『歩法・蜥蜴』で距離を取る。改めてHPを回復しながらグノーシスを睨む。


「ちまちま戦いながら次は狙う。弱点部位の心臓を……!」


膝を突かせたのはこれが狙いだ。

回復されないようにしながら弱点部位を貫けば、勝てる可能性はある。

ポーションを飲みながら俺は拳を構え直すのだった。

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