第70話VSグノーシス、前編
「神谷くん! 無事か!?」
サイレンの音がマンションに響く中、到着した竜崎さんが俺の名を呼ぶ。
「ええ、どうにか」
取り調べを受けながら答える。
詳しい話は署で聞くようだが、基本的には俺は被害者ということになったらしい。
ちなみに二人は既に手錠をかけられ、パトカーで連れて行かれた。
俺の家に押し入ったこと、自分たちを家に住まわせるよう強要したこと、そして父さんを殺したこと……詳しい捜査はこれからのようだが、マンションの録画は随分役に立ったらしい。
俺が殴った場面も当然録画されていたが、正当防衛という形で特にお咎めはなかったようだ。
そんな警察の判断に二人は随分とキレていたが、特に覆ることはなさそうだった。
「っとと……」
「! 神谷くん大丈夫か!?」
足元がフラついて倒れそうになるのを支えられる。
手足が小刻みに震えており、頭も上手く回らない程だ。
「す、すみません竜崎さん……」
「今になって緊張が来たんだろう。気が張ってるからすぐには寝られないかもな。取り調べには俺もついていく。それが終わったらとにかく休め。いいな」
「はい……」
こうして、竜崎さんと共に取り調べへ向かった俺が解放されたのは次の日の早朝だった。
マンションに送り届けられ、泥のように眠ったのである。
◇
俺が目が覚めたのは次の日の朝であった。
「うわ……我ながら信じられないくらい寝たなぁ……」
二十四時間寝るなんて初めての経験だぞ。
いやまぁ多少は起きたけどね。夕方とか深夜とかにトイレやお腹が空いてとかで。
それでも眠気が半端ではなかったので、用が済んだらすぐ寝てしまったのだが。流石にこれだけ寝たら気分スッキリだ。
「そうだ、竜崎さんにお礼の電話をしないと」
色々世話をしてくれたしな。
今後の方針も踏まえて連絡の一つくらいしておくべきだろう。
「もしもし竜崎さんですか」
「おー神谷くん、声からしてだいぶ元気が戻ったようだな?」
「あはは、お陰様で。帰ってから今の今まで寝てました」
「そりゃ結構。長く眠れるのもまた才能のうちだ。コンサートの成功を確信したよ」
「ってこんなことが起きた直後なのに、やるんですかやっぱり?」
「当たり前だろ。君が犯罪を起こしたならともかく、被害者だからな。……もちろん君の体調くらいは考慮するつもりだが」
「……いえ、大丈夫です。やらせて下さい」
世話になった人たちの為にも今更できないなんて言えるはずがない。
「体調も回復したので今日からレッスンもバリバリ出られます! なんでも言ってください」
「そう言ってくれると助かるよ。だがまぁ、今日のところは念の為に休んでおきたまえ。実は権田が心労で倒れてしまってね」
「あらら……」
そういうことなら仕方ない。
他の人にも心配をかけていたのは申し訳ないな。
「だが明日から出てきてくれよな。あいつも這ってでも出てくると言っているし」
「はいっ!」
電話を切って、ソファに寝転がる。
うーん、開放感。やっぱり一人ってのはいいな。
「そういえば何かをやり忘れてたような……ハッ!」
すぐに起き上がり、VRメットを装着する。
色々あって完全に忘れていたが、そうだ。ギュスターヴらを置いてダンジョンに潜りっぱなしだったのだ。
ログインするとそこにはレイモンドがポツンと座っていた。
「ごめん! どうなった!?」
「遅いぞユート!」
ぐー、とレイモンドのお腹が鳴る。
食事は置いていったものの、あれから一週間くらい放置していたからなぁ。
まずはアイテムボックスから食料を渡し、食べさせる。
「もぐもぐ……全然入ってこないから見捨てられたかと思ったぞ。全く」
「いやー本当に悪かったよ」
契約により仲間になった使い魔は放置すると信頼度が減っていき、ゼロになると逃げてしまう。
俺の方も忙しかったとはいえ、一週間も待たせたのは申し訳なさしかない。
◆
――うおおおおお! めっちゃ久しぶりにログインきたァァァ! 死んだと思ったよ!
――うんうん、ユートさん生きててよかった。あれだけハマってたのに一週間もログインないとか、やっぱり何かあったのかね?
――こういうのは大抵、家庭の事情と相場が決まってるもんよ。初日とかもずーっとプレイしてたし、色々と問題のある家なのかもなぁ。
――ともあれようやく続きだ。それにしても一週間放置でも逃げないなんて、どんだけ絆強いんだ。
――でも流石にギュスたんは逃げちゃったみたいね。まー元々契約使い魔ってわけでもなくゲストっぽい扱いだったから仕方ないけど。
◆
「ギュスの奴は……」
「いや、いいんだ。俺が悪いんだし」
顔を顰めて言葉を濁すレイモンドに、俺は慌てて首を横に振った。
ギュスターヴがいなくなってしまったのは当然のことである。
そもそも正式な従魔契約もしていないのに、待っていてくれなんて言う方が無茶な話だ。
「いいや、ギュスは先日までここにいたのだ。お主を待ってな」
「嘘……な、なんでだ!?」
「あの後、グノーシスは姿を消してしまってな。しばらく待っていたのだがユートが帰って来ない為、ボクはこの場で待機、ギュスはこの階層を探し回ることにしたのだ。しかしどこを探しても見つからず、他の階層に行ったのだろうという結論になった」
ふーむ、階層を移動するボスか。
そもそもこいつらの頭であるモリガンからして、ダンジョンから出歩くボスだったしな。
今更不思議でもないだろう。
「ギュスはこの場に残されたボクを守るべく、一緒にいてくれたのだよ」
「そう、なのか……あいつには礼を言わなきゃな」
ログイン出来なかった俺の不始末をしてくれたのだ。
どうでもいいけど、不測の事態が起きて使い魔を放ったらかしになるシステムは良くないと思うんだ。
……あとでお願いのメールを出しておこうっと。
「じゃあギュスターヴは今、どこへ行ってるんだ?」
「現れたんだよ。グノーシスが再びこの場へな。ギュスは奴を追っていったのだ。恐らく今頃はあいつ一人で……!」
「な……っ!」
このゲームでNPCの死は永遠の消失を意味する。
元は敵とはいえあいつにはすごく世話になったのだ。
見殺しになど出来るはずがない。
「急いで助けに行くぞ!」
「うむ! あっちの方向だ!」
レイモンドの指差す方へ、俺は駆け出すのだった。
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