第6話 うきうきな後輩彼女
//SE:玄関の扉が開く音
「すいませんっ。着付けに苦戦して遅れてしまいました……」
//慌てて
「……せんぱい? だんまりしちゃってどうしたんですか?」
//SE:下駄を鳴らして近づく足音
「もしかして、体調が優れないんですか?」
//不安げに
//SE:額に手を添える音
「……熱はなさそうですね」
「ん? ……彼女がかわいすぎてぼんやりしてた?」
「えへへ、わたしの浴衣姿がせんぱいのお気に召したようでなによりです」
「……けどせんぱい、わたしは真っ向からかわいいって言われたいです」
「目を逸らさず、まっすぐわたしを見て、かわいいって言ってくれませんか?」
//甘えるように
「……えへへ。ありがとうございますっ」
//SE:服のすれる音
「せんぱいの浴衣姿も、すごくカッコいいですよ」
//耳元で囁くように
「えへへ、せんぱいとのお祭りデート楽しみです」
//SE:手をつなぐ音
「夏の思い出、いっしょにたくさん作りましょうねっ」
//微笑みかける
………。
……。
…。
//SE:喧騒
「まだ夕方なのにすごい人だかりですね」
//SE:身体を寄せてくる音
「離れ離れにならないよう、くっついて歩きましょう」
「……ふふ、恥ずかしがらなくても大丈夫ですよ」
「今日は特別な日なので、みんな羽目を外して、自分の世界に没頭しています」
「だからわたしたちも、わたしたちだけの世界に没頭してお祭りを楽しみましょう」
//SE:下駄の足音
「……あっ、せんぱい、あのりんご飴食べたいですっ」
「あっ、でも隣にあるチョコバナナも食べたいなぁ」
「……どっちも食べればいい?」
「そうしたいのはやまやまですけど、かなりの人が並んでいるのでせんぱいを待たせてしまいますし、それに……」
「く、食いしん坊な女の子と思われてしまいそうで恥ずかしい、です」
//小声で
「……そんなこととっくに知ってる?」
「~~っ!」
//赤面する
「食欲旺盛なかわいくない彼女でごめんなさいぃ~」
//早口で
「……おいしそうに食べてる姿が好き?」
「ほ、ほんとですか? ほんとは引いてるとかありませんか?」
//不安げに
「えへへ、ならよかったです」
「じゃあ、りんご飴とチョコバナナ」
「と、あっちにある焼きそば」
「と、たこ焼きと、かき氷と、それから……」
「ん、そんなに食べて平気なのかって?」
「ふふ、心配してくれてありがとうございます」
「ですが、心配ご無用です」
「せんぱいの隣で食べるものはすごくおいしいので、いくらでも食べられてしまうんです」
「金魚すくいとか、射的とかもやってみたいですけど、さすがに1時間待つのはしんどいので、花火があがるまでゆっくりお話しして過ごしましょうか」
「……そんなゆったりできる場所があるのかって?」
「ふふ、わたしを誰だと思ってるんです」
//得意げに
「せんぱいと楽しいひとときを過ごすために、朝いちばんに特等席を確保しておきました」
………。
……。
…。
「はむぅ」
//SE:かき氷を食べる音
「んっ。頭がキンキンしますぅ~」
「そういえばせんぱい、知っていますか?」
「かき氷のシロップって、どれも同じ味がするみたいですよ」
「果たしてその話がほんとうなのか、一口ずつ交換し合って確かめましょう」
「それじゃあ、あ~ん」
「……あ~んし合う必要はないんじゃないかって?」
「ふふ、せんぱい恥ずかしがってるんですか?」
「周りを見てください」
「カップルばかりで、誰もわたしたちのことなんか見ていないし気にしていません」
「照れてるかわいいせんぱいを堪能しているのは、わたしひとりだけですよ」
//耳元で囁くように
「ほ~らせんぱい、口あけてください」
「いっしょにあ~んすれば恥ずかしさも半減されますよ」
「あ~ん」
//SE:かき氷を食べる音
「じゃあわたしも……はむぅ」
//SE:かき氷を食べる音
「……ほんとですね。いちごとメロンのシロップなのにまったく同じ味です」
「ふふ、シロップの色が違うだけで味も違うように感じるなんて不思議ですね」
………。
……。
…。
//SE:鈴虫の鳴き声
「もうすっかり夏も本番ですね」
「夏休みがはじまって、夏祭りが過ぎていって……楽しい時間はあっという間です」
//SE:手を重ねる音
「……せんぱい。わたし、来年もせんぱいと夏祭りに来たいです」
「せんぱいは来年受験生なので、勉強に追われてそれどころじゃないようでしたら、わたしよりも勉強を優先してくれて構いませんけど……」
//段々と声が小さくなる
「せんぱいと同じ学年がよかったなぁ」
//ぼそっとつぶやく
「同級生なら同じ大学を目指していっしょに勉強できるし、クラスがいっしょになって席が近くなるかも知れないし、バレンタインチョコとかも入れやすそうだし」
「……せんぱいだけが先に卒業して寂しくなることもないだろうし」
//ものすごく寂しそうに
//SE:頭を撫でる音
「あっ……」
「えへへ、すいません。せっかくの楽しい時間に楽しくない話をしてしまって」
「……受験がマズそうでも絶対祭りに行く?」
「ふふっ。その心構えは受験生としてよろしくないんじゃないですか?」
//うれしそうに
「けど、そう言ってもらえてすごくうれしいです」
「ありがとうございます、せんぱいっ」
//満面の笑み
//SE:花火のあがる音
「あっ、花火」
「……きれい。夜空にたくさんの花が咲いています」
//SE:服の裾を引く音
「ん、どうしたんですかせんぱい?」
「んっ……!」
//急にキスされて驚く
「せ、せんぱっ、い、いまわたしに、き、きききキスしてっ……」
//激しく動揺する
「……ず、ずっとこの瞬間を窺ってた?」
「水族館デートのあとに、プラネタリウムでファーストキスしようと計画してた?」
「……ぷっ」
//噴き出す
「あはは、せんぱい、ロマンチックすぎですっ、あははっ」
「……ファーストキスはロマンチックにするものだからずっと我慢してた?」
「あはは、せんぱい、マンガに影響されすぎですっ。あははっ」
「……けど、そうだったんですね」
「ずっとずっと、わたしにキスしたいって、そう思ってくれていたんですね」
//しみじみと
//SE:頬を撫でる音
「ねぇせんぱい」
「わたしからもせんぱいにキス、したいです」
//耳元で囁くように
「えへへ、わたしもずっとせんぱいとキスしたいなって思っていたんですよ?」
//恥ずかしそうに
「……じゃ、じゃあ、い、いきますね?」
「ん……」
「……えへへ、キスは味がするって言いますけど、あの話は嘘っぱちですね」
「緊張でまったく味がしなくて、せんぱいの唇の感触しかわからないです」
「……もういっかい、してもいいですか?」
//甘えるように
「んっ……」
「えへへ、一回目より少しだけ上手にできた気がします」
「せんぱい、好きですよ」
「手をつないだり、あ~んし合ったり、頭をなでなでしてもらったり、キスしてもらったり」
「全部せんぱいとしていることだから、ドキドキするしうれしいんです」
「大好きな人の大好きが伝わってくるその瞬間が大好きだから、わたしはせんぱいに甘えたくなってしまうんです」
「せんぱい、これからもずっとわたしの隣にいてくれますか?」
「コスプレで姿は着飾ることができても、せんぱいが大好きなキモチは着飾ることができない、不完全なコスプレしかできないわたしのカメラマンでいてくれますか?」
「……ふふ、せんぱいにコスプレしていない、ありのままのわたしが一番好きだって言ってもらえてすごくうれしいですっ」
//SE:手を重ねる音
「せんぱい、これからもいっしょに、たくさんたくさん、楽しい思い出を作っていきましょうね」
//SE:服のすれる音
「ありのままのわたしも、コスプレで着飾ってるわたしも、いっぱいいっぱい、かわいがって甘やかしてほしいです」
//耳元で囁くように
「その分わたしも、せんぱいをいっぱいいっぱいかわいがって、甘やかしてあげますから」
「だからせんぱい」
「ずっとず~っと、いっしょですよ?」
//耳元で囁くように
—FIN—
不完全なコスプレ彼女は甘えたい 風戸輝斗 @kazato0531
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます