第44話 異世界転移は十分な管理が必要です

 ツィルくんを強制的にねじ伏せて協力者に仕立てあげたところで、私はツィルくんが作った空間を消去してシルヴィクへと戻りました。

 家に残してきたほむらさんとユニちゃん、それに今も衛兵として頑張っているはずのクランさんなどを心配しながら戻ると、私の家が崩れ去っていました。


「なんということでしょうか? 美しく住みやすく建てられていた我が家がまるで砲弾の雨に降られたかのような廃墟です」

「アトさん!」

「アト!」


 私が自分の家の無残さにナレーションを口ずさんでいたところでユニちゃんとほむらさんが声をかけてきました。


「アトさん……ツィル副局長もいらっしゃいますが……」

「すべて丸く収まりました! ツィルくんにはこれから反省して多数の賠償をしてもらったうえで引き続きこきつk、頑張って働いてもらいます!」

「丸くおさまったというかおさめられたというかですが……」

「まずは手始めに1時間あげるので私の家を建て直してください」

「1時間!?」

「余裕でしょ?」

「いや、はい、わかりました……」

「なんだかよくわかりませんが、アトさんがそういうなら良いと思います」


 ユニちゃんは納得してくれたようですが、ほむらさんは納得していない様子です。


「あたしはてめえのせいでこの世界に強制連行されたみたいなものだからな、ただで済むと思うなよ」


 ほむらさんはギロリとツィルくんにらみつけていました。


「それはそうですね、とりあえずツィルくんには私財はたいてほむらさんにスイーツ食べ放題権をプレゼントとしましょう」

「それならヨシ」

「何ですかそれ!!」


 ほむらさんも納得してくれたみたいです。さっきまでの怒り顔が嘘のようにニコニコとした感情が表情に出ています。一方のツィルくんは「え、僕の財布で食べ放題養わないといけないってことですか……?」みたいな表情で口をあんぐりと開けていました。むしろこの程度で済むことに感謝してほしいぐらいですが。


 私はツィルくんに家を直させたり、ツィルくんのやってしまったことの後片付けが残っていないかをチェックしたりしてユニちゃんと報告書をまとめました。

 その傍らでツィルくん関係で拉致されたり、異界に飛ばされてしまった迷い子たちを回収してもとの世界、もとの場所に戻したりもしました。

 王都の事件の際に冒険者のフランさんと約束していた、彼女の仲間の冒険者も無事に送り届けることができ、フランさんからも感謝の言葉をいただきましたが、むしろ身内の不始末だったので謝罪を入れてきました。


 まとめた報告書をもとに王都への通達、コユキちゃんへの連絡等を済ませたり、そんな後始末のための各種作業をこなしておおよそ1週間ほどが経ち粗方の後片づけが終わりました。


「色々ありましたが、ひとまず一見落着ですかね」


 私は新築になった我が家のリビングルームの椅子に腰かけて、お茶を飲むためにティーポットにお湯を注ぎ入れながら午後のひと時を送っていました。

 ユニちゃんは王都に戻り、ツィルくんは元の立場として帝国側の異界門管理局員のトップとして仕事に従事してもらっています。

 ほむらさんはというと、最初はひと段落ついたところで元の世界に戻る話をしていましたが、スイーツ食べ放題権を行使し続けたいとのことで肩書上は私の直属部下としてツィルくんのお目付け役のため一緒に帝国に行ってもらっていました。お菓子好きの彼女らしいですが「これで無限に衣食住に困らないから元の世界には当分帰らなくて良いや」と言っていました。

 ということで一時より少し静かになった家で一人、午後のティータイムをゆっくり過ごしているわけです。


「最近ばたばたしていたのでこうやって一人過ごすのもずいぶん久しぶりな気がしますね」

「アトさん! ピンチです!!」


 私の新築マイフォームの扉を壊しかねない勢いでたたき開けてクランさんが飛び込んできました。


「この感じもなつかしいですね……じゃないですよ! もっと丁寧に扉を開けてください! それと乙女の家に無断で上がりこまないください!!!」

「そんなことよりピンチなんです! 「私はこの森の叡者。ここにいる白銀の髪の者に用事がある。私を異世界に転生させてくれ」とかいってとんでもない美人、じゃなかったとんでもなく強そうなエルフがユニコーンに乗って門の前に来ているんですよ!!」


 この子さらっと『そんなことより』とか言いやがりましたが……


「白銀の髪の人なんてたくさんいるでしょ?」

「異世界転生させてくれなんてどう考えてもアトさん案件でしょう!?  それと『ここはどこ』とか言ってる変わった服装の男の子も衛兵詰め所で預かってます! きっと迷い子なのでとりあえず詰め所に来てください!」

「……わかりました。行けばいいんですよね行けば」

「お願いします!」


 万事解決して平穏になるかというとそんなことはなく、今日も今日とて異世界に転移したい不届き者やはたまた、時空のゆがみに招かれた迷い子たちを導くのは変わらず続く私の仕事です。

 きっと神様は仕事をさぼっているのでしょう。異世界転移は十分管理が必要なので私はこれからも頑張りたいと思います。

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異界門の管理者です。最近転移している人が多いです。神様しっかりしてもらわないと私の仕事が増えて大変なんですけど。。 燈路 @subcultanuki

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