第43話 管理者アト
「!?」
ツィルくんは何が起こったのか理解できていないようで目を白黒させて困惑していましたが、すぐに気を取り直し、再度魔力放出による攻撃を継続しようとしています。
「管理者権限執行。対象を世界樹の宝杖に指定・抹消」
その言葉と同時にツィルくんが持っていた杖が細かい粒子になりまるで砂時計が落ちるように崩れ去りました。放出しようとしてた魔力も媒介となる杖が消失したことで発動していません。
「これは……一体何をした!!」
杖を消されたことでさすがに異変に気付いたのかツィルくんは私を詰問するような問いかけをしながら、異界門の札を媒介に何かをしようとしているのが見て取れました。
「来い! 竜神族!!」
ツィルくんはさきほど使役していた竜神族を召喚しようとしているようでした。
「管理者権限執行。対象を空間に指定・隔絶」
「!?」
このツィルくんが準備したであろう空間を外界と切り離したことで、ツィル君の転移術式は発動に失敗しました。
「これで召喚転移も発動できません。二人っきりのプライベート空間ですね」
「こんな術式……聞いたことがないぞ……」
「見せたことありませんからね」
「指定した対象を抹消、空間を隔離するだなんて、でたらめにもほどがある……何の代償もなしできるはずがない、そこを突けばまだ―」
「代償なんてありません」
「そんなはずはない! あなたが今使ったものは明らかに異界門管理者の能力を逸脱している! 私たちに与えられているのはあくまで迷い子を導く、異界門を運用するための力だ!」
「そうですね、異界門管理者に与えられている権限についてはツィルくんが言っていることに相違ないでしょう。ただ、それはあくまで異界門の管理者権限として私が下賜したものです」
「だったらなぜ……」
「私が行使しているのが異界門管理者の権限ではないからですよ」
「それはどういう意味ですか」
「文字通りです。対象の抹消、空間の完全隔離、これらは世界管理者の権限だからですよ」
私が丁寧な捕捉説明を加えたところで、ツィルくんは愕然とした表情で、額に汗を浮かべつつ私のことを見つめていました。
「世界管理者の権限……? なんですかそれは……」
「世界全体の秩序を維持して運営していくために必要な権限です。対象を空間に指定・物質生成」
私は権限を行使して掌の上に金、銀、銅など多様な鉱物、犬や猫などの生物を生成してみせました。
「対象を指定・抹消」
そして今生成した物質や生物を文字通り抹消しました。
「一体何をしているんだ……? そもそも世界管理者とはなんだ!?」
「ツィルくんもよくご存じのはずですよ。シルヴィクや王都、国内各地に信者を抱える王国の国教である世界最大の宗教組織『原子教』、教会施設は帝国側にも多数ありますよね」
「……それがなんだというんだ」
「この世界の創世の神を信仰する原子教、その創世神の名前を知っていますか?」
「あくまで世界創造の神として信仰されているが、創世神の名前は残っていないはずだが……そんなはずは……」
ツィルくんはここまでの問答の中で何かを察してくれたようです。
「これ以上のお話は不要でしょう」
「まて! 何をするつもりだ! やめろ!!」
ツィルくんは圧倒的な不利状況を理解しながらも、私が次にする行動に本能的に危機感を感じたのか、魔法による妨害をしようとしていました。
「対象を指定・範囲を世界に指定・抹消」
「!? ……何も変わっていな―。いや、これは……」
「シルヴィクの異界門以外に転用されている異界門の能力をすべて抹消しました。わかりやすくいうとツィルくんが腹の中に抱えていた件の異界門の大札はただの紙切れになったというわけです」
「でたらめだ……」
ツィルくんはこの何もない空間の中で、その場に崩れ落ちるように座り込みました。
「そろそろ改心してくれましたかね」
「ははっ、改心も何もないでしょう。こんな遥かな高みから一方的に殴り叩き落されるようなやり方」
「それは申し訳なく思ってますが、想像していたより私対策が施されていたのでちょっと面倒になってしまいまして」
私が軽く笑いながらそういうとツィルくんは一瞬目じりを釣り上げてこちらをにらみつけてきましたが、すぐに表情はもとに戻りその場にうつむいてしまいました。
「それで、僕もその力で抹消というわけですか」
「そうですねぇ、それでも良いのかもしれないですが、ツィルくんがいなくなると私の異界門管理のお仕事が増えてしまいますね」
「そんな遊び、本来はどうだっていいんでしょう?」
「そんなことはありません。今回は特例中の特例です。私がでしゃばるかどうかも迷いましたが、身内の不始末ですから。というわけでツィルくん、君には引き続き異界門管理局副局長としての仕事を全うしてもらいます」
「拒否します」
「許しません。対象指定・権限設定」
「なっ!? 何を!?」
「これでツィルくんはこの場で起こった出来事について一切口外できません。また私の命令は絶対です」
一方的な主従契約、まるで奴隷のような扱いですが、実際ツィルくん自身は世界をより良くのために動いていたようですし、なんとか改心させて良い方向に導いてやろうという老婆心です。
「もちろん、私だって世界を衰退させたいわけではありません。色々不具合がある世界ですが、適宜修正してより良い方向に導きたいとは思っています。ツィルくんも良い世界を目指しているわけですから、そこはむしろ現地人として協力していただきたいです。お願いします」
私はツィルくんに向かってぺこりと頭を下げました。
礼をしたまま上目がちにツィルくんを見ると何なんだこいつという怪訝な表情と驚きに満ちた目をしていましたがひとしきり驚いた後、『ふっ』と息を吐くように軽く笑い一言返事を返しました。
「わかりました」
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