25話


「まさか、最期にあなたと会えるとはね」


 もう耳が麻痺していて何も聞こえない。

ちゃんと喋れているかもわからない。


しかし、その人物の慌てふためくような顔が面白くて、そんなことはどうでもよかった。


「あの子達を、よろしくね」


 諦めたような顔をしたセーナに、その人物は液体をぶっ掛けた。


「へ?」


「自分でやれ」


「これ、エリクサー?! 何やってるの! ショー」


 ロストテクノロジー。

 絶対に再現不可能と言われる、どの魔法史に残るほどの大遺物。


 大金を叩いても買えないと言われる完璧な回復薬。


 どんな致命傷でも、どんな病でも治ると言われる。


 通常を遥かに上回る回復速度に、セーナの意識が遠のいた。


「今は眠れ」


〜〜〜〜


「と言うわけなのよ」


 セーナが苦笑しながら、そう言った。


「礼を言う。大将」


 大将は腕を組んで、笑う。


「構わん。俺の望むところでもあったしな」


 セーナは2人を抱きしめる。


「それにしても、話は聞いたわ。・・・・・・ヒバナ、アレス。よく頑張ったね」


「幸せになる魔法をかけてくれたおかげ」


 アレスがそう呟くと、セーナはピクリと反応する。


「ああ、あの効果のおかげだ」


 セーナがピクリともう一度、反応した。


「あの、無事を知らせなくて本当にごめんなさい」


 2人は謝罪を聞いて、ニッコリと笑った。


「皮肉じゃなくて、本当にそう思ってるんだ」


「3人で、自由に成れなきゃ幸せじゃないから」


「2人とも・・・・・・」


 セーナが抱きしめる力を強めると、2人の様子が変わる。


「痛」


「痛い痛い痛い」 


「あ、ごめん」


「ははっ。締まらねぇなぁ、お前らは」


 大将が3人の隣に座る。


「まずは、よくやった。この結末は、お前が諦めなかった結果だ。色男」


「ああ」


「早速だが、これからの話をしよう」


「これから?」


「お前ら、うちのギルドに入る気はないか?」

 

「断る」


 アレスがそう断言した。


「はは、即決か」


「すまんな。俺らは、ギルドを自分で作りたい」


「だが、下積み時代は必要だろう。せっかく自由になったってのに野垂れ死ぬ気か? それは賢い選択とは言えんぞ」

 

「自由にやってみたいんだよ」


 大将はヒバナを少し睨みつけたが、大きく溜息をついた。


「意志は固いんだろう?」


「ああ」


 もじもじしているセーナに、アレスは首を傾げる。


「あ、あのね。言いにくいんだけど」


「こいつは、俺が貰い受ける」


「「え?」」


「いや、あのね。私が使ったエリクサーっていう遺物。めっちゃ高いのよね」


「借金だな。体で払ってもらう」


 ヒバナがドン引きした顔で、大将を見る。


「そういや、これ返すな」


 ヒバナは、貰った通帳とペンダントをセーナに渡そうとする。


「大丈夫よ。それは、2人に上げる」


「え?」


「それに、その通帳の中身だけじゃ焼き石に水だし」


「「は?」」


 ヒバナは通帳の中身をもう一度、見る。

 およそ300万あった。


「え、これが、焼け石に水・・・・・・?」


「うん。ざっと300億・・・・・・」


 ヒバナから信じられない音が漏れた。


「ど、ど、どうすんだ」


「え、え、セーナ。帰って来れない?」


「ううん。絶対、戻ってくるよ」


 セーナは2人の手を握りしめる。


「借金なんて、ちょちょいのちょいよ。私が戻る頃には、強くなっててね」


「でも、・・・・・・」


「アレス、信じよう。セーナは約束を破った事ないだろ? 永遠の別れじゃなくなったんだ。少しの別れくらいは我慢できる」


「ヒバナ・・・・・・」


「そんな借金すぐに返して戻ってこいよ!」


「ええ、もちろんよ」


「じゃあ、行ってくるね」


「ええ、行ってらっしゃい」


 2人は初めの一歩を踏み出した。

 

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海底都市アトランティス @edamameshindesu

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