24話

 ヒバナは身体を起こす。

すると、全身から激痛が走った。


「ぐふっ」


 骨折や打撲、筋肉痛。

 ありとあらゆるタイプの激痛がヒバナを襲っていた。


「かふっ」


 ヒバナが動いた振動で、隣で寝ていたアレスに被害が出る。


「ひ、ヒバ、ヒバナ。うご、動かないで」


「す、すまん」


 あまり動かないように、ヒバナは辺りを見渡す。


「ここ、どこだ?」


 見覚えのない場所だ。


「さあ?」


 アレスと再会してからの記憶がない。


「アレス。なんか覚えてるか?」


「なんにも、ヒバナは?」


「俺もだ」


 ヒバナとアレスの身体には、包帯が巻かれていた。


「誰かに助けてもらったのは、間違いないみたい」


 アレスはベットから起き上がる。


「ぐぁあ」


「あ、ごめん」


「どこいくんだ?」


「外見て回ろうと思って」


「俺も行くから、ちょっと。ちょっとだけ待ってくれ」


 そのヒバナの物欲しそうな顔に何かが昂った。


慌てて、アレスは目を逸らす。


「?」


 アレスは、もやもやとした胸を不思議そうに触る。


「お待たせ、アレス」


「あ、うん」


 2人は外に出ると、そこは見覚えのある廊下だった。


「ここって」


「ああ、多分そうだ」


 2人は、向かうあてなしに歩く。


「やっぱりだ」


「ここ、あの時に乗せてくれたギルドフェリー」


 隠された遺物を探す際、お世話になった船だ。

まぁ、その隠された遺物なんてなかったのだが。


 2人は甲板に出る。


「・・・・・・眩しい」


 青い海、青い空。

いつも通りのはずなのに、やけに色鮮やかだ。


 2人は、甲板に腰を下ろす。


「綺麗」


「本当にな」


 海がいつもより輝いて、綺麗に見える。

奴隷時代は、ずっと何かを気にしなければならなかった。


 何かを忘れれば、元主人に殴られる。


 そんな毎日だった。


 何も考えずに、海を見るのはかなり久しぶりだ。


「本当に自由に成れたんだな、俺ら」


「そうだね」


 こうも自由になると、色んなことを考える余地ができる。


「セーナにも、見せてやりたかったなぁ」


 ヒバナはペンダントを握りしめ、目元を隠す。


 初めて、2人の涙が目に溜まる。


「自由ってのも考えものだな」


「でも、泣けるのはいいこと」


「少しみっともない所見せるぞ」


「見慣れてる」


「おい」


 2人は泣いた。

柄にもなく、年相応、子供のように。


「あら、お二人さん。なにを泣いているのかしら?」


 唐突に、後ろから声が聞こえた。


 それは今、1番欲しく、1番聞き覚えのある声だった。


「へ?」


「せ、セーナ?」


「やほー」


 アレスは、セーナの体をペタペタと触る。


「あ、アレスちゃん?」


 セーナの胸を揉んだ。


「へ? アレスちゃん?!」


「本物・・・・・・」


「本当か・・・・・・」


「胸で確信するのやめ___」


 2人は、セーナを抱きしめた。


「致命傷だったはずなのに、なんで」


 セーナは、2人の頭を撫でる。


「すぐに来れなくて、ごめんね」


「幻覚じゃない、幻聴じゃない。本物のセーナだ」


「うん。私はここにいるよ」


「死んだのかと、思って」


「死んでないよ」


 2人はさっき以上に、泣き喚く。

セーナは、母のように2人をあやすのだった。

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