23話


 ヒバナが痛む体を押さえながら、身体を起こす。

とある船の上にヒバナはいるようだった。


 空はまだ暗く、花火がまだ上がっている。


 時間はそんなに経っていない。


「おっ、起きたか」


 その声の正体は、大将と呼ばれていた男だった。


「お前らの主人は落下死した。お前らはもう自由だ」


 その言葉を聞いて、ホッとする。

しかし、やっと得られた自由を喜ぶにはまだ早かった。


 そんなことよりも一刻も早く、

「アレスに会いたい」


「ああ、連れてってやるよ」


 ギルドフェリーは進路をオリオンへと変えて、進む。


「お前らが、俺のことを助けてくれたのか?」


「いいや、偶然だ。お前が空から降ってきたんだよ、十分死ぬ速度だったんだがな。甲板にぶつかる直前に、速度が落ちたんだ」


 ヒバナは慌てて、ポケットからセーナのペンダントを取り出す。


 そのペンダントは、淡い緑色の光が輝いていた。


「セーナ・・・・・・」


 ヒバナはペンダントを握りしめた。


「ありがとう」


 遺物とて、所詮は道具。

持ち主の意識外で動くなどあり得ないことだ。


 セーナの想いが、ヒバナを救ったとしか思えない。


「着いたぞ」


 船がオリオンについた瞬間、ヒバナは走り出した。


 身体の痛みなど関係なく、走った。


 一刻も早く会いたい。


 その一心だった。


 ヒバナは甲板の扉を蹴破ると、泣きじゃくる少女の姿があった。


「アレス!」


 そう叫ぶと、アレスは涙を変えて振り返る。


「ヒバナ!」


 2人は自分の身体の痛みなど忘れて、誰にも引き離せないほど強く互いを抱きしめる。


「ヒバ、ヒバナが、ひぐっ、死んじゃったと、思った」


「馬鹿! 俺が、お前を、置いていく、わけ、ないだろ?」


 ヒバナは、アレスに負けないぐらい涙で顔をぐちゃぐちゃにしながら、格好つける。


「生きてる、生きてる!」


「ああ! 生き延びれたんだ、俺らは!!」


 長い時間、絶望の時を過ごした。

その間に、たった一度でも反逆の意思をリニアに示した事はない。


 1番、近くでリニアの実力を見てきて、敵わないと知っていたから。


 初めての反乱。


 ヒバナが少しでも『敵わない』という諦めの心を持ってしまっていれば、アレスかヒバナのどちらかが死んでしまっていた。


 諦めずに挑み続けた結果、手にできた奇跡。


 それが今、実現していた。


「なぁ、アレス」


「なに?」


「これからもずっと、俺の隣に居てくれないか?」


 アレスは少し驚いたような顔をしてから、満面の笑みを浮かべる。


「喜んで」

 

〜〜


 抱き締め合う2人を覗いている影があった。


「信じられん。まさか、こんな子供があの【無敵】に勝ったというのか・・・・・・?」


「お前は、そうやってすぐに勝ち負けで考える。よくない所だぞ」


 死の直前で幸せそうな顔をしていたリニアを、彼は見ていた。


「あんな幸せそうな顔して死んだんだ。少なくとも【無敵】の負けって事はないだろうよ」


「それでも、だ。【無敵】とやり合えるガキなんざ、そうそういねぇ。あんた、あんなのどこで見つけたんだ。・・・・・・大将さん」


 大将は抱き締め合う2人の姿を見て、少し懐かしいような顔をする。


「なんてことない、ただの忘れ形見さ」

 

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