22話

「ねぇ、君。そこで何してるの?」


「・・・・・・家族を待ってる」


「そっかぁ。何してる人なの?」


「サルベージハンター」


「へぇ! すごいね」


「もう一年も帰ってきてないけどね」


 子供の姿をしたリニアは、つまらなそうな顔で海を見つめる。


「どこかの海で、もう死んだんだろうな。家族が残した貯金ももう切れた。行き場もないから、黄昏れてんだよ」


 そう言えば、気まずくなって追い返せると思った。


 しかし、その少女はリニアの手を取って引っ張る。


「じゃあ、うちに来ない? 歓迎するよ」


 リニアはその少女の無神経さに腹を立てた覚えがある。

汚い言葉で、黒い感情を小さな少女にぶつけた。


 それでも、少女は諦めない。


「人ってね、死んじゃって幽霊になったら、死んじゃう前に持ってた感情が永遠についてきちゃうんだって」


 少女は、リニアの手を握りしめた。


「君に不幸のまま死んで欲しくない。だから、ね?」


 その少女は、満面の笑みでそう返してきた。


〜〜〜


「見て! リニア、お花畑だよ」


「ああ、珍しいな」


 少女は花冠をリニアの頭に乗せると、似合わないと言って笑う。


 少女は頭に乗った花冠を見ながら、唐突に少し寂しそうな顔をした。


「本当に、サルベージハンターになるの?」


「・・・・・・ああ、少しでも家に金を入れたいからな」


 少女は少し複雑そうな顔をしながら、自分の腕を抱きしめる。


「死んじゃうかもしれないんだよ?」


「・・・・・・俺は今、幸せだからな。死んでも悔いは残らない」


「そっか」


 少女は、決してリニアの方を見ずにそう言った。


〜〜〜


「ねぇ、あなたはどうして野蛮に振る舞うの?」


 そう女性がリニアに聞いた。


「舐められないようにだ。サルベージハンターは舐められた瞬間、襲われ殺される」


「野蛮な貴方は苦手よ」


 少し寂しそうに女性は言った。


「そうかよ」


 困ったような顔をしているリニアに女性は微笑む。


 そして、女性はリニアの頬にキスをした。


「でも、貴方が好き」


「は?」


 呆気に取られるリニアを見て笑っていた。


〜〜

「ねぇ、聞こえる? リニア」


 受話器から女性の弱った声が聞こえる。


「ああ、ああ! 聞こえるぞ!」


「私、もう駄目みたい」


「そんなこと言うなよ! まだ、まだこれからじゃねぇか!」


「ごめんね。私、幸せだった。貴方のおかげよ、貴方がいてくれたから、これから永遠に幸せな思いができる」


 リニアは受話器に縋る。


「ねぇ、リニア?」


「なんだ?」


「愛してる」


 そこで、通信が途絶えた。

リニアは叫んだ。喚いた。


 返事をしたかった。

自分も、愛しているのだと。

 

〜〜〜


 ああ、全部思い出せた。

彼女の声も、顔も、そして名前も。


「すまんな、リリー。忘れかけてた」


 脳裏に、妻の楽しそうな笑顔が浮かぶ。


『私が本心でそんなことに怒ると思う?』


 その言葉が幻聴だとしても、リニアにとって最高の言葉だった。


 リニアは気絶したヒバナを見る。


「お前には迷惑をかけたな」


 ヒバナの絶望は、アレスの絶望にそのまま直結している。


 そのため、全く関係のないヒバナまでもあの手この手で絶望に陥れてきた。


「おらっ!」


 リニアは今ある力を全て込め、ヒバナを上へと投げる。


「勝負は俺の勝ちだ、英雄さんよ」


 リニアの身体は、海面に迫る。

 死を悟った瞬間、走馬灯が迸った。


 巡る記憶は、妻との想い出が殆どで、リニアは思わず笑ってしまう。


 これ程、幸せなことはない。


「いい人生だった!」


 リニアは最期の言葉を言い放ち、海へと消えていった。

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