21話

(攻撃が当たらない・・・・・・?)


 そう不思議に思いながらも、リニアは攻撃を止めない。


 攻撃に幸運の補正が掛かっているのにも関わらず、ヒバナは1発も喰らわずに避け続ける。


 こんな芸当ができる人物はサルベージハンターの中でも多くない。


 子供にできる芸当では決してないのだ。


「このっ」


 リニアが焦って出した大振りを、ヒバナは躱してその腕を掴む。


 リニアはヒバナを振り払おうとするが、腕が思うように動けない。


 強い力で押さえつけられている。


 振り払うのを諦め、ヒバナの頭を掴もうとすると、ヒバナは即座に距離を取った。


 リニアは、即座にヒバナを追いかける。


「くそっ」


 元通りになるためには、アレスを絶望させてから殺さなければならない。


 ヒバナの前に、アレスを殺すと欠けた記憶は返ってこない可能性があるからだ。


 残り1分。

それがリニアが、スキルを使用できる限界だ。


 だが、ヒバナの身体は化け物染みた動きについて来れていない。


 息を切らしてきて、判断力が失われていっているのがわかる。


 どちらが先に倒れるか、消耗戦となる。


「くたばれ!」


 リニアはふと、攻撃する腕を止めた。


 記憶が一つ消えたからだ。

熱くなった闘志を消化し、アレスを探す。


 場所はすぐにわかった。


 アレスは背後から、リニアの首を絞める。

『無敵』のもう一つの弱点である拘束技を実行していた。


 リニアはアレスを振り解き、投げ飛ばそうとするが、腕をヒバナにしがみつく。


「耐えろ、アレス! あと1分切った!!」


 その叫びで、また一つ記憶が消去された。


 リニアは苦しみながらも、無理やり2人を引き剥がした時にはもう残り時間が数えられる程しかなかった。


 勝利への道筋が一つに絞られる。


「クソが!!」


 リニアは無防備に見えたアレスの身体にパンチを、撃ち込んだ。


 しかし、そのパンチはヒバナが受け止めた。


 ヒバナの左腕の骨が折れる音がする。


 だが、ヒバナは笑っていた。


「これでもう、お前はスキルを使えない」


 その瞬間、リニアの身体から金色のオーラが消えた。


「終わりだ!」


 ヒバナが後頭部に鉄パイプを喰らわせようと、振り上げる。


(俺の、負けか)


 振り下ろされる鉄パイプを、リニアは諦めたような目で眺める。


(俺は、なんのためにこんな頑張っているんだ? 早々に諦めていればよかったものの・・・・・・)


 ゆっくりと目を閉じようとしたリニアの耳に声が届く。


『あなた。私を忘れようなんて、一生許しませんよ』


 その声が聞こえた瞬間、目を見開いた。


「リリー!」


 鉄パイプがリニアの頭に当たる瞬間、スキルを発動した。


「ぐわぁ!!」


 そう叫んだのは、リニアではなくヒバナだったことに、アレスは困惑する。


「・・・・・・は?」


「ははは、思い出したぞ!!」


 倒れ込んだヒバナを掴み、持ち上げてアレスへの盾にする。


「そんな。私たちはちゃんと時間を測っていた」


 リニアが、MPが切れた様に見せかけだったとしても時間はアレスの懐中時計で正確に測っていたのだ。


 間違えようがない。


「MPの消費が激しいのは【ゲットラッキー】でな、【ラッキーカウンター】は常時発動可能だ。ここまで言えばわかるな?」


 リニアは、最後の望みとして残しておいたラッキーカウンターを、30%の確率を引き当てたのだ。


「幸運が味方したのは、俺ってことだ。クソガキ共」


 リニアが長年、死なずにサルベージハンターを続けてきた猛者だということを、嫌にでも思い出させる。


 ピンチや逆境に打ち勝つ。

 皮肉にも、ヒバナの憧れを体現したのが、リニアだった。


「おいおい、嘘だろ・・・・・・」


 ヒバナがもう一度、立ちあがろうとしているのが見えた。


「これでも駄目か」


 リニアは一つ溜息をつくと、夜空に浮かぶ花火を眺める。


 そして、リニアは決心した。


 思い描いていた最善を取る決心だ。


「悪くない人生だった」


 リニアはそう呟いた次の瞬間、野蛮な笑みを浮かべた。


「お前の絶望はここからだ」


 リニアはヒバナの腹を思いっきり殴って気絶させると、ヒバナを担ぐ。


 ヒバナを助け出そうとしたアレスに拳銃を向けると、アレスは怯んだ。


 先ほど、無いはずの銃弾が自分を貫いたのだ。


 もう無いと分かっていても、まだあるのではないかと、警戒するのも当然である。


 だが、その一瞬の隙を見逃してくれるほど、リニアは優しくはなかった。


 その隙を使って、リニアはヒバナを道連れに“甲板から海へと飛び降りた”。


「なっ! ヒバナ!!」


 アレスは大型船の甲板から手を伸ばすが、届かない。


 自由落下していく、ヒバナが見えなくなる。

いくら、海の上とはいえ、ここからの高度から落ちて仕舞えば、海はコンクリートと同じ強度を持つ。


 駄目だ。助からない・・・・・・。


 アレスはそう悟ってしまった。


「いやぁあああああ!!」

 

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