幻影の館

文重

幻影の館

 その館には誰もが辿り着けるわけではありませんでした。館が人を選んでいる、とでも言うのでしょうか。興味本位で訪ねようとする者の前には、決してその姿を現すことはなかったのです。


 その館にある時、貧しい身なりの若い女性が訪れました。後に問われて語ったところによると、豪華な食事の後、煌びやかなドレスをまとって王子様と踊ったということでした。


 その館はまたある時、杖をついた老紳士を迎え入れました。偏屈のあまり彼のもとを去っていった家族や友人に囲まれて誕生日を祝ってもらったのだと、相好を崩して皆に語ったのでした。


 その館で殺戮を楽しんだと称するサイコキラーもいました。しかし、実際の殺人事件として世間を騒がすことはありませんでした。


 その館を再訪できた者もいませんでした。一人が去ると、また新たな者が迎えられます。まるで館自身が主(あるじ)を探しているかのように。


 その館は、次はあなたを待っているのかもしれません。

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幻影の館 文重 @fumie0107

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