第34話 一肌脱いじゃう 10
翌日、会議の場に悲壮な顔で現れた二人に王太子は
「どうした?作戦は失敗か?」
「申し訳・・・」
と言いかけた時、伝令の騎士が飛び込んできた。
隣国に潜り込ませていたものから知らせがあった。
夜のうちに、隣国の城が崩壊したと。
天気だったのにもかかわらず、急な暴風と雷雨。王宮を中心に嵐が起こり、次々と落雷が発生し堅硬なはずの城が一晩で崩れたという。
そして夜が明けると城下町は壊滅状態。国境近くの町に集っていた兵たちは、救助と復旧の為に各地へと派遣されることになった。
そして国境にあった広大な森は、木々がすっかり倒され、見通しが良くラッシュ国から監視しやすくなっていた。そして国境に添うように大きな湖ができて自然の堀のような役目を果たしていた。
隣国は、震えあがった。
前回も思わぬ突風により、兵は退去せざるを得なかった。
今回も果たして、雷が落ちただけで城壁は崩れるものか?と動揺が走る。
兵や民の中に、荒れた天気の中真っ黒な巨大な何かを見たという目撃証言がいくつもあった。
暴風に蹴散らされた前回の事を何らかの兵器だと考えた隣国は、ラッシュ国にスパイを潜り込ませていた。しかしいくら探ってもそのような情報は得られない。
それならばと再び侵攻を企て、王太子を暗殺して混乱に乗じて攻め込むつもりだった。
しかし、暗殺は失敗し、のみならず自国が半壊した。
侵攻を企てた国王は唯一壊されていなかった見張りのための高い塔の屋根の尖頭に服をひっかけられてわめいているところを発見された。
誰もたどり着けないような場所に救助に行くのは難しく、どのようにして足場を作るか、誰が行くかなど救助方法を検討しているうちに、肥え太った国王の身体を支えきれなくなった衣服がじりじりと裂け始めた。
国王が、「早く助けろ!無能ども!」と叫ぶ間もそれはじりじりと進み、国王は呪詛の言葉を吐きながら落ちていった。
残されたもの達は、秘密兵器なのか、超人的な力を持つ兵士がいるのか、はたまた何かに守護されているのかと恐れているという。
好戦的な現国王が死亡したことと国の疲弊により、今後はもう他国に手を出す余裕はないだろう。周囲国の援助無くしては立ち行かない状況で、いずれ他の国に吸収されるのではないかという報告だった。
ようやくゆっくりと家に帰って体を休めることが出来たステファンは、まだよく眠っていた。
その寝顔を見ることが出来る幸せを噛みしめて、エヴェリーナは庭に出る。
祠を奇麗に掃除し、苺をそなえて語り掛ける。
「お使い様・・・いえ、竜神様。この度の事心からお礼申し上げます。私を、この子を、そしてこの国を助けていただいて感謝しております。私は一度目も・・・ドランの森であなたに助けられました。ずっとあなたに見守っていただいていたのですね。」
トカゲは花の陰で首を振る。
違う、助けられなかった。我はそなたを助けられなかったのだ。
「私は不思議な人生を送っています。それも竜神様のお力なのではないのでしょうか。」
エヴェリーナは涙を浮かべる。
「あの苦しくて絶望のまま死んでいった私にやり直す機会を下さって・・・どんなに感謝しても感謝しきれません。どうして私を気にかけてくださるのですか?これほどの幸せをいただいて、どうやってお礼をすればいのか・・・」
エヴェリーナは祠に語りかける。
あの時の苦しみを思い出すだけでいまだに胸がつぶれそうになる。それが今世のような幸せな人生を送れているのはすべて竜神のおかげだと信じている。
お礼?そんなものはいらない。
ただ温かい心を持った少女を見守りたかっただけ。忘れられた祠に心を寄せてくれ、我の為にドラン国の花やいちごを植えてくれ、祠まで建ててくれる心優しいエヴェリーナ、そして我(トカゲ)を守るためにパトロールするアノ。
この家族を守るためなら竜の姿をとるのも、人前に姿を現すのも厭わない。
本当はトカゲの姿でいるのが好きだけどね。
久しく人と話すことはなかった。
だから片言のように、しかも仰々しい話し方になる。ちょっぴりそれを気にしている竜神は、寡黙にして語らず。
それがまた竜神を気高く見せ、人が畏敬の念を抱くことになる。そしてそのイメージを損なってはいけないとまた寡黙になるという・・・ちょっぴり気をまわしすぎる竜神だった。
「我はいつでも見守っている。」
どこからか声が聞こえて、エヴェリーナは周りを見渡した。
芝生の上をすいすいと祠の方に向かう一匹のトカゲの姿。
エヴェリーナは最上級の礼をとり、見送った。
「お母様!」
いつの間にかアノがやってきてエヴェリーナに抱き着く。
「お母様泣いてるの?神様に怒られちゃったの?」
エヴェリーナは涙を拭いて微笑むと
「いいえ、神様はとっても優しいから怒らないわ。神様はこの国をお救い下さったの。そしてお母様の事も何度も助けて下さったのよ。だからどうやって神様にお礼をしたらいいか考えていたの。」
「そんなの簡単だよ!僕ね、内緒だけど神様のお使い様とお友達なの!でもお使い様、ちょっぴりぼんやりさんだからよくお庭で干からびてるの。だからいつも僕が助けてあげてるんだ!」
「まあ、そうなの?ありがとう、アノ。」
「えへへ。でね!これからもずっとトカゲさんを助けてあげるよ!僕がお使い様ともっともっと仲良くなったら神様喜んでくれると思うの!」
満面の笑顔でそう言う、アノの頭を撫でた。
「そうね、きっと優しい神様は喜んでくださるわ。これからもトカゲさんをよろしくね。」
「うん!」
二人の会話をトカゲは耳にして、祠の下で嬉しそうにゆらゆらと体を揺らした。
いつもの姿に戻り、のんびりとした気分で日向ぼっこ。
干からびかけるまでウトウトしちゃうほど、気が緩む。トカゲの姿だと素のままでいられる。
だって神と呼ばれる竜の姿や人の姿でいつものうっかり者の我をさらせないからね。
人々の期待を裏切ったらいけないからね。
でも、願わくばこのままの我と・・・
その願いは近い未来に叶うことになる。
アノに慕われ、交流する日が来るとは、今の神様はまだ知らない。
終わり
最後までお読みくださりありがとうございました(*´▽`*)
身を引いても円満解決しませんでした れもんぴーる @white-eye
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