感想『往生!月面コンビニ事故物件』ベンジャミン四畳半さん
山本Q太郎@LaLaLabooks
感想『往生!月面コンビニ事故物件』ベンジャミン四畳半さん
○初見の印象
先がどうなるかわからなくて引き込まれました。
荒涼としているけどほのぼのとした世界観がよかったです。
月にあるコンビニに甲冑騎士の幽霊といったモチーフ選びが魅力に感じました。
読んでいるうちにだんだん町田洋「惑星ナインの休日」のビジュアルで再生され始めました。
全般的に描写が詩的な印象がありました。レイブラッドベリの「火星年代記」は空気感なんかが近いんじゃないかと思いました。
リチャード・ブローティガンなども似た印象がありました。
○良かったポイント
シュールな展開の作品なので、好みの部分が大きいと思いますが自分は好きでした。
未来的な日本っぽい日常に西洋的な古い意匠を当てるというのは、成功してると思いました。
一見適当で情熱とかを持ってなさそうだけど、わざわざ石のバラを探して買ったり人のためになることをしたいという登場人物たちが作品を気持ちよく読めるポイントだと思いました。
馬が現れるシーンなど詩的な描写で良かったです。
○気になったところ
・場所や人物の描写はシーンごとに初めにまとめた方がいいかも。キイチ君が同じ店員の後輩という関係性に気づくのにしばらくかかりました。
(自分もよくやってしまうので、勉強になりました)
・微妙な表記のブレで一瞬戸惑う
幽霊の表現:いる・いない、見える・見えない、出る・でない。となって同じ出来事を指しているか引っ掛かる時がある。
サラダボウルと皿:文脈状同じモノなのはわかるのですが、一瞬戸惑う。
甲冑と鎖帷子:イメージがズレてしまいました。オタクっぽくなるので細かくは端折ります。
○自分だったら手を入れるところ
・「ニュルゲンさんが妻の願いを叶えたい気持ちに切実さが出るような理由をつける」望郷、自己犠牲と感情を動かせるバックグラウンドがたくさんあるので、掘り下げる余地はあるかと。ぼんやりしているコンビニ側の人と滅びかけた故郷を救うため命をかけた旅をするポリミテ星人という対比が作れると思いました。他に、ニュルゲンさんの孤独とコウジさんの孤独という共通点からの共感、と後にどちらにも仲間がいてよかったね、と同じ流れにのせる見せ方も面白そうです。
・雪が降るシーンがクライマックス感があって盛り上がるので、幽霊が成仏する日をホワイトクリスマスにしたい気もする。そうすると、店員二人からの「デザートローズ」がポリミテのニュルゲンさんへのクリスマスプレゼント、かつニュルゲンさんから奥さんへのクリスマスプレゼントとモチーフを重ねることも出来そうです。けど、やりすぎてうまい事やるのが目的化しちゃうのもワザとらしくなるので考えものですね。
現状の「コウジさんに友達からの誘い」というささやかだけど嬉しい「クリスマスプレゼント」という流れも捨てがたいですしね。
不条理もの、安部公房、三崎亜記、ヨルゴス・ランティモスあたりが好きなので楽しかったです。
すっきりした文章が詩的で登場人物の存在感も素っ気ないけどハートフルだったりといったさじ加減が何より良かったです。
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