第41話『エピローグ』
魔王を倒した俺とサラ。
俺達二人はアヴリイル村を離れ、魔物が多く生息していたこの森の奥地に家を建て、そこでスローライフを送っていた。
「あれから一年……か。時間が経つのはあっという間だな」
「ふふっ。レン様との
現在、森の奥地で引きこもっている俺にはこの世界がどうなってるのか分からない。
とはいえ、俺が魔王を倒した事で魔物達は弱体化したらしいので、きっとこの世界には平和が訪れたのだろう。
「怠惰で緩慢って……サラは毎日働いてるじゃないか。こんな所でも畑を耕して、狩りにだって出かけてる」
「そうですね。でも、その代わり人付き合いに使う時間がなくなりましたから。周囲との人間関係に気を使ったり、外界の情報を集めたりしなくていい。それだけでわたくしにとって今の日々は怠惰で緩慢な日々なんです。アヴリイル村に居た頃と違い、今はこうやってお昼からレン様の隣でのんびり出来ますしね♪」
そう言って俺の腕によりかかってくるサラ。
「それに何より、狩りにはレン様がいつも同行してくれるようになったじゃないですか。アヴリイル村では数回しか狩りに同行してくれませんでしたのに」
「だってあの村での狩りって早朝からじゃんか。俺、朝はぐっすり眠りたいんだよ。それに朝だとノクティス様から貰った俺のチート能力が発動しにくいし。それに、他の人も居たからやり過ぎて問題にならないように気を付けるの面倒くさかったし」
「実際、幾度も問題になりましたからね」
「だろ? その点、ここなら他に誰も居ないからやり過ぎにならないよう気を付けるなんて事しなくていいし。何より狩りの時間をサラが夜にしてくれてるからな」
「それは……わたくしとて乙女ですもの。強くて頼もしい。けれど迂闊で茶目っ気があって、人生を全力で舐めている。そんな素敵な男性であるレン様に守ってほしいと思ってしまうのです」
「うん、それ思いっきり
「そういえばレン様。ノクティス様と言えば、あれからレン様の元に連絡はないのですか?」
「聞けよ。いや、掘り下げる話でもないけどさ」
しかしノクティス様……か。
「そう言えば魔王を倒したその翌日、労いの言葉をかけてくれたっきり話しかけて来なくなったな」
「そうなのですか?」
「うん」
魔王が居なくなり、平和となったこの世界。
だからこそ、ノクティス様はこの世界に興味をなくしたのだろう。
「ノクティス様の声が聞こえなくなって……レン様は寂しいですか?」
「寂しい?」
そんな事、考えた事もなかった。
いや、でも確かに。
ノクティス様はこの世界に来てからずっと俺の冒険を見守ってくれていたからな。
そんな女神様の声がいきなり聞こえなくなった。
隣にいつも居た相棒の声が聞こえない。
そんなの当然、寂しいと思うに決まって――
「――――――いや、寂しくはならないな。あの女神さまは毎度毎度、俺のやり方に文句言ってくるし、最後はポカやらかして迷惑かけさせられたし。正直、できればもう会いたくない……」
確かにノクティス様はこの世界に来てからずっと俺を見守ってくれていた。
ただ、それは隣に居た相棒という感じじゃなくて。
どっちかと言うと、隣でトラブル生成し続ける厄介な悪友という感じだった。
そんなトラブル生成機の悪友なんて当然、スローライフを求める俺には不要なわけで。
「そ、そうですか。まぁわたくしにとってもノクティス様が居なくなったのは嬉しい事ですね。こうしてレン様を独り占めできますし♪」
そうして。
俺とサラは平和になったこの世界でずっとスローライフを送って――
――バァンッ!!
「お願い
「きゃっ。な、なんですかいきなり!?」
まったりとした空気の中。
どこかで見覚えのある明るいピンク色の髪の少女が我が家に入って来た。
――っておい。
ノクティス様じゃないか。
俺の名を呼び、助けを求めているノクティス様。
なんで天界とかに居るはずのノクティス様がこんな所に居るのか。
疑問はたくさんある。
ただ、それ以上に俺は猛烈にトラブルの予感を感じていた。
だから――
「あ、人違いです」
そう言って俺はバタンと扉を閉めた。
すると外に出されたノクティス様はドンドンと入り口のドアを強く叩きながら。
「いや、聞いてよ
「なぁサラ。俺、ちょっとおかしいみたいだ。居るはずのないノクティス様の幻覚が見えて、幻聴まで聞こえる」
「あら……それは大変ですね。とはいえ、かくいうわたくしも同じ状態です。お互いに疲れているのかもしれませんね。レン様、子守唄をお願いしても良いですか? 代わりにわたくしもレン様を癒すべく子守唄を歌いますので」
「お、いいなそれ。よし、大声でノクティス様の幻聴なんて気にならないくらい子守唄を歌おう」
「聞こえてない振りしてんじゃないわよ薄情勇者っ!! ねぇちょっと!! 天界が魔神によって完全に支配されたら全ての世界のバランスが崩れるからアンタ達も無関係じゃないのよ!? このっ……早くこのドアを開けてきちんと聞きなさいよっ! 勇者ならみんなのピンチを救いなさいよバカーーッ!!」
ノクティス様の幻聴が思いっきり響く中。
俺はサラの為に大声で子守唄を歌った。
「こうして~~。何の問題もなく~~。俺とサラは平和になった世界で~~。スローライフを~~。送るのだった~~。完っ!!」
「終わるなーーーーーーーー!!!」
Fin
女神さまのお願いだろうと勇者ポジだけは御免です~異世界召喚ボーナスとしてチート能力貰ったけど危ない事に首を突っ込みたくないので全力でテンプレ展開回避します~ @smallwolf
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます