第40話『決着』


「………………あれ?」


 どうしてだか分からないが、首をかしげる魔王。

 俺はそんな魔王の反応を気にすることなく、続ける。


「それに確かに、裏で色々と汚い事とかしたり星の資源を欲望の為に吸い上げまくってる人間より魔族や魔物の弱肉強食ルールの方が心地いいってのはあるよな。分かるわー」



 人間も別に悪い人間ばっかって訳でもない。

 ないのだけど、悪い人間の方が偉かったり大物だったりなんてよくある事で、つまるところ腐ってるのは否めないからなぁ。

 

「………………」


 なぜか口をポカンと開けて絶句している魔王。

 そうしてしばらくした後、彼はぽつりと。


「まさか勇者に共感されるとは思ってなかったよ」


 そう呆れたように言った。

 いや、そう言われても……だって俺は自分が勇者っていう自覚もあんまりないし。


「さすがレン様ですね。魔王を絶句させるなんて流石ですっ!」


「君も君で凄いね。さっきから彼の珍妙な行動を褒めてばかり。付き合わされてるこっちは頭がおかしくなりそうだよ」


 まだ戦ってすらいないのにぐったりと肩を落とす魔王。

 しかし、そんな魔王も気を取り直したのか再び俺を見据え。


「まぁ、意見が合おうが関係ないけどね。僕の目的は三つ。一つはさっき話したように人類を滅亡させる事。一つはこの国の王族の血を絶やす事。そして最後の一つは……召喚された勇者を殺す事だ。だから君とは仮に分かり合えたとしても戦う運命は変わらな――」


「喰らえ俊足しゅんそくの右足ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!」


 さっきまでやり辛いとか言っていた俺。

 そんな俺は、全力全開全速力の俊足しゅんそくの蹴りを魔王へと放っていた。


「うげはっ!?」


 気を抜いていたのだろう。普通にヒットする俺の攻撃。

 ただ――


「ちぃっ! 速度をイメージしすぎたせいでダメージがそんなに入ってないな。なら次だっ!! ガンガンガンガン行くぞ魔王っ!!」


「ちょちょちょちょっと待って!? さっきまで乗り気じゃなかった感じなのに急にどうしたんだい!? そもそも、これは勇者と魔王の最終決闘なんだよ!? もっと雰囲気とか――」


「じゃかぁしいっ!! 召喚された勇者を殺すとか……そんな『お前を殺しますゼッタイに』みたいな事を言う奴と話す事なんて何もないっ! だってお前は俺が敵対しようが逃げようが田舎でのんびり過ごそうが俺の命を狙ってくるんだろ? じゃあ貴様は俺の敵だっ! 俺のスローライフは誰にも邪魔させないっ!! 俺がこうしてマウント取ってる今こそがチャンス。ここでぶっ殺してやるっ!!」


「なんて物騒な!? 君、本当に勇者なのかい!?」


 問答無用。

 俺は今度こそ絶対に魔王を滅ぼすべく、イメージを固める。



 その時だった――



「ま、魔王様! 王国軍を攻め立てている我が軍ですが、何者かが仕掛けていた罠によって侵攻を阻まれ……ってこれは!?」


 なんか数十人くらいの獣型の魔物が入って来た。


 あ、しまった。

 魔王を滅ぼす事にのみイメージを集中したせいで、いつの間にか外の空間との時間の差異がなくなってしまっていたらしい。


 つまり、これから魔王の配下さん達が大量に押し寄せてくる訳で。


「よ、よしっ! よく来てくれたっ。この者達を殺せっ! 君たちの力を最大限に引き上げるっ。油断はしないでくれよ。こいつは頭はおかしいが実力確かな勇者だっ!! 全ての四天王がこいつにやられたっ」


「なっ……では先ほど入室されたラザロ様とレイヴン卿は……」


「それはこの勇者達が化けた姿だ。卑怯にもこの勇者はラザロとレイヴンに成りすまし、僕の命を狙ってきたんだっ!」


「なっ……。貴様……そうやって卑怯な手段で私の憧れであるラザロ様を倒したのか!! 正々堂々とではなく卑怯な手を使って……。この人でなしがぁぁぁっ!! 許さん、私自らが貴様を切り刻んでやるっ!!」


 なんか思いっきり怒っている魔王軍の獣人。

 いや……獣人のあなたに人でなしと言われましても……。


 まぁ、いいや。

 外との空間断絶がなくなり、魔王の配下さん達まで来たなら仕方ない。

 


「来てくれ、サラ」


「畏まりました♪」



 俺はサラを抱き寄せ、二人一緒に飛んだ。

 そうして壁をぶち壊し、上空へと飛翔する俺とサラ。



「なっ、まさか逃げるつもりか!? そうはさせんっ。行くぞ野郎共っ!!」



「「「おおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」」」


「逃げた? それならそれで僕としては構わないのだけれど……本当に逃げたのかな? 王女もほったらかしにして……あれ王女が居ない!?」


 今さら王女が居ない事に気づき、動揺する魔王。

 王女は魔王軍の兵士が入ってきた瞬間、テレポート魔法をイメージして王国軍を追いやった場所へと飛ばした。


 つまり、俺の眼下には敵しか居ない訳だ。

 だから――


「重力に引かれて落ちろっ! グラヴィティ・プレッシャーッ!!」



 俺を逃がさないとばかりに飛んできた獣人たち。

 その鼻っ柱に俺はイメージした重力魔術を叩きこむ。

 俺のイメージしたソレは真っ黒な靄が広がるようにして獣人たちに触れ。


「なんだ、この妙な魔術は? こんなも……ガァァァァァッ!!」


 そう言って仲良く落ちる獣人たち。

 俺のイメージした重力魔術。

 それはもやが触れている個所の重力が増すというものだ。


 ちなみにこのもやが触れている個所の重力値は……通常時の百倍。

 なので。



「「「げはっ――」」」


 当然のように、獣人たちは地面へと叩きつけられて身動きのできない状態になる。


 それでも強化されているからか、獣人たちはまだ生きているようだった。

 しぶとい。


 それにしても……と。俺はふと頭上を見上げた。

 真ん丸なお月様。

 今日は満月か。


 これは……やばいな。


「ふ、ふふ。満月の輝く夜の闇の中、雑魚を蹴散けちらし魔王を見下ろす俺。あぁ、いい気分だ。これは自然と高まってくるなぁ」


「あ、レン様がノリノリモードに。これはかなりレアですし、目が離せませんねっ!!」



 隣でサラが何か言っているが、今はそれどころじゃない。

 あぁ、イメージ力が高まる。

 この深夜テンションならなんでも出来そうだ。


 だから――



「せっかく使った重力魔術だ。最後はこれで行こうか」



 俺は眼下に広がる黒いもやの性質をイメージに合わせて徐々に変化させていく。

 


「この靄は……触れている個所の重力を強制的に変化させているのか。こんな魔術まで使えるなんて……あまりにも馬鹿げて……うぐっ――」


 味方を強化させている間はあまり動けないのか、魔王も俺の放ったもやの中に取り込まれた。

 結果――


「な、なんだ? さらに急激に体が重く感じ……ぐっがっ――」


 俺は百倍……二百倍と靄の中の重力を変化させていく。

 そのまま超重力……光さえ呑み込む超重力を俺はイメージする。

 それ即ち――



「俺のスローライフを邪魔する奴はみんなこの世から消え去れっ。喰らえ重力の極致、ブラックホールッ!!」



 黒いもやが真っ黒な穴へと変化する。

 そうして全てを呑み込む超重力の穴、ブラックホールに魔王達は呑み込まれ――



「あぁ、眼下の魔王軍が幾人も闇に呑みこまれて……さすがはレン様ですねっ! こんな禍々しい魔術。もはやどっちが魔王か分かりませんっ!」


「それ褒めてるのかサラ!?」


 そうして。



「――――――――――」



 声も届かぬ闇の中に魔王は消えたのだった――

 


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