第39話『決戦! VS魔王』


 そうして作戦通り、四天王のラザロとレイヴンにふんした俺とサラは王国軍を罠が密集した地帯に追い込み、王女の誘拐に成功。


 誘拐した王女をサラに魅了してもらい、『夜の方が勇者にとって有利』とノクティス様が言っていた事について誰かに話したか尋ねてみたが、誰にも話していないとの事だった。


 それを確認した後、そのままサラには王女の記憶の中で俺の不都合になりそうな物を消してもらうようにお願いし、それはなんなく成功した。



 その後、俺は王女に何も知らせないまま眠ってもらい、彼女を魔王への献上品として持っていった。

 なぜか訝し気な視線を俺へと向けてくる魔王軍の者も居たが、特に何事もなく俺とサラは魔王の元へと辿り着き。


 そうしてとても魔王には見えないが、魔王を名乗る黒髪黒目の青年と相対する。

 そいつはその頭から小さな角が出ていなければ、普通の日本人にしか見えないくらい普通の人間の外見をした魔王だった。


 とはいえ、見た目がどうあれこいつが魔王である事は間違いない。


 なので―― 


「――とぅっ!!」


 

 俺は魔王の隙を突き、小さな短剣を魔王へと突き出した。

 王女の方へと意識を持って行かれ、隙を晒している魔王。

 この不意の一撃は躱せない。


 そう思っていたのだが――


「――おっと危ない」



 ――ガッ



 俺の突き出した短剣が魔王に突き刺さる直前。

 魔王は俺の手を掴み、それを押しとどめていた。


 それでも俺は短剣をぶっ刺してやろうと思いっきり押し込もうとするが……魔王のその強い力に押さえ込まれ、動かす事すら出来ない。

 

「ラザロ……じゃないね、君は。本物のラザロが僕に歯向かう訳がない……とは言わないさ。ただ、彼がこんな武器を使う訳がない。彼は自分の肉体で戦う事を誇りにする獣人だったからね。加えて、彼が不意打ちなんて卑怯な真似をするわけがないし、そんな彼の拳を僕が止めれる訳もない。――君は……誰なんだい?」

 


 俺に対して「君は誰だ」と問いを投げる魔王。

 さすがにバレてしまったらしい。

 俺は「はぁ……」とため息を吐いて。



「――さすが魔王様。第一作戦は失敗……か」


 俺はサラと自分にかけていたイメージを解く。

 俺はラザロに、サラはレイヴンに見えるようにというイメージを解いたのだ。


 そうして。


「どうも、加藤かとうれんです。魔王さん、特に恨みはないんですけど、あなたの命、頂戴しに来ました」



 俺は魔王を前に、そう言ってのけ。



「それにしても……よく今の一撃をかわしたな。さすがは魔王って所か。不意を突いたいい一撃だと思ったんだが」


 肩をすくめて先ほどの一撃を防いだ魔王の行動を褒める。

 しかし、魔王は困ったように頬をかきながら。



「いや、まぁ……うん。警戒はしていたからね。君たちが変装していたラザロとレイヴン。あれ、違和感があったし」


 俺達が扮したラザロとレイヴン。

 そのちょっとした挙動の違和感を魔王は逃さなかったと。

 だからこそ警戒はしており、俺の不意を突いた一撃を防ぐことが出来たと。


 つまりはそう言う事か。



「なるほど……さすがは魔王。部下のちょっとした挙動の違和感にも気づくとはな……」



 俺の感心したような声に魔王は「いや……」と少し言いづらそうにしながら。



「こう言ってはなんだけど……ちょっとした挙動の違和感どころじゃなかったよ? 特にラザロに扮していた君。君の演技がとても酷かった。僕の知ってるラザロはあんな頭の悪い喋り方をしなかったからね。正直、すぐに攻撃に移っても良かったんだけどね。万が一を考えて受け手側に回ってみただけで」



 俺の演技がとても酷かったと。どこか申し訳なさそうに告げる魔王。

 ……奇襲作戦が失敗した理由、俺のせいらしい。


「残念でしたねレン様。しかし、それでもわたくしは凄いと思いますっ! あの大根役者のような演技でこうして魔王の元まで来られるなんて……。失礼ながらわたくし、レン様の演技を見た瞬間に門前払いされるかと思いましたもの。それなのにレン様はこうして目論見通りに魔王を眼前に捉えている。さすがレン様ですっ!」


「俺の演技がダメダメだって気づいてたのなら先に言ってくれる!?」



 俺の演技。

 それがダメダメだと、サラは最初から気づいていたらしい。


 なるほど。

 どうりでここに来るまでの道中、訝し気な視線を多く感じた訳だ。


「しかし……加藤かとうれんか。その変わった名前に黒髪黒目のその人相……君、もしかして勇者かい? つまり、ラザロやレイヴン。そしてアブカルダルムにリッチモンドも君が倒したと。そう考えていいのかな?」


 俺の名前と外見から俺を勇者と見抜く魔王。

 ここまで来たら隠す意味もないので、俺は「ああ」と答える。 



「特に倒さなきゃいけない理由もなかったんだけどな。まぁ、成り行き上仕方なく」


「成り行き上で倒されると僕としてはかなり困るんだけど……。そうだ。もう一つ聞いてもいいかい?」


「どうぞ?」


「実はさっきからこっそり僕の部下に連絡を取ろうと試みているんだけど……なぜかそれが失敗しているんだ。これ、もしかして君のせいなのかな?」


 なんと。

 俺の気づかない間に部下に連絡を取ろうとしてたのか。

 なんてしたたかな魔王。抜け目のないやつ。ノクティス様とは大違いだ。


 だから――良かったと。

 そう俺は安堵した。

 いや本当に……念のためにこれをやっておいて本当に良かった。


「ふふん、その通り。外との連絡は俺が封じている。というか、今俺が視認しているこの空間は時の流れが外界と異なる。外での一日がこの空間では一年に感じられるように設定したからな」


 時の流れが違えば自然と外との通信も繋がらなくなる。

 加えて、外の時間の流れを遅く、中の時間の流れを早くした事によって外の連中が異変に気付いても助けが来ないという状況を俺は作り出した。


 これで……部下を強化すると言う魔王の能力は封じたぜっ!!


「え……なに? 時間に干渉したの? そんな挙動、全然感じなかったのに……勇者の能力ずる過ぎない? 何か制約があるのかもしれないけどさ」


 逆上して怒り狂うかと思っていたが、意外と余裕そうな魔王。

 なんだかため息を吐きながら「やれやれ」と困ったように肩をすくめていて――


「これは――詰んだかな。僕の能力は魔物の超強化のみだ。その能力なしでもそれなりに戦えはするけど……時間に干渉するような勇者を相手にやれるかと言われると怪しいと言わざるを得ない」


 諦めたような言動をする魔王。

 だが、魔王は「でも」と続ける。


「これでも僕は魔神様によって選ばれた魔王だからね。情けない所は見せられない。だから――――――さぁ、やろうか勇者」


 なんか魔王だと言うのに最終決戦に挑む勇者みたいな事を言い出す魔王。

 勝ち目の薄い戦いだという事を自覚しながら、それでも覚悟をもって戦いに臨む姿。


 その姿は正直、俺なんかよりもよっぽど勇者だった。


「や、やり辛い……」


 魔王ならもうちょっと悪役らしくしていればいいものを。

 外見がほぼ人間と言うのもあって、やりづらいだろうが。


「な、なぁ。お前、本当に魔王なんだよな? 人間を滅ぼそうと動いてる魔王なんだよな?」


「そうだけど? あぁ、もしかして……『どうして罪もない人々を傷つけるんだ!?』とかそんなやつかい? 簡単だよ。魔神から人類を根絶やしにしろっていう命令を受けているからだね。魔王なんて勇者と同じ、神様に選ばれて雑用をこなす下っ端なのさ」


 分かる。

 勇者もそうだけど、魔王だって神様の雑用を命じられる下っ端みたいなもんだよな。


「他に人類を滅ぼす大層な理由はないけれど……いて言うならそうだね。僕は絶対の強者である魔王という存在に憧れ、逆に汚くて醜い人間の事が大嫌いだから、かな」


 うーん、これも分かる。

 別に魔王という存在への憧れなんぞ俺は持ってないが、なんとなく魔王が格好良いというのは理解できるし、人間が汚くて醜いというその意見もおおむねその通りだなと納得できる。


「だからこそ、魔王として人類を滅ぼそうとしているのかもしれないね。醜い人間が蔓延はびこる世の中より、弱肉強食と言う単純なルールで生きる魔物や魔族が支配する世の中の方がシンプルでいい。そう思わないかい?」


 どうして魔王は人類を滅ぼそうと動いているのか。

 今、その理由が明かされた。


 俺はそれを聞いて――


「あー分かる。魔王や勇者って肩書きだけはなんか大層なものに見えるけど、実際は神様の使い走りだもんな。上の意向には逆らえない。魔王も苦労してるんだなぁ……」


 普通に共感していた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る