かりんとう!2
鮎崎浪人
かりんとう!2
一
その別荘のリビングの入り口近くで逃げ道をふさぐように、一人の少女が昂然と胸を張って室内の人々と対峙している。広さは九十㎡ほどを誇っているが、八十人ほどがぎっしりと詰め込まれたその空間には、隣り合っている人との隙間はほとんどない。
大勢の注視を浴びているその少女はなんら臆することなく、それどころか自らがその場の主役であることを十分に意識しているような不遜とも言える表情で、左手を額にかざしながら居並ぶ面々をぐるりと見やった。
「みなさん! いいですか、今から『かりんとう!』をやります! わたしが『せ~の』って言ったら、こうやってください。いいですね」
少女はそう言って、両足をぴたりと揃えて直立した。それから、勢いよく頭の上までぴんと両手を伸ばし、その両手で大きく緩やかな円を作ると、全身をやや右斜めに傾ける。しばらくしてそのポーズを解くと、元気よく右手を上げて、
「それでは、いきますよ!
みなさん、こんばんは~! 浅草生まれの和菓子屋の娘がアイドルになりました!
『ネバーランド ガールズ』で一番かわいくて面白い、日本とインドのハーフ。『シゲちゃん』こと、みなさんが大好きな
深々とお辞儀をしたまま数秒間静止し、そして顔を上げた少女は満面の笑みを受かべて、
「それでは、みなさ~ん! いつものアレ、やります! 一緒にお願いしますっ! せ~の・・・」
ひときわ高らかな声が部屋中に響き渡る。
「『かりんとう!』」
二
俺の名前は鵜狩、
だが、職場でみせる俺の顔はちと違う。五十人ほどの少女を束ねる役割を担っているのは名目上の最高責任者である支配人よりも、副支配人たるこの俺だ。実質的な最高権力者として、さぞかし彼女たちから畏怖の念を抱かれているに違いない。
というのも、俺は常に彼女たちに対して厳格な態度を一切崩すことはしない。多感な思春期を過ごす少女たちにちょっとでも隙をみせればすぐにつけ上がり、たちまち統制がとれなくなるからだ。何度となく俺の叱責で彼女たちの目に涙の粒を浮かべさせているが、後悔も妥協もしたことはない。
俺のモットーはただ一つ。「ネバーランド ガールズ」を日本一のアイドルグループに仕立て上げること。それだけだ。いわば、俺は「仕事の鬼」と言って差し支えない。
梅雨がようやく明けた七月下旬の土曜日、俺は長野県は白樺湖にほど近いとある別荘に来ていた。シングルCDのカップリング曲のミュージックビデオ(MV)撮影のためだ。カップリング曲とは、タイトル曲以外の楽曲のことで、アナログレコードでいうところのB面にあたり、なかなか一般的には日の目を見ることはないのだが、コンサートで最も盛り上がる楽曲に成長する例もたびたびあり、その制作過程でもタイトル曲同様に一切手を抜くことはない。一分一秒でも気を抜くことは許されない。
とはいえ、前言を翻すようで恐縮だが、俺はさきほど撮影現場となっているリビングをこっそりと離れ、若干の後ろめたさを覚えながら、スタッフ用の控え室となった別荘の客間のひとつに一人きりでいた。
「センター? そりゃ、シゲに決まってるだろ! 俺は忙しいんだから、もうかけてくるなよ。頼むよ」
我しらず大きな声で喋ってしまったスマートフォンでの会話を打ち切り、足早に部屋を出た。
リビングに戻る途中の廊下に出ると、ゆく手を遮るように、通路の真ん中に大きめの段ボール箱がぽつんと置かれているのが目に入った。さっきまで撮影機材が梱包されていた箱で、さきほどここを通ったときには、壁際に寄せられていたのだが。
少し不思議に思いながらも俺はすたすたと歩み寄ると、腰をかがめて、今は空のはずのその段ボール箱をつかもうとした。
と、その時。
がさっ! いきなり段ボール箱の上蓋が開き、にゅっと両手が突きだされた。
「うわっ」とびっくりして、思わずのけぞる俺。
がさがさ! 次の瞬間には、人間の全身が段ボール箱の中からがばっと立ち上がった。
「うわわわっ」と驚きのあまり尻餅をつく俺。
呆然と口を開けたままの俺の目の前には、ひとりの少女が立ちはだかっていた。
「きゃはははは。うっかりさん、ビックリしましたあ~ 『ネバーランド ガールズ』で一番かわいくて面白い、うっかりさんが大好きな『シゲちゃん』こと、神希成魅ですよ~」
「・・・」しばらく呆然自失の態で固まっていた俺だったが、ようやく平常心を取り戻すと声を絞り出した。
「こ、この野郎・・・ ふ、ふざけんじゃねえぞ。おめえ、なにやってんだよ!」
「なにって? うっかりさんを驚かせようとしただけですよ~ ドッキリ、大成功! たのシゲ~」と言って、両手で頭上に大きな円を描く。喜色満面の笑みを浮かべて。語尾に「シゲ」をつける、本人曰く「シゲ語」も忘れない。
この少女は、自ら名乗ったとおり、神希成魅。「ネバーランド ガールズ」のメンバーの一人で、唯一の問題児だ。
他のメンバーは俺に対して従順なのだが、神希だけは俺の言うことを聞かない。傍若無人とは、こいつのことを指す。
神希はインドと日本のハーフで、日本人離れした彫りの深い端正な顔立ちをしながらも日本人ならではの愛らしい表情も持ち合わせていた。今回のMVで使用する、ネイビー地に純白の丸襟とワインレッドのリボンタイをあしらった制服風の衣装を今は清楚に着こなしていて、ビジュアルも申し分ない。
また歌唱力もダンスの技術もトップクラスだからアイドルの素材として一級品であることはこの俺も認めざるをえないところなのだが、なにせその癖の強いキャラクターが人気を得る上で邪魔をしている。
キャッチフレーズが、「『ネバーランド ガールズ』で一番かわいくて面白い、みなさんが大好きな神希成魅です!」に端的に示されているようにとにかく自己主張が激しい。劇場公演やテレビ番組などの自己紹介では必ずそのキャッチフレーズを叫ぶし、自分が目立つことしか考えないから、公演のトークコーナーやテレビのバラエティ番組などでも他のメンバーのトークをさえぎって、今までの流れを無視して喋りだす。
アイドルグループにはそれぞれのメンバーにファンが付いていて、それらのファンは贔屓のメンバーが会話に参加したり画面にアップで映る数少ない見せ場を楽しみにしている。また、メンバーもそのことをよく心得ていて出しゃばることはしないから、結果としてグループ全体から和気あいあいとした雰囲気が醸し出され、ファンも心地良さを共有するのである。それなのに場の空気を乱し、「わたしがわたしが」の精神で強烈に自分を押し出してくる神希。そんな彼女を煙たがる人は多い。熱狂的なファンもいるようだが、それはごく一部に過ぎない。
俺は神希に何度も、もう少し大人しくして落ち着いたキャラクターに変えてみてはどうかとアドバイスしていた。神希はその都度、「わかりました」と殊勝な態度をみせてうなずくものの、いざ人前にでると今までとまったく変わらない暴走振りを発揮するので、俺はついにはあきれ果てて、もう放っておくことにした。
神希の将来の目標は、とてつもなく壮大で漠然とした「大スターになる!」というもので、経営が傾いている実家の和菓子屋を立て直し、両親にどでかい家をプレゼントしたいそうだ。その心意気やよしではあるが、そのための方法論が間違っているとしか俺には思えないのだが。
たかだか18歳の小娘に腰が抜けるかと思うほど仰天させられた俺は、すっくと立ち上がり、他のメンバーならすくみ上がるような怒りの表情で神希を無言でにらみつけたが、まったく動じる素振りもみせず、自分の所業を反省する気配も皆無で、唐突に話題を変えてきた。
「ねえねえ、次のシングルのメンバーなんですけど、わたしって選ばれてます? ねえ、どうなんですかあ」
「そんなこと言えるわけねえだろうが」
「そんなこと言わずに、このシゲちゃんにだけは教えてくださいよ~」
「ダメに決まってるだろうが」と俺は突っぱねた。
次のシングルの表題曲の歌唱メンバーは、この撮影を終えて東京に戻った後で、浅草の専用劇場で発表されることになっている。50人あまりのメンバーから、わずか16人を選ぶのである。カップリング曲のメンバーに選ばれることももちろん嬉しいことには違いないだろうが、やはり表題曲ともなれば、選抜されることに対するメンバーの思い入れは格段に強くなるのはいうまでもない。
メンバー全員が集合した場での張りつめた緊張感は、言葉で表現するのはちょっと困難なほどだ。今までの自分の努力が報われるか否かがほんの数分で決まる。大げさにいえば、そのメンバーのその後の人生を左右するかもしれないのだ。
名前を読み上げられたメンバーは他のメンバーを気遣って必死で喜びを噛み殺し、名前のなかったメンバーは黙って肩を震わせながら悔し涙をこらえる。選ばれたメンバーとそうでないメンバーは席が隣り合っているかもしれない。古参の先輩メンバーが選ばれずに、加入したばかりの後輩メンバーが抜擢されるかもしれない。
そんな修羅場ともいえる殺伐とした空気を支配人の大関は嫌っているから、発表する役目は副支配人の俺が押し付けられている格好だ。
今回の表題曲の歌唱メンバーの選考はもちろん終えているが、そんな一大イベントともいえる事柄について、事前に特定のメンバーだけに結果を教えるなんてことができるはずもない。そんなことをすれば、俺自身の信用問題に関わるし、ひいては今まで保たれていた均整が崩壊することは必至である。
だが、そんな俺の立場を忖度する気は一切ないものと見えて、さらに神希はたたみかける。
「っていうか、今回のセンターって誰なんですかあ。ねえ、教えてくださいよ~ 教えてくれないとかなシゲ~」
センターとは、楽曲を披露する際に最前列の中央を占めるメンバーのことで、そのパフォーマンス中で最も目立つ存在であり、グループの中心、グループの顔ともいえる。センターに選ばれることは飛躍の大きなチャンスでもあり、また名誉なことでもある。
ちなみに、神希はこれまでのシングル曲の歌唱メンバーに選ばれたり選ばれなかったりを繰り返す微妙な立ち位置にある。センターの重責を担ったことは一度もない。
「もしかしてえ、センターって、このシゲちゃんなんじゃないですか~ ねえ、そうなんでしょ?」
神希は少し顔を横にそらして、俺の情報を読み取ろうとするように流し目をくれてくる。俺は努めて無表情になり、「だから、それは言えない」とにべもなく返事した。だが、神希は隠さなくともわかってますよと言いたげに、また自分がセンターであることを確信したかのように、うんうんとうなずきながら、ニコニコとひとり悦に入った表情を浮かべている。
やれやれ。俺はこれみよがしに大きなため息をついた。
三
その後も、シングルの表題曲の選抜メンバーを教えてください、いや教えるわけにはいかない、という不毛なやりとりを続けていると、奥の廊下を曲がって二つの人影が現れた。
「ああ、鵜狩君、ここにいたのか」と声をかけてきたのは支配人の大関。支配人補佐の堺が付き従っている。
大関は50代前半の小太りの男で、禿げあがった額に猫背といささか貧相な風貌だが、俺とは対照的に決して声を荒げたりすることのない穏やかな気質の持ち主で、メンバーにとっては親しみやすい父親的存在である。
一方の堺はまだ20代後半の若者で、中肉中背のこれといった特徴のない印象の薄い男だ。2週間ほど前に運営会社の人事異動があり、それまでの経理畑から支配人補佐の職に就いたのだが、アイドルには全く関心のない堺は現職へのとまどいや不平不満が少なからずあるようだ。俺のみるところ、意欲や熱意が微塵も感じられず、現場に馴染もうとする姿勢を露ほどもみせないから、まるで好感がもてない。
俺は大関と今回の撮影の細かい段取りについて立ち話をした。その間も、堺は今どきの若者というべきなのか、やる気がないのを隠そうともしないで、メモをとるでもなく耳をほじったり、あらぬ方に視線を泳がしたりして、ぼけっと突っ立っている。会話の内容が今回のカップリング曲のセンターを務める
「そうだ、みるんともう一度、話をしておきたいな。落ち着いて話せるバスの中がいい。えーと今は九時四十分だから、五十五分に一号車の中に来るように伝えてくれないか」
「え? ああ、みるんさんですね。わかりました」と、堺は明らかに最後に向けられた自分への言葉しか理解していない鈍い反応を示して、だるそうに歩き去った。
この白樺湖へは、貸し切りバスで早朝に東京を出発して三時間弱で到着した。バス2台には、今回のカップリング曲の歌唱メンバーに選抜されたメンバー十六名や俺たち人事担当者の他に、衣装、音響、演出、振りつけ、小道具担当などのスタッフを加えた総勢約五十名が分乗してきた。今は、そのバスを別荘の駐車場にとめてある。
二分ほどで堺は戻り、「みるんさんに伝えてきました」と報告した後、俺の命を受けて、休憩時間に口に入れる食料の買い出しのために立ち去った。
「みるん」とはメンバーの一員である夏ノ園美咲のニックネームであるが、メンバー同士がニックネームで呼び合うのはまだしも、俺たちのようなメンバーを管理する立場にある人間もそうするのはいかがなものかと俺はかねがね思っていた。なれ合いの関係になるのは、管理上好ましくないという信念があるので、俺はメンバーを下の名前やニックネームで呼ぶことは決してしない。
「ね~、大関さ~ん。次のシングルのセンターって誰なんですかあ。ねえねえ。教えてくれたら、うれシゲ~」
また、神希だ。俺と大関が話をしている間、その周辺をうろちょろしているのが目の端にちらついてはいたのだが、会話が途切れたとみるや、さっと大関の背後に回り、その両腕をおねだりするようにつかんでいる。
大関も俺と同様、神希にはほとほと手を焼いているのは明らかで、困り果てた顔つきで言葉を濁していたのだが、これ以上関わっていては断り切れないと悟ったのか、助けを求めるようなすがる目で俺を見て、
「そうだ、みるんとバスで打合せをするんだった。鵜狩君、行こう。」
「そうですね、行きましょう」と俺はすかさず応じて、「神希、もうついてくるなよ。なっ」と冷たく追っ払った。
俺と大関がバスに入ると、待ち合わせ時間にはまだ十分あったが、夏ノ園はすでにバスの中の自席に腰かけていて、手鏡でメイクをチェックしているところだった。その姿を認めた大関は、「みるんちゃん、ちょっと話があるんだ」といつものように優しい口調で切り出すと、「はい、なんでしょうか」と明るく答えたのは、夏ノ園。ではなく、いつのまにか俺たちの後についてきていた神希。
「お前はセンターじゃねえだろ。あっち行ってろ」と俺は抵抗する神希を無理やりバスの外に押し出した。神希がこちらを名残惜しそうに振り返りながらも、別荘の中に消えるのを見届けて、大関は改めて夏ノ園に向き直り、センターを務める上での心構えを手短に話した。大関の言葉に余計な口を挟まず素直にうなずく夏ノ園。
それを見守りながら、俺は思う。ほんとにいい子たちばかりなんだよな、若干一名を除いては。
三分ほどで話は終わり、俺と大関と夏ノ園は撮影場所となるリビングに戻った。
やがて集合時間となる午前10時となり、広々としたリビングにメンバーとスタッフが集結したのだが、買い出しに向かった堺は別として、一人だけメンバーの姿が見えない。勝手気ままに動き回る神希もいるというのに。
二分ほど遅れて、
「なにやってたんだ! 遅れちゃダメじゃないか! 今までどこにいた?」
「バスにいたんですけど・・・」
「なんで、そんなとこに。集合時間は十時って言ってあっただろうが」
「そうですけど、だって…」
「言い訳はいい。もう絶対にこれからは遅刻するなよ。みんなにどれだけの迷惑がかかると思ってるんだ!」
「はい、すいませんでした」と、恐縮しきった様子で謝りながらも、どこか納得がいかないという表情を浮かべる月城。
さらに俺が言葉を重ねようとすると、大関が場をとりなすように「まあまあ、その辺でいいじゃないか」と言い、神希が「さあ、はりきってがんばりシゲ~」と能天気な大声を張り上げたので、なんとなく俺の憤りも失せていった。大事な撮影を前にちょっと大人げなかったかなと内心で反省した俺は、精一杯の笑顔を浮かべて、周囲を見渡した。
「さあさあ、みなさん気合いれて、いいMVを作りましょう! よろしくお願いします!」
俺は深々と頭を下げた。
四
MVの撮影場所として借り切った別荘は、支配人である大関の友人の所有である。その貿易商と大学時代から親交を温めている大関は、白樺湖を間近に臨むこの別荘に1年ほど前に招かれたことがあるそうだ。今回のMVのコンセプトが決まったときに、大関の頭に白樺湖の湖畔の風景やこの別荘のリビングが真っ先に思い浮かび、その使用を申し出たところ相手は快諾してくれたという。
今回の楽曲のテーマは、大人への階段を上る少女。表題曲が攻撃的なリズムのダンスナンバーになるので、カップリング曲は王道のアイドル路線を企図している。
中心になるのは、夏ノ園美咲。九十㎡は優にある三階までが吹き抜けのリビングで、彼女が読書をしたり、音楽を聴いたり、物思いに更けるシーンなどで主に構成される。曲の終盤では、純白のドレスをまとった夏ノ園がオープン階段を三階まで上っていく。そこでガラスの靴を脱いだ彼女が、階段から続く回廊の手すりにそっと置いた靴をじっと眺めているショットでこのMVは幕を閉じる。ここでのガラスの靴は、少女の無垢な輝きともろさを象徴している。
楽曲の中盤では、リビングで全員そろって踊るシーンや屋外でのシーンが挿入される予定である。
演出担当が夏ノ園美咲に細かな指示を与えていた。
「音楽を聴いているときは、鼻歌でも口ずさみながら、楽しそうに・・・」
「はいっ!」
「このとき顔のアップを撮るから、ちょっと物憂げな表情で・・・」
「はいっ!」
「階段を上るときは、ゆっくりと優雅な足取りで・・・」
「はいっ」
快活に返事をしているのは、もちろん夏ノ園。ではなく、神希である。神希の後輩にあたる夏ノ園は、その迫力に圧倒されたのか、隣で「はい」とか細い声を発しながら小さくうなずいている。その光景を目にした俺はすかさず近づき、
「おいっ! お前は関係ないだろうが!」
「え? だって、わたしもセンターのつもりで聞いとかないと」
「なんでだよ!」
「だってえ、みるんちゃんが急にめまいを起こして倒れちゃうかもしれないしー、みるんちゃんが急にセンターは神希さんに譲るって言うかもしれないしー、監督さんが急にセンターを神希に変更するって言うかもしれないじゃないですかー」
「そんなことは万が一にでも起きないから安心しろ」
「みるんちゃん、ほんとに大丈夫? 昨日から緊張でよく眠れなかったんじゃない? ムリなら、わたしがすぐに代わってあげるからね」
「いえ、大丈夫です、ご心配なく。たしかに寝不足気味だったんですけど、さっき大関さんと鵜飼さんが打ち合わせにいらっしゃる直前まで、バスで十五分くらい寝ていたら元気になりました」と夏ノ園は控え目に反論する。
「さ、もういいだろ。お前の出番はまだだから、あっち行ってろ。シッシッ」と俺は邪険に手を振った。あかんべえをしながら、渋々と神希はその場を離れる。神希の進行方向に立っていた月城美奈に「みなるん、つまんないから、控室でダンスの確認でもしようよ」と声をかけ、二人はリビングから出ていった。
やれやれ、まったく疲れるぜ。俺は本日二度目のため息をついた。
初っ端からやや調子が狂ってしまったが、その後の撮影は順調に進んだ。
このMV撮影の後にシングルの表題曲の発表が控えているからか、撮影開始当初はメンバー全員にどことなく浮ついてそわそわとした空気も流れていたのだが、神希がいつもと変わらず元気いっぱいだったので、それに乗せられた形で他のメンバーもリラックスした明るい表情に変わっていった。日頃から騒々しい神希には辟易させられることも多いのだが、本人が意図しているかどうかは別としても、こういう時に雰囲気を盛り上げてくれるのは、スタッフとして素直にありがたかった。
途中で休憩を挟みながら、リビングでのリハーサルは午後二時に終了。買い出しから戻った堺への俺の真摯な説教が功を奏したのか、彼も見違えるように立ち働いてくれた。
この後は、いったん屋外での撮影を行い、終了後に本番を撮る段取りになっている。
このまま予定通りに進んでいくに違いない、と俺は確信している。俺が仕切る現場に抜かりがあろうはずはないからだ。
五
別荘から四百mほど離れた空き地が、周辺住民のための共用バーベキュー場として整備されていた。その芝生に、バスで到着したばかりのエキストラ総勢三十名が集まっている。エキストラ募集の抽選に当たった男女である。
今回のMVでは、メンバーがバーベキューを楽しむシーンが盛り込まれる。そこにエキストラも混じるわけである。メンバーと会話したり一緒に食事できるということが、ファンの興味を掻きたてたようで応募者数は実に六百人を超えた。ファンサービスの一環として考えられた素晴らしいこの企画、何を隠そう発案者はこの俺である。
別荘を最後に退出した堺が走り寄ってきて、別荘の玄関の鍵を俺に手渡す。俺はサマージャケットの内ポケットにそれをしまいながら、
「ちゃんと閉めてきたか?」
「はい、大丈夫です。最終チェックも行いました」
「ごくろうさん」とねぎらってから、俺はエキストラに向き直り、この後の段取りを説明した。参加者の誰もが真剣に聞いてくれたようだった。
そのこともあって、撮影は滞りなく進行した。俺は玄関が間違いなく施錠されていることを確認した後、撮影スタッフとメンバーの間を何度も行き来し、円滑な撮影に貢献した。その慌ただしさの中で、持ち前の俊敏さを生かして動き回ったが、二度ほどエキストラにぶつかってしまったのが唯一の心残り。普段はそんなミスをしないのだが。俺も年なのかしらん。
バーベキューの合間に、夏ノ園だけは抜け出して白樺湖に向かい、ひとりで気の向くままに散策しながら湖畔の自然を満喫するシーンを撮影した。俺は同行しなかったが、そちらもつつがなく撮れたようだ。
予定通り午後四時に終了し、俺と堺がまず別荘に戻った。俺はジャケットの内ポケットにはなかったが、クロップドパンツのポケットで見つけた鍵を取り出し室内へ。リビングに入った時、異変に気づいた。
MVの撮影に際しては、作りものめいた印象ではなく、実際に暮らしている雰囲気を醸し出したいという意図から、基本的に家具などは元からあるものを使用している。
ドアから入って左手の壁には、ヴァン・ダイクの宗教画が飾られているが、その下の、大理石の丸形サイドテーブルに載っていた花瓶が、割れた状態でフローリングの床に転がり、挿してあったデルフィニウムの花と水があふれでている。
対して右手の壁、床から百五十㎝ほどの高さには、幅百八十㎝奥行十㎝ほどの細長い木製の飾り棚が取り付けられていた。その上には、子・丑・寅・卯・辰など計十二体の手のひらサイズの干支のガラス細工が並んでいたのだが、今は一体の姿も見えずすべてが真下の床に割れて転がっていた。
その壁にほとんど接するように置かれていた一脚のソファは、ドアとは真向いの窓側の方へ数メートルほど移っている。二人掛けのグリーンのアームソファである。
そのソファの上には、クリスタルガラス製の銀色に輝くハイヒールが左右一足ずつ転がっていた。MVの撮影時に夏ノ園が見つめていた、三階の回廊の手すりに置かれていたガラスの靴である。この靴は夏ノ園が階段を上るときに履いていたものとは別物で、ズームアップを意識して精妙に制作された特注品。重さは一足あたり二㎏程度である。
「なあ、堺。お前が最後にこの部屋を出たとき、この靴がどこにあったか覚えてるか?」
堺は腕を組んで思案している様子だったが、やがて、
「ああ、そうそう。三階の回廊の手すりに置かれたままでしたよ。本番でも使用するんで、そのままにしておいたんでしょうね」
「てことは、そこからこのソファに落ちたわけだ・・・」
靴が置かれていたのは、ちょうどこのソファの真上あたり。他にクッションになるような物はこのリビングに見当たらないから、もしソファがこの位置になければ、ガラスの靴は落下の衝撃で間違いなく砕けていただろう。本来、このリビングにソファは二脚あったのだが、もう一脚のネイビーのソファは今回の撮影には不要と判断されて、撮影前に室外へ搬出されていた。
「そうなりますね。あっ」と何かに気づいたような声をあげた堺は、ズボンのポケットから抜き取ったスマートフォンで検索をかけていたようだが、しばらくして「やっぱりな」と呟いた。
「地震か?」
「ええ、そのとおりです。震度四弱。今から五十分くらい前のことです。僕たちは屋外にいたからわからなかったんですね」
「そのようだな」
通常、スマートフォンには地震予測機能が設定され、警告を発するようになっているが、最大震度が五弱未満だったり、震源地が深すぎて最大震度が予測不能であれば警報は鳴らないと聞いたことがある。今回はそのケースだったのだろう。
「見たところ、他に被害はないようだ。とりあえず、いつものチェックをしてみようか」「はい」と言って、堺はレシーバー状の機器を肩掛けカバンから取り出した。盗撮カメラの検知器である。
一年ほど前、「ネバーランド ガールズ」の専用劇場の楽屋が盗撮され、その模様がインターネット動画として流出するという事件が起きた。犯人は劇場の臨時スタッフの一人だった。以来、メンバーが使用する空間には、必ず盗撮検知器によるチェックを欠かさないようにしている。
検知器を片手に堺が慎重に室内を動き回ること五分、その検知器が耳障りな音を発した。仕掛けられていたのは、庭に面した窓の真下に設置されたコンセントに差し込まれたアダプタ型の盗撮カメラ。各辺が五㎝以内の小型タイプである。
この発見で、ソファがもともと置かれていた場所から数メートル移っている理由がわかった。盗撮カメラの設置場所を物色しているときに、犯人がソファを動かしたためだろう。
俺は一瞬のうちに頭に血が上った。燃えるように、頭の中がカッカしている。
「誰だ、こんな真似しやがったのは。ふざけやがって!」
俺が吐き捨てるように言い放つと、その発言に呼応するように、「こんな卑劣なこと、絶対に許せない! サイッテー!」と俺以上に大きな怒声がかぶせられた。いつのまにか俺の傍らに立っていた神希である。その勢いに俺はいささか気圧されて、
「あ、ああ、そうだよな。でも、待て。落ち着いて考えれば犯人がわかるはずだ」
瞬時に俺は持ち前の冷静さを取り戻した。この切り替えの早さこそが、俺の有能たる所以だ。俺は堺をしっかりと見据える。
「バーベキュー場に来る前、ちゃんと玄関の鍵は閉めただろうな?」
「もちろんです」と自尊心を傷つけられたようにムッとした表情で答える堺。
「みなるんが部屋を出たのを見届けて、部屋の中を検知器でチェックして異常がないことを見極めてから、玄関の鍵を閉めました。間違いありません。」
「よし、わかった」と俺は首肯して、まさしく立て板に水のごとくスラスラと言葉を連ねる。
「ということは、さっき俺が玄関の鍵を開けるまでは、誰もこのリビングに侵入することは不可能。また、リビングに入ってからも、俺も堺もコンセントには近寄らなかったんだから、このタイミングで仕掛けることも不可能。となれば、可能性はただ一つだ。犯人は玄関の鍵を所持していた人物。つまり、このオ・・・レ・・・。アレ?」
「・・・」
しらけ切った空気が場を支配する。俺は慌てて首をブルブルと横に大きく振って、
「ち、ちがう。俺じゃない、俺じゃないんだ。これは何かの間違いだ。落ち着け、落ち着くんだ、俺。なにかいつもと違ったことはなかったか? えーと、えーと・・・ あっ」と俺の脳裏に電流が走った。
「どうしました? 自分の犯行だったことを思い出しました?」と意地の悪い笑みを浮かべる神希。
「そうじゃない。思い出したぞ。今日はやけに人にぶつかる日だなと思ったんだよ。そうだ、あのときに違いない。犯人はその隙に、俺から鍵を盗んで、犯行後にまた鍵を戻しておいたんだ」
「よっ! さすが、うっかりさん」と神希がからかう。
「その人間の顔は見なかったんですか?」と堺が期待を込めた口調で尋ねる。
「う~ん、いやよくわからん。男だったような気がするんだが・・・」
「やっぱり、うっかりさんですねえ」と神希は容赦ない。
「でも、犯人はそいつだよ。間違いない。頼む、俺を信じてくれ!」と思わず俺は絶叫していた。
「まあ、『ネバーランド ガールズ』のために、いつも奮闘してくれているうっかりさんがこんな卑怯な行動を起こすとは考えにくいですからね。今回は、その言葉を信じてあげましょう」とえらそうに神希がのたまう。
「ぐぬぬ」
俺はこみ上げてくる怒りと屈辱をかろうじてこらえた。
「あの、どうしたんですか」と心配そうな声に背後を振り返ると、夏ノ園美咲の小柄な姿があった。俺がいくらか体をずらすと、室内を覗き込んだ夏ノ園は、花瓶と干支のガラス細工の無残な姿を見つけて「あっ」と小さくもらした。
「地震があったんだよ。その揺れで落ちて割れたんだ」
「地震?」
「ああ。見てのとおり、花瓶と干支のガラス細工が全部割れてた。幸い、物質的被害はこれだけだったんだが…」
「え? 干支のガラス細工? あ、でも兎は大丈夫だったんですよね?」
「兎? ああ、卯のことか?」
「はい。卯はわたしの干支だし、耳とか目の形がすごくかわいかったの。だからソファに座って、手にとってしばらく眺めていたんです。そしたら、もう行かなきゃって気づいて、ソファに置きっぱなしでリビングを飛び出したんです」
「いや、ソファには兎はなかったし、ほら見てごらん。兎も割れていたよ」
壁際の床に、他の干支のガラス細工と共に転がっている兎は、本来ならぴんと立っている両耳がその付け根から真っ二つに折れている。
おそらく、夏ノ園が退出した後で、最後にリビングを出た月城が棚に戻しておいたのだろう。結果的には、それが災いした。
「ほんとうですね・・・」と兎ならぬリスのようなクリッとした瞳を伏せて、あからさまにしょんぼりとした表情を浮かべる夏ノ園。俺は少しでも慰めようと、
「いや、でも、ガラスの靴は無事だったよ。ソファが受け止めてくれたんだ。撮影には問題ないから安心しろ」
「そうなんですね。よかった」と少し明るさを取り戻す夏ノ園。
「そういえば、ソファはわたしが座っていた場所より少し動いてますね」
「ああ」と俺は答えてから、避けられないまでも相手に与える衝撃をできるだけ弱めようと、ゆっくりと柔らかい口調で言葉を継いだ。
「実はな、ソファが動いていたのは、俺たちが屋外で撮影している間に何者かがこの部屋に侵入したからなんだ。盗撮カメラが仕掛けられていたんだよ」
「えっ」と口をぽかんとあけて絶句する夏ノ園。無理もない。以前、盗撮の被害を受けた当事者の一人なのだから。
俺は夏ノ園の華奢な肩にそっと手を置いて、元気づけるようにことさらに声を張った。
「大丈夫。この俺が必ず犯人をとっつかまえて、すぐに撮影を再開させるから」
六
俺はとりあえず、出発寸前だったエキストラの乗り込んだバスにここに留まるよう指示を出し、彼らをバスの中で待機させた。
犯人として真っ先に考えられるのは、やはりエキストラだった。機会の面で言えば、終始、撮影用カメラの中心的被写体だったメンバーが現場を抜け出すことはまず不可能だっただろうし、撮影で果たす役割がそれぞれあるスタッフも同様だろう。あのバーベキュー場で、堺が俺に鍵を手渡すのを目撃したエキストラのうちの誰かが、俺から鍵を奪い、こっそりと現場を抜け出した可能性が最も高い。
だが、その中からどうやって犯人を見つけ出すのか? これから警察を呼びに行って長々と事情を説明していたのでは、貴重な時間のロスがはなはだしい。かといって、刑事でもない俺がエキストラ一人一人を訊問して手がかりをつかみ、犯人を白日の下に晒すことができるのか?
夏ノ園にはあんな大見えを切ったものの、俺は正直、困ったことになったと思った。
犯人捜しが長引けば撮影も遅れ、それに伴って帰京も遅れる。最悪の場合、シングルの表題曲の歌唱メンバーの発表が明日にずれ込むことになるが、それだけは回避したい。発表を遅らせることでメンバーに更なる緊張を強いることになるのは、やはり耐え難かった。
それにだ。そう、正直に告白しよう。俺個人としても、大いに困るのだ。
俺は自他ともに認める仕事人間だが、余暇を家族サービスや自分だけの趣味にあてることも決しておろそかにはしない。明日は日曜日で、趣味を楽しむと決めている。
俺の趣味は、野球だ。観るよりもプレーする方が好きで、地元の草野球チームでは監督兼選手を務めている。明日は、夏季のトーナメント戦の決勝だ。すでに気持ちが高ぶり、体の内で闘志がわきあがっている。それなのに、参加できなくなるなんてことは考えたくもない。そんなことがあってはならない。
仕方がない。犯人捜しはいったん諦めて、撮影の進行を優先させようか?
俺が悩みに悩んでいると、いきなりバシッと背中を強く叩かれて、思わずよろめいた。怒るよりも驚いて背後を見やると、そこにはニコニコと無邪気な笑みを浮かべた神希が立っている。
「うっかりさん、なにをそんなに深刻な顔してるんですか? らしくないですよ~」
「うるせえ。俺の考えてることなんて、お前にはわからないだろうよ」
「盗撮カメラを仕掛けた犯人を見つけたいんでしょ? そんなの簡単簡単」
「簡単? んなわけないだろうが。どうすりゃいいっていうんだ?」
神希はにっこりと微笑んだまま、ひとさし指をピンと立てる。
「そんなの、『かりんとう!』をすればいいんですよ!」
「はあ? かりんとう? かりんとうって、お前のアレか?」
「かりんとう」とは、神希のキャッチフレーズとセットになっているポーズのことだ。そんなバカな、と言いかけた俺の口の動きを止めたのは、ある記憶だ。そう、あれはたしか九か月ほど前。劇場に出没した通り魔を神希の「かりんとう!」があぶりだした。
「『かりんとう!』をすれば、一分で犯人が判明します!」
「そう、なのか?」
「もちろんです!」と神希はあくまでも自信満々だ。
もしかしたら、二匹目のドジョウが見つかるかも。ごく短時間で事の正否がわかるのだから、時間の無駄にはならないし。
「わかった。やってみるか」
俺は神希の言葉に乗ってみることにした。もちろん本気で頼りにしていたわけではない。おまじないを唱えてからくじを引くような、ダメで元々の軽い気持ちだ。
「では、全員をリビングに集めてください」
「全員? メンバーやスタッフもか?」
「そうです、念のためです。まあ、エキストラの中に犯人がいるのは、まず間違いないですが」
俺はさっそく堺に命じて、全員をリビングに集合させた。八〇人ほどがひしめき合うようにして並ぶことになった。
「これで全員ですね。具合が悪くなってこの場にいない人はいませんね?」
「ああ、確認した。間違いない」という俺の返答にうなずくと、神希は入り口の前に立ちはだかり、左手を額にかざしながら、居並ぶ面々をぐるりと見やった。
「みなさん! いいですか、今から『かりんとう!』をやります! わたしが『せ~の』って言ったら、こうやってください。いいですね」
神希はそう言って、両足をぴたりと揃えて直立した。それから、勢いよく頭の上までぴんと両手を伸ばし、その両手で大きく緩やかな円を作ると、全身をやや右斜めに傾ける。しばらくしてそのポーズを解くと、元気よく右手を上げて、
「それでは、いきますよ!
みなさん、こんばんは~! 浅草生まれの和菓子屋の娘がアイドルになりました!」
え? そこからやるの? それ必要?
「『ネバーランド ガールズ』で一番かわいくて面白い、日本とインドのハーフ。『シゲちゃん』こと、みなさんが大好きな神希成魅です! よろしくお願いします!」
深々とお辞儀をしたまま数秒間静止し、そして顔を上げた神希は満面の笑みを受かべて、
「それでは、みなさ~ん! いつものアレ、やります! 一緒にお願いしますっ! せ~の・・・」
ひときわ高らかな声が部屋中に響き渡る。
「『かりんとう!』」
ある者は楽しそうに、またある者は億劫そうに神希のポーズを真似る。
「みなさん、そのまま。そのままでお願いします!」
ポーズを決めたままの姿勢で前に身を乗り出しながら、神希は一同を見渡した。やがて歩きだした神希は、目標を見定めたかのように人込みの中を迷いのない足取りでずんずんと分け入っていく。そして、中央あたりで足を止めると、目の前の男に向かって催促した。
「ほら、あなたもやってください。『かりんとう!』って」
だが、その男は身じろぎひとつしない。神希は挑発するように顔を男の前に突き出して、「『かりんとう!』、『かりんとう!』、『かりんとう!』」と狂ったようにポーズを繰り返した。その顔には、悪魔であればかくもあろうというような、ぞっとするほどの凶暴な笑みを浮かべている。
それでも、男は悔しそうに拳を強く握りしめたまま、黙ってうなだれていた。
その姿を睨みつけていた神希は両手をゆっくりと下ろし、さきほどとは打って変わった落ち着き払った声音でこう告げた。
「あなたが盗撮犯ですね」
神希のその言葉に促されるように、俺は男に歩み寄ると、その右手首をぐっとつかんだ。男は抵抗の素振りをまったく見せなかった。
七
事件は解決した、のか? いや解決したのだ。
俺は別室に男を連れ込んで激しく問い詰めたのだが、最初は重い口を閉ざしたままだった。だが、俺が(ブラフではあったのだが)、鍵を盗んだお前の顔を見たと詰め寄り、さらに、神希が男に、あなたがそういう状態でいるのが何よりの証拠と追い詰めると、男は観念したように犯行を自供した。
男の名前は、北野保夫。35歳のフリーター。「ネバーランド ガールズ」の熱狂的ファンだった北野は、エキストラに選ばれたことで盗撮の絶好のチャンスだと考え、密かにカメラを持参した。そのカメラを仕掛けるきっかけをうかがっていたところ、堺が俺に玄関の鍵を手渡した場面を目撃したので、これ幸いと俺から鍵をまんまと盗みだして犯行に及んだのだ(のちに、警察から提供された情報によると、北野には前科があり窃盗の常習犯とのことだった。これものちに分かったことだが、北野はこの別荘の管理人の甥であり、その立場を利用して後日、盗撮カメラを回収しようと目論んでいたのだった。ただし、あらかじめロケの場所が知らされているわけではなかったので、事前にカメラを仕掛けることはできなかったのである)。
支配人と堺が北野を拘束して、身柄を交番に引き渡しに向かった。その間に撮影は再開され、神希の出演シーンを撮り終えたところで、俺は神希を別室に連れ出した。
俺は神希の大好物である抹茶チョコを献上し、神希のご機嫌を窺がった。至福の笑みを受かべながら食べ終えた頃を見計らって、俺はさっそく切り出した。
「いったい、これはどういうことなんだ? 俺にはなにがなんだがさっぱりわからん。最初から説明してくれ」
俺の懇願するような口調に、神希は強いうなずきを返して語り始めた。
「推理のきっかけは、干支のガラス細工でした。うっかりさんと堺さんが、地震の後でリビングに入ったとき、壁に取り付けられた飾り棚に並んでいた干支のガラス細工は、十二体すべてが割れていました。
しかし、夏ノ園美咲ちゃんの話によれば、兎のガラス細工だけは、美咲ちゃんが部屋を出るときソファに置いたままだったとのことでした。もし、兎のガラス細工が、堺さんが玄関の鍵を閉めたときもそのままの状態だったとすれば、地震の影響で飾り棚から落ちて割れたのは十一体で、兎のガラス細工だけは、鍵を盗んでリビングに侵入した犯人自身によって割られたことになります。犯人が地震の起きる前に、ソファに転がっていた兎のガラス細工をわざわざ飾り棚に戻す理由はないですからね」
「それはそうだが… でも、最後に部屋を出たのは、夏ノ園ではなく月城だろう? 堺がそう証言していたぞ。だとしたら、月城がソファに転がっていた兎のガラス細工を見つけて、飾り棚に戻しておいたのかもしれない」
「大関さんとうっかりさんが、夏ノ園美咲ちゃんと、つまり『みるん』ちゃんとバスで話をしたときのことを覚えていますか?」と神希が急に今までの話とは無関係と思われる事柄を話しだした。
「バスで話した? ああ、覚えているとも。撮影前のことだろ?」
「ええ、そうです。大関さんとうっかりさんがバスに入ったとき、みるんちゃんはすでにバスの中にいました。大関さんが待ち合わせの時間として、堺さんを通してみるんちゃんに伝えたのは九時五十五分。ですが、待ち合わせの十分前には、大関さんとうっかりさんはバスに着いて、みるんちゃんと顔を合わせた。つまり、このとき、時刻は九時四十五分ということになります」
「ああ、そうなるな。だけど、それがどうした? 大関さんが堺に指示を出したのは、確か九時四十分だった。そのあとすぐに堺は戻ってきたんだから、堺から大関さんの伝言を聞いた夏ノ園が、九時四十五分にバスにいてもおかしくないだろ?」
「そうでしょうか? 撮影直前に、みるんちゃんはわたしにこう言いましたよ。『寝不足だったけど、さっき大関さんと鵜飼さんが打ち合わせにいらっしゃる直前まで、バスで十五分くらい寝ていたら元気になった』って。したがって、みるんちゃんは、四十五分マイナス十五分で、九時三十分にはすでにバスの中にいたことになります。
一方、大関さんが堺さんに伝言を命じたのは九時四十分です。そして、堺さんは二分ほどで戻ってきて、大関さんに『みるんさんに伝えました』と報告しました。だけど、これって変ですよね? だって、バスにいたみるんちゃんと会ったのなら、こんな表現を使うはずないですから。『みるんさんはもうバスにいます』とかそんな報告をしたはず。従って、堺さんはその時みるんちゃんとは会っていないことになる。だとすれば、堺さんはいったい誰と話をしたんでしょうか?」
そう言われてみれば、そのとおりだ。いったい、どういうことだ?
「そこで、もうひとつの事実を思い出してください。撮影場所であるリビングにみんなは十時ちょうどに集合しました。だけど、月城美奈ちゃん、つまり『みなるん』だけは遅刻してきました。うっかりさんにどこにいたんだと詰問されて、みなるんは『バスにいた』と答えました。そして、うっかりさんに叱られたことがとても不満そうな様子でした」
「それってつまり・・・」
「ええ、そうです。堺さんが、大関さんの伝言を伝えたのは、みるんではなく、みなるんだった。支配人補佐となってわずか二週間足らずのの堺さんは、ニックネームが似ている『みるん』と『みなるん』を取り違えていたんです。
堺さんに伝えられたとおりに、みなるんは九時五十五分にバスの中にいた。だけど、そのときすでに大関さんとうっかりさんはバスから立ち去っていたために、みなるんは待ちぼうけとなって集合時間に遅刻してしまったんです」
なるほど、そういうことだったのか。月城を頭ごなしに叱りつけて、申し訳ないことをしたな。あとで謝っておこう。
「それでは、話を戻します。堺さんは、『みなるん』が部屋を出たのを見届けて玄関の鍵を閉めた、と発言しましたが、実際に最後に部屋を出たのは、みなるんではなく、みるんだったことになります。
みるんはソファに兎のガラス細工を置いたまま部屋を出たのですから、玄関の鍵が閉められた時点で、やはり兎のガラス細工はソファに転がっていたことになる。すると、さきほど触れた仮定が事実として確定します。
兎のガラス細工だけは、鍵を盗んでリビングに侵入した犯人自身によって割られたのだと」
そう言ってしばしの間を置いてから、神希は推理を再開した。
「では、なぜ犯人は、ソファに転がっていた兎のガラス細工を、わざわざ自らの手で割ったのか? それは、兎のガラス細工を、他の十一体の干支のガラス細工と同様に、地震に伴う落下によって割れたのだと見せかけたかったからに他なりません。
では、なぜ、そのように見せかけたのか? 犯人がもし、兎のガラス細工は地震の前からソファに転がっていることを知っていたなら、そんな小細工をする必要はありません。犯人は、地震が起きたときに、兎のガラス細工も他の十一体と同様に飾り棚に並んでいたと思い込んだからこそ、兎のガラス細工も地震に伴う落下によって割れたのだと見せかけようとしたのです。
つまり、犯人は、飾り棚に並んでいた兎のガラス細工が地震により落下したにもかからず、そのガラス細工は割れなかったと誤解したに違いありません。そして、そう誤解したからには、そう誤解するだけの理由があったはずです。
では、飾り棚から落下したはずの兎のガラス細工が割れなかった、そう誤解したことに説明がつく状況とは? そうです、それは飾り棚の下にクッションとなる物があった場合です。では、クッションになる物とは何か? あのリビングにある物で、クッションになる物と言えばただ一つ、ソファしかありません。
そう、つまり地震が起きた時点では、ソファの位置はまだ動かされてはいなかった。ソファは、元々の場所、つまり飾り棚が取り付けられていた壁にほとんど接する場所に置かれたままだったのです。だから犯人は、地震によって飾り棚から落下した兎のガラス細工が、ソファの上に落ちたと誤解したのです。
そうなると、新たな疑問が生まれてきます。堺さんが証言しているように、ガラスの靴は、三階の回廊の手すりに置かれたままだった。そして、その真下には、地震が起きた時点では、クッションとなるソファは置かれていなかったにもかかわらず、なぜ、地震によって三階から落下したクリスタルガラス製のシューズが割れなかったのか?
三階の手すりから一階の床までは、十m弱はあるはず。そこから落下したら、間違いなくガラスの靴は割れたはずなのに。
この疑問に対する答えは一つしかありません。ガラスの靴は、ソファ以外にクッションの代わりとなる物の上に落ちたからこそ割れなかったのです」
ん? 俺はそこまで聞いたところで首を傾げた。
「ソファ以外のクッション? でも、あの場にはそんなものはなかったじゃないか」
「そうでしょうか? わたしの言葉は矛盾しているように聞こえますが、でもあったのですよ。地震によってガラスの靴が落下したその瞬間にだけ、そのクッションが現れたのです」
「クッションが現れた? どういうことだ? まるでクッションが動くみたいに・・・ あっ!」
思わず叫んだ俺に、神希はにっこりと微笑んで、
「もう、おわかりですね。ガラスの靴が落下したその瞬間にだけ、その真下に現れたもの。そうです、それは人間の体です。ガラスの靴は、犯人の体の上に衝突したため、3階から落下したにもかかわらず割れなかったのです」
「ああ、そういうことか・・・」
「盗撮カメラを仕掛けた邪悪な犯人の上に落ちたガラスの靴。それは神が下した犯人に対する天罰だったのでしょう・・・」
そう告げた神希の表情は真剣そのものだった。天罰。確かにそうだったのかもしれない。
「もし、ガラスの靴が犯人の頭上を直撃したなら、気絶して昏倒していたはずです。リビングから脱出できるはずがない。従って、人間の頭のすぐ下にあるもの、すなわち肩に2足のガラスの靴は直撃したのです。
そして犯人は、このままの状態で立ち去れば、誰かが『ガラスの靴が割れていなかったのだから、靴は侵入者に直撃した。ならば、その侵入者は負傷しているに違いない』と気づくかもしれないと恐れた。焦った犯人は、ソファの位置を壁際からガラスの靴が置かれていた回廊の手すりの真下に移し、ソファの上にガラスの靴を転がして、地震によって落下したガラスの靴が、ソファの上に落ちたために割れなかったと見せかけようとしたのです。
また、そのときに兎のガラス細工がソファの上に転がっていたことに気づいた犯人は、ソファがクッションの役目を果たしたため、飾り棚から落下した兎のガラス細工が割れなかったと誤解した。そして、兎のガラス細工をそのままにしておけば、地震が起きた時点では、まだソファが壁際に置かれていたことを示すことになってしまうと考えた。そのことを隠さなければと考えた犯人は、兎のガラス細工を自ら割ったのです。
もちろん、犯人が両肩を負傷していることを隠すためには、ガラスの靴を干支のガラス細工と同様に犯人自らが割り、地震による落下で割れたのだと見せかける方法もありました。ただし、そのためには、十m弱の高さから落下したガラスの靴という想定ですから、粉々に砕かなければなりません。しかし、その方法を取らなかったことから考えて、犯人は両肩の負傷の影響で、腕を持ちあげて強く床に向かって振り下ろすことができなかったのでしょう。
また、もうひとつの方法としては、三階にガラスの靴を持って上がり、再びそこから落として割るということも考えられます。だけれど、その両肩の負傷のために、腕に力が入らず靴を手で持って三階に運ぶことすらできなかったに違いありません。
また、この方法では作業にある程度の時間を要します。一刻も早く現場から立ち去りたかった犯人にしてみれば、この方法は採用しないでしょう。
犯人とすれば次善の策として、両腕をかばいながら、なんとかして他の十一体と同様に兎のガラス細工を割り、ソファを動かしてその上にガラスの靴を転がしておくことしかできなかったんです。
ただ、ソファを動かすことで何者かが侵入したことを示してしまうわけですけど、犯人はまさかわたしたちが盗撮検知器を用意しているとまでは思いもよらず、室内から何かが盗まれたのだろうという結論に落ち着くだろうと楽観的に考えていたのでしょうね。
そうそう、犯人がうっかりさんに鍵を戻すときに、抜き取ったジャケットではなくズボンのポケットに戻したのも、腕を上げることができなかったからなんですね。
以上のように、犯人が両肩を負傷していると推理したわたしは、全員で『かりんとう!』のポーズをすれば、瞬時にこの卑劣な盗撮犯を見つけ出すことができると考えたんです。ね、そのとおりになったでしょ?」
得意そうにそう投げかける神希。俺としてはなんだか無性に悔しかったが、素直にうなずかざるをえなかった。
最後に神希は、いたずらっぽい笑みを浮かべて、こう付け加えた。
「でも、みなさんの中に五十肩や筋肉痛とかで腕が上がらない人がいなくてよかったです。もし、そんな人がいたら、『かりんとう!』のポーズをできなかった人全員の上着を脱がして、肩に残ったガラスの靴の跡を調べなければなりませんでしたから。
でもそれって、グダグダな展開じゃないですか? やっぱ、わたしの『かりんとう!』一発で決まるのが、一番カッコいいですもんね!」
あくまでも自己顕示欲の塊である神希だった。
八
撮影は午後七時前には無事に終了し、俺たちは午後十時には東京の浅草にある「ネバーランド ガールズ」の専用劇場に到着した。
劇場の会議室には、今回の撮影には参加しなかったメンバーも含め、総勢五十二人が集結している。いよいよシングルCDの表題曲の歌唱メンバーが発表される瞬間を迎えた。
俺は演台の前に立ち、それぞれに思いつめた表情で座るメンバーたちと向き合った。百四の真摯な瞳から放たれる強烈な視線に息もつまりそうなほどの圧迫を感じる。何度となく経験しても決して慣れるものではない。
俺は唇を舌で湿らし唾をのみ込んでから、おもむろに口を開いた。
「みんな。夜の遅い時間、集まってくれてありがとう。
余計な前置きは抜きにして、今からシングルの表題曲の歌唱メンバーを発表する・・・」
誰一人としてその場に存在していないかのように静まり返る室内。
「まず、センターから…」
そのとき静寂を破って、がたっと椅子の立てる音が響き渡った。最前列の中央の席を陣取っていた神希がいきなり立ち上がり、後ろに座るメンバーを振り向きながら大きくその両手を振って演台に近づいてくる。
「はい、は~い!」
「今回のセンターは・・・」
「は~い、わたしで~す」
「
「ズコ~ッ!」
思いっきり体をのけぞらして、後方に派手にぶっ倒れる神希。
「続いて、夏ノ園!
「それでは、最後だ。十六人目は・・・」
この頃にはノロノロと立ち上がっていた神希は、両手を胸の前で組み合わせて祈るような目で俺を見つめていた。
「月城!」
「ズコ~ッ!」
再び、後方にぶっ倒れる神希。だが、今度はすぐに立ち上がると俺の両肩にがっしとつかみかかり、
「神希、神希の名前がないじゃないですか!」
「うん、ないよ。だって、お前は選ばれてないからな」と俺はいたって冷静に応じる。
「そんなあ~ そんなはずないですよ~ だって、うっかりさん、わたしがセンターだって言ったじゃないですか~」
「お前がセンターって? そんなこと一言も言ってないぞ、俺は」
「言いましたよ~ さっき別荘の控え室で、『センターはシゲに決まってる』って言ってたじゃないですか~ わたし、ちゃんとこの耳で聞きましたからっ!」
「ん? 別荘の控室で? 俺が?」
俺はさきほどまでの出来事の記憶を手繰らせていった。シゲ? ああ、あのことか。
「なんだ、あのとき聞いてたのか。あれは俺の趣味の話だ。仕事中だし後ろめたくて小声で話していたつもりだったんだが、つい熱が入って大声になっちまったんだな。
シゲ、村重っていう奴なんだけどな、そいつをセンターに起用するって監督の俺が指示を出したんだ。野球の守備位置のセンターをな」
「ズコ~ッ!」
三度、後方にぶっ倒れた神希。そんな神希を見下ろしながら、俺は憐みと呆れの入り混じった声を投げかけた。
「あのな、俺がメンバーを下の名前で呼ぶなんてことを絶対にしないことは、お前だってよく知っているだろうに・・・」
床に仰向けになったまま、神希はぴくりとも動かない。さすがに心配になったのか、他のメンバーも神希の周りに集まってくる。
神希はようやく気だるそうにゆっくりと立ち上がったが、両肩をしょんぼりと落とし、すっかり打ちひしがれて悄然とした姿である。
神希の一方的な勘違いとはいえ、俺にも責任の一端があるような気がしてきて、少し心苦しい気持ちになった。
神希の生気の失せた虚ろな表情を目の当たりにすると、さすがに気の毒になると同時に、ある不吉な考えがよぎった。
今回ばかりはかなりショックが大きかったようだ。二度と立ち直れないくらいに。
ってことは、もしかして・・・、もしかして、いっそのこと、「ネバーランド ガールズ」を脱退する、いわゆる「卒業する」なんて考えてるのか?
うつむいていた神希は、何事かを決心したようにその顔をやおら上げると、ひとりごとを呟くようにぽつりと言葉を発した。
「わたし、こう思ったんです・・・」
おいおい、まさかほんとに卒業するのか。それはダメだ、困る。なんだかんだ言っても、俺、おまえのことキライじゃないぜ。待て、早まるな。
全員の注視を浴びる中、充分な間合いをとって、これ以上にない真剣な面持ちで神希がついに一言。
「やっぱり、わたしが一番かわいい!」
「・・・」 し~~~ん。突然、宇宙空間に迷い込んだかのような静寂。
開いた口が塞がらない。この、かつてないほどのどんよりとした重苦しい空気。これを打ち破るには、もう、俺がこうするしかねえじゃねえか。
俺は思いっきり体をのけぞらして後ろに倒れこみながら、
「ズコーッ」
(了)
かりんとう!2 鮎崎浪人 @ayusaki_namihito
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます