「属性注意報」

 人の頭上に見える『属性』を指でタップし、点滅するそれを指でスライドさせることで、その場から移動させることができる。

 そして別の誰かの頭の上にくっつけることで、人が持っていた属性を他人に付け替えることができる――これが数日前に、僕に宿った特殊な能力だ。


 その上で。

 ……迂闊な行動だったと反省する。調子に乗っていたのだ……、誰にもばれない能力で、僕の思った通りに現実を歪めることができる。まあ、他人の属性を付け替えるだけなので、自由自在とはいかないけど……。

 できることと言えば、クラスの人気者の美少女を、眼鏡っ子に変えること――他にもいじめっ子の主犯格にマゾの属性を与えることで、いじめの矛先を自分に向けるように仕向けたり、いじめられっ子をサディストにすることで相手に立ち向かう勇気を与えたり……。


 数日でクラスの環境はがらりと変わっていた。ちなみに、僕はハーレム属性を付け加えてみた。なにもしていないのに女の子が話しかけてきてくれるという幸せな毎日である。


 そして、やってきた修学旅行である。

 そこで僕は、迂闊にも、属性を付け替えてしまったのだ――『名探偵』、という属性を。


 人から一つの属性を奪うと、その下から別の属性が生えてくるのだ。何度も何度も繰り返していく内に、あるクラスメイトの中から『名探偵』が出てきた……。

 彼から移動させたそれを、面白半分でクラスの人望がある少女に付け加えてみたところ――死者が出た。


 修学旅行先で。

 その旅館の中で――密室だったらしい。


 元凶はたぶん、僕だ……名探偵がいれば、旅に出ようものなら殺人事件が起こる。

 起きた後で属性を付け替えても、起きた出来事がなかったことになるわけではないのだ――。


 僕の修学旅行は、真っ赤な死体から始まったのだった。



 ―― 完 ――

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小片小説 渡貫とゐち @josho

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