【実話怪談】女の頭

深海うに

第1話

これね、実体験なんです。


だからオチも盛り上がりも何もない。


けど、せっかくなので文章で残しておきたいと思いまして、こうして筆をとりました。


まあ、気楽に閑談と思って読んでください。


あれは、まだ私が高校生くらいの頃だったかなぁ。

もしかすると高校はもう卒業していて、専門学校に入学した後だったかもしれない。


夏でした。

すごく暑かったことはよく覚えています。だから、冷房がガンガンに効いた映画館がとても快適だった。


取り立てて映画が好きというわけではなくて、一人で映画を見に行こうと思ったのも特に理由はなく。

強いていうなら、ふと思い立っちゃったから、って感じだったかなぁ。

あ、映画でも見に行ってみようかな、くらいの気持ち。


確か当時は映画のチケットを買うのに、ネット予約なんてなかったと思います。

携帯も二つ折りとか、スライド式とかの時代で。


どうせお金を出して映画を見るなら、少しでも快適な席で見たいな、と思って、結構早めにチケットを買いに行ったんですよね。

夕方くらいの上映回のチケットを、昼頃に買いに、ね。


ちょうどお昼時と、映画の上映が重なってたんでしょうね。その時映画館のロビーにはほとんど人がいませんでした。


おいしそうなポップコーンの匂いが充満してて、ああ映画館だ、って実感してね。


無事にチケットを買って、そのままお手洗いに行ったんですよ。


その映画館は商業ビルの中にあるんですが、こういうとなんですけど、あんまり新しいビルではなくてね。


他の階のお手洗いより、映画館の中のお手洗いのほうがきれいなんですよね。


映画館の中なので、お手洗いの個室数も他フロアに比べると多い。真ん中の通路を挟んで、両脇にバーッと個室がある。ああ、ちなみに女性用です。


わたしは特に深く考えずに歩を進めて、まあ一つの個室を選んで入ったわけです。


人が少ないとは言えどわたし以外にもお客さんはいますから、女性同士の話声とかも聞こえててね。


最初は足元の、ドアと床の間の隙間をぼんやり見つめていました。


それでなんともなしに、用を足しながら、ふと上を見上げたんです。


扉の上の隙間を、女性の頭が通り過ぎるのが見えました。

入り口側から、奥に向かって歩いてるんですね。

ほぼ頭頂部くらいしか見えませんでしたけど、黒髪で、たぶん髪は長いんだろうな、という頭。


まあ、別に気にすることじゃないですよね。


用を足し終わって、その個室を出て、




それからゾッとしました。


わたしが入っていたのは、入り口から一番遠い個室だったんですよ。先は進もうにも、奥には壁しかありません。




さっきの女性はいったいどこに行ったんだろう……




ふしぎに思ってトイレの個室を振り返って、

またゾッとしました。



トイレのドアって、結構高いんですね。190センチ~200センチほどはあるそうです。


それよりも身長の高い女性なんて、そうそういらっしゃらないですし。


わたし、あの女性の足も、影も見なかったんですよね。


なんだか途端に怖くなっちゃって、それ以来トイレの一番奥の個室には入らないようにしています。

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