第12話 帰還! ※ただしウサトも一緒!?

「噴水の水がなくなってる! それに何か文字が書いてあるよ」


 噴水の底を見ると、花の代わりに文字が書かれていた。


『時計が動き始めたとき、海空の恵みが授けられる。

 新たな道が生まれ、<扉>のカギが現れる。』


 噴水の水が出ていた柱に、デジタル時計の文字盤が浮かび上がっていた。

 が、時計は止まっている。


「4桁の数字……レストランの住所だ!」

「でも、何時かなんて分からないよ?」

「住所の数字は【3124】。さっきまで夕方で今は夜。ってことは、考えられる数字は【21:34】か【21:43】しかない!」


 試しに【21:34】に合わせると、文字盤のコロンが点滅し、時計が動き始めた。

 そして噴水のてっぺんから光が上ったと思ったら、噴水部分に雨が降り出す。

 星のようにキラキラと降り注ぐ雨に、わたしもウサトも我を忘れて見入ってしまった。


 そして時計が【21:43】になると同時に、雨はぴたりとやんだ。

 時計も止まっている。

 噴水には、宝石をちりばめたように輝く海の水がたっぷり溜まっていた。


「きれい。でも道、現れてないよね?」

「うーん……。地図は? 何か変化はない?」

「……ううん、特になにも」

「水に浮かべてみたらどうかな。何か浮き出る仕組みなのかも!」

「なるほど!」


 わたしは広げた地図を、噴水の水にそっと浮かべる。

 すると水に散りばめられていたキラキラが、地図に1本の道を作った。

 道は、5丁目の工房近くへ続いていた。


 ◇◇◇


「――へえ、やるじゃん」

「エイル!?」

「残念。オレはエイルの体を借りた<次元バグ>だよ」

「どうしてこんなこと――」

「オレは役割を果たしただけだ。はいこれカギ。おめでとう!」


 エイル(仮)は、願いのカードと似た長方形の何かを渡してきた。

 片端には青いリボンがついている。


「――ってこれ、しおり!?」

「それが<扉>のカギだよ」

「ありす、間違いない。これで帰れるよ。急ごう!」


 気がつくと、エイル(仮)の体は消えかかっていた。

 ウサトがカギを手に何か唱えると、カギが宙に浮かんで輝き始める。


「待って! 気になることが多すぎるんですけど!?」

「おまえは、続きを知る術を持ってるだろ。それにどうせ――」


 そこで一面が真っ白になり、エイル(仮)の声は途絶えた。


 ◇◇◇


 気がつくと、『反転リバーサルタウンの秘密』を開いたまま、教室の自分の席に座っていた。

 時計の針は8時35分を指している。朝読が終わる時間だ。


 ――ゆ、夢?


 不思議に思いつつ本を閉じると、見覚えのあるしおりが目に入った。

 <扉>のカギだ。夢じゃなかったらしい。


 ……ウサトにお礼言いたかったな。


「ボクはここだよ!」

「!?」


 え、なに幻聴? 怖い!

 そう思いつつ周囲を見渡すと、机の横の手提げからうさぎ姿のウサトが顔を覗かせていた。


「やあ♪」

「なんでいるの!?」

「もっとありすとお話したいと思って」


 認識阻害の魔法は健在らしく、周囲は気づく気配がない。

 でもウサト、まだいたんだ!

 わたしは本にしおりを挟み、ウサトをよけつつ手提げに押し込む。

 開け放たれた教室の窓には、美しい雲と青空が広がっていた。

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朝読トリップ ~朝読してたら本の世界に転移! 脱出のために<扉>のカギを探しますっ~ ぼっち猫@書籍発売中! @bochi_neko

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