一応の後書き
おじさんの家の片づけを思い返してみても、かなり淡々とした、それこそ強烈な何かはなかった。冷蔵庫の中身と、官能小説くらいだ。他はもう、殆ど覚えていない。
それはおじさんが綺麗に、比較的細やかに生きていたからなのかもしれない。それこそゴミの分別もせずに、ゴミで床を作るレベルの家が出来上がっていたら、寝たばこの結果からして変わっていたのだろう。突然の死と、火事。何もかもが焼けて、その後始末が回って来ていたかもしれない。そうしたなら、迷惑な親戚がいたもんだな、くらいの、本当に私にとってはなんでもない話でしか残らなかった。乾ききった卵がどうなるかだとか、腐り溶け乾いた後のにんじんの姿だとか、死人の性癖を知る時のあの気まずさだとか、そういうものを知らないまま今ここにいたのかもしれない。でも、知ったから、どうなったんだろう。こうして話の種として消費出来ているだけだ。孤独死のその後を見たからと言って、何が変わるでもない。
親戚が多い人間は、特にこれから先の世代は、似たような経験をするかもしれない。でも、それでも多分何も変わらない。少しの負債と後片づけ、それと、もしかすると価値のある遺産が転がり込んでくるかもしれないが、それだけだ。
だから、あまり恐れなくてもいいのではないかと思う。どうせ人は死ぬし、人は死んできたし、人は死んでいく。それは変わらないし、そこを変えるようなものが登場するのはきっと、もう少し後の世代だろう。それこそ本当に、SFの世界が訪れるまでは、孤独だろうが何だろうが死ぬだけなのだ。別に、それでいいんじゃないかと、私は思う。
過度に恐れても、死んでからじゃ、官能小説は隠せないんだ。私たちにできることといったら、見つからないように隠すか、見つからないような形で持つか、枯れた末に先に捨ておくか、そんなところさ。
そこに転がっていただけのもの 規格と装置 @oborokagerou
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