Episode 5:Kilroy is charging!
「ジェロニモ!ジェロニモ!!」
「エンバーリーチ騎士団諸君、突撃せよ!枯草の銃士に遅れをとるな!!」
盛大にマコーリフ准将の言葉を引用した返答を吐き捨て、俺や騎士達は喊声をあげて剣先を山賊共に突き付け、突撃を敢行する。
俺の返答を咀嚼しきれなかった山賊共は困惑しながら立ち止まり、それは俺らの側からしてみれば非常にありがたいものだ。
こんなに大きな隙を見せていれば、向こうが俺らより数で勝るとしても俺にとっては"coffee-and-doughnut gun"─つまりは二流の怖くもないギャング─以下なもんだし、それは騎士達にとってもそうだろう。
「お、おい………こっちに来るなぁぁぁぁ………!!」
狂ったように叫びをあげながら突撃してくる俺らに山賊共は恐ろしくなったのか逃げ腰になる。そんな目の前の敵を俺はガーランドの銃床で殴りつけ、銃剣で切り付けあるいは突き刺して蹴り飛ばし、時には.30-06スプリングフィールド弾を叩き込む。
甲高い音を立ててクリップが吐き出されることで弾切れを知らせ、手荒に扱ったことで銃剣が折れようとも倒すべき敵はいまだに残っている。そして目の前には片手剣を握っている小汚い山賊が立ち向かっていて、クリップを取り出して押し込むよりは小銃を鈍器にした方が早い。
それならば俺が取るべき選択は小銃の銃身を硬く握りしめてバットのように振り回すことで、そっちの方が悠長に再装填をするよりも直ぐに敵を仕留められる。小銃の重量も硬さも敵を殴り倒すには十分、後は本国にいた時よく試合を見ていたボストン・レッドソックスの野球選手達がボールを打つ時のように銃床を叩きつけてやる。
山賊共は何かを喚いているが、そんなことは無視してただひたすらに銃床を叩きつける。ドイツ人を相手にしていた時と同じように、何かを喚こうが余計なノイズでしかない。それにそんなものに耳を傾ければ死ぬのはこっちなのだ。
「ははっ、何言ってるかわかんねえや。次からは英語喋ってくれよ、英語をな」
「流石ですな、枯草の銃士殿!ですが少し後ろへ下がることをお勧めいたしますな、どうにも息が上がり気味に見えますぞ」
「お気遣い感謝するよ、ならこいつの処理は任せたぜおやっさん!」
「任されました」
精密射撃をした後にフル装備で走った挙句に血みどろの白兵戦をしていれば当然ながら息は上がり気味になるわけで、それを見かねた騎士団の中でもかなりの老練と思われるダンディーな燻し銀の騎士から後方へ下がって休息するように忠告された。正直これ以上意地を張れるほどスタミナが残っているとは言いにくいし、俺より先に戦っていた騎士達は戦い方が上手いのか息切れしているようには見受けられない。まあ何はともあれ、今の今までガーランドが弾切れだったことを忘れていたので騎士達の後ろへ下がる間にクリップを押し込んでおく。それから刃の折れた銃剣を外しておくことも忘れない。
一時的に騎士達の後ろに下がって水筒から水をグビグビと
「えーっと、あの暗闇にぶち込んだものはどうやって出すんだったかな?"デプロイ・ブローニングM1919A6"とかか?」
不運な事にジョセリンからあの暗闇に放り込んだものを取り出す呪文を聞いていなかったので適当に出まかせを言ってみるが、俺は幸運の女神に祝福されているのか1発で正解を引き当てる事ができた。それはそうとしていきなり手の上に出てきた若干浮いた状態で出てきた
「いってぇ!?手がクソ痛え!クソがよぉ!俺の手が痛いのも息切れすんのも全部お前らクソ山賊共のせいだぞ!ファッキンマザーファッカーがよぉ!!」
やり場のない怒りを山賊共への悪罵に変えて喚き散らしながらも別途で.30-06弾の連なった布製弾薬ベルトも取り出し、先ほど交換した"ブローニングM1919A6"軽機関銃に取り付けた後に残りの部分を体や腕に絡まないように気をつけながら巻きつける。そして邪魔になったガーランドは一旦収納しておく。
「ハーハッハッハァー!!キルロイ様の参上だぁ!道を開けろクソッタレ共!」
ちょっと気分が昂って変なことを口走りながらも休憩と装備の変更を終えて戦列に戻り、適当な山賊を何人か腰だめに構えたM1919A6軽機関銃で撃ち倒す。
俺が少しばかり休憩していた間にも騎士達は山賊と戦っていたようで、その数を結構な数減らしていた。もはや山賊側に残っているのは塵が少々と生ごみ一つってところだろうな、まあ直ぐに終わるだろうし、終わらせるんだが。
「クソ………お前ら、俺と一騎討ちをしろぉ!騎士なら一騎討ちを受けないわけにはいかないだろう!?」
「………なぁおやっさん、騎士ってのは一騎討ちを挑まれたら必ず受けなければいけないものなのか?」
「いいえ、今の状況においては一騎討ちを受けたところで意味はないでしょうな。わざわざ不要なリスクを負う必要は皆無、奴のほざく戯言は無視すればよろしいでしょう」
「そうか、まあそんなもんだよな」
「ええ、そんなものですよ」
「じゃああのチキンテディちゃんは俺の手柄にしても構わないよな?」
「奴の処理は枯草の銃士殿に任せますぞ」
「フーアー・サー!任されましたぜ、おやっさん!」
チキンテディちゃんの手下共は俺や騎士達にジョセリンで収穫期の麦のように刈り取られ、残るは例のチキンテディちゃんだけになった。そしてそんなチキンテディちゃんだが、気が触れたのか一騎討ちをしろなどと戯言を叫び始める。一応念のために俺へ休んでおくよう忠告した老練の騎士ことおやっさんにもあの戯言の内容について聞いてみるが、残念でもないし当然だが受ける意味はないとの答えだ。
そしてあのチキンテディちゃんを仕留める権利は俺が得ることとなったが、正直あんなんが名誉になるわけでもないが、誰かがやらねばならぬ仕事ではある。それに騎士達の持っている得物よりはチキンテディちゃんの得物の方がリーチが長いってのもある。流石に移動のためとはいえど俺が援護できる場所に着くまで山賊の相手をさせた挙句にあのチキンテディちゃんの相手までさせるのは忍びないってのもあるが。
「おぉ?お前が相手をするのかぁ?しかも地味な服だな、お前が俺様に勝てると思ってんのかぁ?」
さて、考え事は置いておいて、騎士達の中から俺が歩み出てチキンテディちゃんを眼前に据える。向こうも俺が一騎討ちの相手をするのだと理解すると、その図体と同じくらい馬鹿でかい戦斧を構える。俺のことを舐め腐っているようで何より、油断全開のバカなチキンテディちゃんは確実に俺に一撃も加えられず蜂の巣になるだろうさ。
チキンテディちゃんが戦斧を構えると俺の方も即座にブローニング軽機関銃を構え、数秒の間引き金を引き続ける。俺が構えているのに気づいたチキンテディちゃんは何かを言おうとしたようだが、生憎と銃声に阻まれて何も聞こえない。回避は間に合わず、斧を盾代わりにするよりも先に銃口から飛び出た.30-06弾が到達し、皮膚を破って中身をズタズタに引き裂く。
ズタズタに引き裂かれて風穴まみれになったチキンテディちゃんの体が倒れ、構えていた斧が地面に落ちると引き金から指を離す。軽機関銃から吐き出された空の薬莢は小山を築き、目の前で倒れている元チキンテディちゃんにどれだけの銃弾が撃ち込まれたかを示している。
「ほほう、随分と恐ろしい武器ですなぁ………こんなものが我々に向けられたくないものですよ」
「そうだねぇ、ジョーが持っている武器はすごいねぇ………」
「さっきぶりだな、ジョセリン。そっちはどうだった?」
「んー………つまんなかったね、ケーキ一切れを食べる方が簡単だったよ!」
「まあ大天使様にしてみれば簡単だろうさ、まあ俺にとっても大したことはないんだが。バストーニュで戦った国民擲弾兵の方が100倍は強かったぜ!」
ブローニング軽機関銃を肩に担ぎ、おやっさんやいつの間にやら側にいたジョセリンと談笑する。しかしここで馬車の中に止まっていたお嬢さんが会話に加わってくる。
「バストーニュに国民擲弾兵………どれも聞いたことがない言葉ですわね。そこな御仁、少し馬車の中でお話を聞かせていただけます?それから大天使様もご一緒していただけると幸いですが………」
「俺は構いませんよ、答えられるものでしたらなんでも答えましょう!それに、行き先は同じ北のようですしね」
「そうだね、ボクもずっと歩きたいわけじゃないからねぇ」
「それは僥倖ですわ!北の街に到着いたしましたらそこで報酬をお支払いいたしますので、その間だけでもあなた方お二人に護衛を依頼はできますの?」
どうやらお嬢様は俺らの話を聞きたいらしく、俺とジョセリンに馬車の中で話を聞かせてくれないかと申し出る。そしてこれは俺らにとって完璧な時に来たものだ。それならばと申し出を受けて俺らは馬車に乗り込む。
そして話を聞かせる前に一件の依頼を受ける。俺らにとってはタダで馬車に相乗りできるだけでも十分な報酬ではあるが、目の前のお嬢さんにとっては足りてないようだ。とは言っても何ももらわないよりは、ちょっとしたものでも報酬としてもらっておいた方が良いだろうか?ただそんなことを考えるのは面倒かつ腹が減るもので、ならばと今無性に食べたいものと路銀を報酬として請求する。ジョセリンも受け取る報酬は俺と同じ条件を出すが、理由を聞けばなんとも納得できるものであった。
そんな俺らの食欲に塗れた報酬請求を目の前のお嬢様は無欲なのだと褒めてくるが、どうかよく考えて欲しい。俺らの請求した報酬が食欲に塗れていて、無欲とは言い難いことを。だがそんなことに気づいていないお嬢様はそのまま無い胸を張って報酬を絶対に払うと確約してくれたので水は刺さないであげた方が良いだろうな。
「あー………でしたら報酬はコーヒーとドーナツ、それからシチューと幾らかの路銀さえいただければ十分です。今はとにかく金よりもコーヒーとドーナツ、そしてシチューの方が大事なんだ」
「ボクもジョーと同じ条件でいいかなぁ?お金をもらったとしても必要量以上は持て余しちゃうからねぇ………あと単純にお腹空いた」
「まあ………!お二人は随分と無欲なんですね、素晴らしいですわ!」
「あー………まあそんなとこですよ、それじゃあ約束はしっかりと守ってもらいますからね、お嬢様。コーヒーとドーナツにシチュー、くれぐれもお忘れなきように!」
「ええ、理解しておりますわ!我がエンバーリーチ侯爵家の力でもってお二人から受けた御恩に報いることを約束いたしますの!」
さて、今はまだ止まっているが、多分外では騎士達が何かしら作業をしているんだろうな。それが終わったら北へ進むんだろう。だが俺らの目的地は北にある街であり、そこでこのお嬢様や騎士達とはお別れだ。そして別れた後は元いた世界へ帰る方法を探さねばな。それまでは暫しお嬢様やそのメイドと親御さんと一緒に馬車でほんの少しの旅をおしゃべりしながら楽しむとしよう。
KILROY WAS HERE! @g-i-joe
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。KILROY WAS HERE!の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます