Episode 4:Kilroy is shooting!



 引き金を最後まで引き絞ったことでハンマーが撃鉄を叩き、それが雷管を叩いて発射薬に点火する。点火されて燃焼した発射薬はガスへ変化して8発クリップで押し込んだM1普通弾の弾頭重量174グレーン11.3グラムの弾頭がドンと鳴る銃声と共に撃ち出され、マスケット銃を構えて引き金に指をかけようとしていた山賊の生命を刈り取る。

 ボルトが後退して空になった真鍮製薬莢を吐き出し、弾倉から次弾を拾って薬室に送り込む。次は恐らく騎士の誰かに向けて撃った後で、棒立ちになって弾を銃口から込めている山賊に狙いをつけ、こいつも頭に1発のM1普通弾を叩き込む。

 山賊が使うマスケット銃とは違う間隔の近い銃声、そして山賊のマスケット銃持ちが2人撃ち抜かれたのに気付いた双方はそれぞれ違う反応を示す。山賊の方は若干動揺が走り、騎士の方は勢い付き始めているようだ。

 そしてここへ燃え盛る炎にガソリンをドラム缶で投げ込むかのような出来事が起こる。そう、我らが大天使様ことジョセリンが騎士側に立っての参戦である。

 古代ローマ時代のもののような鎧を身につけ、十字架のような長身の細く幾何学的な模様の刻まれた剣を右手に、左手には同じく幾何学的な模様の刻まれた天秤を持っているジョセリンはひらりひらりと山賊の攻撃を交わしては右手の剣で斬りつけ、距離の離れた敵には左手の天秤から魔法を放って仕留めている。


「おお、さすが大天使様だ、俺もうかうかしていられねえな。特に決めてないが戦果レースの始まりってとこか?」


 ジョセリンの活躍を眺めてそんなことを呟きながらも飛び道具持ちを優先して狙い、撃ち抜いていく。銃床から伝わる反動が銃口を蹴り上げるが、すぐに修正して次の標的を狙う。

 これまで戦ってきたフン族ドイツ兵共に比べれば、すぐにその場で伏せたり遮蔽物に隠れたり見当違いな方向だとしても撃ち返してきたりしない分、森を抜ける時に襲いかかってきた狼の方が脅威にも思えてきた。ただしこれまで俺が戦ってきた相手が相手だから、山賊の様子を見てそんな感想が出てくるのはある種当然とも言えることだろうか?


「おー、ちらほら俺が撃ってきてる方向に気づくやつも出たか。でも残念、二正面作戦してる時に片方だけに集中してはいけないって教わらなかったのか?」


 3個目のクリップをピーンと鳴らしながら吐き出し、ボルトが口を開けて次のクリップを押し込むよう催促するのでバンダリア弾帯からクリップを取り出して弾倉に押し込む。

 銃声が止んだのを好機と見て、恐らく発砲炎から俺の位置を特定したであろう山賊が走ってくるが、それは騎士やジョセリンに大きな隙を見せることになって横から剣で胴体を貫かれたり首を切り落とされる。ただしその追撃を逃れて俺の方へ走り続ける幸運な者もいたが、その幸運は俺のガーランドから放たれる.30口径のM1普通弾で撃ち抜かれて砕け散った。


「何とも簡単だな、昔受けた訓練よりもかーなり楽すぎて眠くなっちまうよ」


 引き金を引き続け、時々クリップを弾倉に押し込んで再び適当な山賊に狙いをつけて引き金を引くこと数回。山賊の動きはウスノロな以上、狙いは外れることもなく確実に弾が当たるので笑えてくるどころか眠くなるレベルに楽な仕事だ。

 とは言っても油断はできないし、それにそろそろこの狩場も潮時だろう。

 後ろからは何とか俺のところまでまわり込んできたであろう山賊が3人、粗雑な作りの棍棒や槍にナイフを両手に構えたのが突っ込んできた。が、しかしかわいそうなことに構えている得物の間合いに入るより先に俺に撃ち抜かれてしまい、最後のナイフ持ちが斃れると同時にピーン!と音を立ててクリップが吐き出される。


「かわいそうに、次があるのなら今度は俺みたいな銃を持っている奴には気をつけろよ」


 そんなことを呟きながらも次のクリップを押し込んで再装填は完了。

 それじゃあさっさとここから移動するとしよう。山賊の数も減ったし、それに騎士やジョセリンと連携も取れるだろうし、何ならここで孤立し続けるよりは合流したほうが良いだろうからな。


 そうと決まればいざ行動に移そう。これまで伏せてカモ撃ちをしていた狩場から立ち上がって早歩きで進み、途中で目につく山賊を立ち止まって撃ちながらも騎士やジョセリンと合流する。


「やっときたねジョー!少し遅かったんじゃない?」

「貴殿らの助力に感謝する!援護は我らに任されよ!」

「おぉ、騎士が味方ってのは随分と頼もしいな。ならお言葉に甘えるとしますかね!」

「はぁ………手下共が随分と時間をかけていやがると思ったら、一体これはどうなってんだァ………?」

「なあ騎士様、あのデカブツに心当たりはあるか?」

「無い、恐らくはあの賊共の首領かなんかだろう」

「オーケイ、だったら撃っちまっても問題はないよな?」

「ああ、それに向こうもどうせここを通すつもりはないみたいだ。奥様やお嬢様のためにもさっさと終わらせよう」


 お互いに援護してはされてを繰り返して山賊を仕留めまくり、立ち上がって武器を構えている山賊も残り10人と少々ほどになったところへ他の山賊や騎士よりも体格が良く、かなりの大柄で熊のような大男が同じくらいに大きな戦斧を担いで現れる。

 さらには厄介なことに熊男は20人ほどの増援も連れており、増援とともに現れた熊男の周りに残りの山賊も集合し、騎士やジョセリンも熊男の動向に注視して奇妙な沈黙と空白が出来上がる。

 とりあえず側にいた騎士に心当たりがないか聞いてみるが、帰ってきた答えからこいつは新手の敵らしい。つまりはさっきのように撃って仕留めれば良いだけだ、それにカモ撃ちはちょっとつまんなくなってきたところだし!


「………ほぉ、手下共が襲ったのはお貴族様の馬車か、それも上玉が5人もいると来た。これは手下共には悪いが、俺で独り占めさせてもらおうかね」


 熊男は馬車の中やジョセリンの方へ下卑た視線をやると、舌なめずりをしながらそんなことを言う。熊男の顔は随分とでかい傷と毛量の多い髭があって何とかその醜さを中和しているが、それでも下品なオーラは隠しきれていない。

 そんなお下品熊男だが、俺や騎士たちに対して非常に馬鹿げて笑えない取引を持ちかけてくる。


「なあお前ら、女と有り金を全てこの場に置いて行ったら見逃してやらんこともないんだが、どうする?それから俺の手下になるってのもどうだ?俺の手下になれば毎日が宴になるぜ?」

「流石にこんな馬鹿馬鹿しい提案を受ける奴なんていないだろ?」

「当然だろう、我々は"エンバーリーチ侯爵家"に忠誠を誓っているのだからな。それよりお前………"枯草の銃士"はどうなんだ?」

「じゃあ俺が回答してもいいか?短くて適切な回答があるんだ、そしてその言葉の意味は『地獄に落ちろ』、だ。適切な返答だとは思わないか?」

「………そうだな、返答は君に任せるとしよう、"枯草の銃士"よ」

「アイサー、おまかせあれ」


 近くの騎士数名と肩を寄せ合って熊男に聞こえないようにしつつもあの提案に対する答えを聞く。とは言っても騎士たちはあの馬車に乗っているお嬢さん方の家に忠誠を誓っているので意味はないし、俺としても短い付き合いとはいえどジョセリンをあんなやつの好きにさせたくはない。

 つまり結論としては当然ながら断るし、その返答はいつの間にやら"枯草の銃士"なんて二つ名が付けられた俺がすることとなった。まあ俺としてもこの状況に相応しい言葉を知っているから当然といえば当然だろう。


「おうお前ら、答えは決まったか?」

「もちろん決まったさ、俺らの答えはただ一つ、耳の穴かっぽじってよーく聞けよ!」

「勿体ぶるなよ、そう悪い条件じゃないはずだろう?」

 N U T S 地獄に落ちろ!!」


 そして俺の………というより俺による返答だが、やはりバストーニュで戦っていた頃の上官のマコーリフ准将がドイツ軍の降伏勧告に返したこの言葉がこの件において一番適切だと判断したので思い切り息を吸ってから全員に聞こえるよう肺の中の空気を全て使い尽くす勢いで叫ぶ。騎士達には事前に意味を伝えていたのもあって俺の返答に気炎を上げ、山賊の方は熊男も含めて意味が理解できずに困惑している。

 さて、俺の返答で山賊共に隙ができた。ならば後はその隙を突いて敵を薙ぎ倒すだけだろう、実際騎士達にジョセリンもそうするようだしな。

 銃剣は銃口にしっかりと付いている、弾もしっかり8発クリップにまとめられて弾倉に押し込まれている。突撃はいつでもできるし、もう仕掛けた方が良いだろう。喊声を上げるためにも息を吸い込み、銃口を前方に向けてガーランド小銃を硬く握る。


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