Episode 3:Kilroy is shooting!



 さて、俺らは途中で襲いかかってきた8匹の狼を全て1発で仕留めたこと以外に特に大したこともなく、無事に森を抜けて舗装されていない平坦なだけの街道へ出た訳だ。

 銃声にビビり散らかしたのかどうかはわからないが、少なくともあの8匹の狼以外に俺らに襲いかかってくる獣は無かったため、すぐに森を抜けることができた。そして今はコンパスで方角を確認し、北へ向かう街道を歩いているところだ。

 周囲は平坦で、そのまま街道をしばらく進めば恐らく標高は目測で150フィート約45メートルくらいはあるであろう丘を登る道とそのまま北へ直進するルートの二つに分かれる。当然ながら俺らはそのまま北進………はせず、一度あの丘に登って周囲の確認をする予定だ。


「ジョー、早くこっちにおいでよ!」

「随分と元気だなぁ、大天使様ってのは。少しはペースってものを考えたらどうなんだ?」

「ジョーがのんびりしすぎなだけじゃない?ほらほら、先に登って降りちゃうよ〜?」

「あぁクソ、標高がどれくらいか分かってんのかよ………実に面倒臭いぜ………」


 俺がヒイコラ言いながらゆっくり丘を登っていたが、ジョセリンの方は何もない平坦な草原をスキップするが如く軽々と登っていく。とは言ってもある程度距離が空くと俺の方に振り返って声を掛けながら待ってくれるだけ十分だろうな、置いていかれないだけ感謝しよう。


「よーし、ここがこの丘の頂上であっているんだよな?」

「うん、そうだよ!それで、ほんのちょっとだけ見えてるけどあれが多分最寄りの街だね!」

「………あの石造りのでかい城壁に囲まれているところだよな?そこそこ規模が大きいな、流通拠点かなんかか?」

「そう、そこであってるよ!」

「よーし、ならさっさと………いや待て、途中で誰かが山賊に襲われているな。ジョセリンも見るか?」

「本当?ちょっとそれ見せて!」

「どうぞ」


 なんとか俺はジョセリンに置いてけぼりにされず無事丘に登頂し、そこから周囲を見渡したのちに双眼鏡を取り出してジョセリンが指す方向を見る。

 ジョセリンが指した方向にはかなりの高さと厚さのある石造りの城壁に囲まれ、新古典主義建築風味の建物が並んでいる。ここから察するに、恐らくは俺がいた世界の近世くらいには技術は進んでいる可能性はある。もしかしたらそれは思い違いかもしれないが、何はともあれ警戒はしておいて損はしないだろう。

 念の為に街道やその周囲も双眼鏡越しに偵察していたわけだが、その途中現在地からおおよそ直線距離で657ヤード約600メートル程離れたところで下馬している板金鎧に身を包み、統一された剣を構えている騎士が雑多な装備の山賊と対峙している。しかし数の上では山賊の方が勝っているし、馬車の中には恐らく騎士たちの主人であろう貴族の令嬢とそのお袋さんがメイドと共に震えている。

 家紋入りで6頭立ての大型4輪馬車に乗って護衛に犬やら騎士を連れているってことは貴族か?だとしたら俺が援護することで恩を押し売りして、俺が元いた世界へ帰るための情報を収集させるのに使えるかもな。

 ただし、それ以上に俺としてはあいつら山賊が碌なもんじゃないと思ったのもあるし、見捨てたら俺が後でかなり長くこの時のことを引きずりかねないってのもあるが。


「大変そうだねぇ、あれは山賊かなぁ?騎士さんたちは頑張っているけど、山賊の方が数が多いから苦戦しているねぇ。ジョーはあの騎士さんたちを助けるの?」

「助けるさ、何せ俺は正義を掲げるアメリカ合衆国の誇り高きスクリーミング・イーグルスだからな!」

「………そっか、じゃあボクも一緒に行くよ。一人で行くよりも安心できるでしょ?」

「ははっ、その通りだ。それじゃあ運命とのランデブーとでも洒落込みますかね!」


 ジョセリンも街道の途中で何が起こっているのか双眼鏡で見て把握したようなので俺は急ぎ弾を補給し、手榴弾や予備弾薬をポケットに押し込んでから丘を降りる。

 ジョセリンは俺に騎士達を助けに行くのかと問うが、答えは当然イエスに決まっている。ごもっともらしい表向きの理由を貼り付けたが、流石に大天使様には見透かされているかもな?

 まあそんなことはどうでもいいので、今は襲撃現場へ急行しよう。流石に今はまだ騎士達も戦えてはいるが、それもいつまで続くかは不明だ。ただし距離はそれなりに離れているので、移動手段がとにかく欲しいが今はただ無心で前へ前へ走る他ないだろう。






 大体襲撃地点から328ヤード約300メートルほどのところまで俺らは丘を降りた先の草原を走り抜け、今は地面に伏せて作戦を練っているところだ。幸運なことに負傷したものは何名かいるが、それでも未だに騎士達は立ち続けて山賊の攻撃に対処している。

 しかしそろそろ形勢は厳しくなりつつあるようで、時折山賊の攻撃を許してしまうこともあるようだ。流石に急いで介入するべきだろうが、その前に一息ついておこう。流石にそこまで距離は長くないと言ってもフル装備状態での全力疾走は堪えるもので、息はかなり荒いし心臓はとにかくやかましい。


「お疲れだね、ジョー。気を抜いたら寝ちゃいそう」

「あぁ、これが終わったらいっぺん昼寝しようかな………かなり疲れた………」

「それよりもさ、そろそろジョーもあの戦いに加わった方が良いと思うよ?騎士さんたちも厳しくなってきたみたいだし」

「そうだな、それじゃあそろそろ正義執行と行きますかね」


 ベルトからぶら下げた水筒を手に取り、ガブガブと水を飲んでから深呼吸して息を整え、ガーランド小銃を伏せ撃ちの姿勢で構える。

 最初の狙いは木の側でフリントロック式のマスケット銃を抱えている山賊から仕留め、次に同じくマスケット銃を持っているの、その次にクロスボウに弓を持っているやつの順で仕留めよう。

 流石に俺らが山賊の持つ飛び道具の射程外にいるとは言っても、脅威であることには変わりない。だったら先に排除した方が良いだろうし、俺のいるところまで近接武器持ちの山賊が走ってくるにはそれなりに時間がいる。だったら余裕を持っておいた方が良いだろうし、後回しにしたとしても十分に対処できるだろう。

 そしてジョセリンだが………まあ、自由にやらせておけば良いか。大天使だし、そう足手纏いにもならないだろうから騎士の援護に回しておこう。そもそもジョセリンの戦い方なんて全くもってわからんので、変にあれこれ指示を出すより自由にやらせる方がうまく行くだろうし。


 騎士と山賊の戦いに介入するための作戦を立てた俺らは一旦別れてジョセリンを騎士の方に向かわせ、俺は騎士に向けてマスケット銃を構え、引き金を引こうとしている山賊の頭に狙いを定めて引き金を引き絞る。


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