Episode 2:Kilroy is landing!



 パラシュートを操作して減速しながらゆっくりと湖のほとりの上空に辿り着き、着地に備えて着地の姿勢を取る。着地地点は枯れ枝や沼地などは見当たらないのでまあスムーズに着地できるだろう。

 喜ばしいことに着地のやり方は忘れていなかったのでしっかりと負傷せず無事着地する事には成功した。着地後は背負っていたメインパラシュートと予備パラシュートのハーネスを外し、太もものホルスターからM1A1カービンを引き抜いて周囲を警戒する。


「無事に降りられたね、人間さん!」

「あぁ、そのようだな。それに周りに敵はいないようだし、今のうちにパラシュートを畳んでおこう」

「またそれを使うの?」

「あーいや、バラして素材にでもしようかと」

「そうなんだ。ところで人間さんの筒が1個泉に落ちてるんだけど………」

「………は?うわマジじゃねえか早く回収しねえと!」


 とは言っても周囲に天使のお嬢さん以外はいないのでカービンをホルスターに戻してパラシュートを畳んでハーネスに収納する。現状これをそのまま再使用することはないだろうから、パラコードやナイロン生地にでも加工して何かの材料として取っておこう。

 さて、パラシュートを折り畳んで収納して近くに落ちてきた索具のコンテナの側に投げたはいいが、天使のお嬢さんが俺に円筒コンテナが泉に落ちていると告げてくる。当然ながら俺としてもここでコンテナの物資がなんであれ、それを失うのはあまりにも手痛い損失なのでとにかく急いで泉に入ってコンテナを回収する。


「あららら、人間さん随分とずぶ濡れになっちゃったねぇ。乾かしてあげよっか?」

「乾かしてくれるのか?なら是非とも頼むよ、風邪をひきたくはないからね」

「はいはい、天使の"ジョセリン"さまにお任せあれ〜!」


 なんとか泉に落ちたコンテナを回収した俺だが、その代償として足から腹のあたりまでがずぶ濡れになってしまった。

 とは言っても天使のお嬢さんことジョセリンが乾かしてくれるらしい。非常にありがたいことこの上ないが、俺のズボンやらブーツに靴下はどうやって乾かすんだろうな?とは言ってももしかしたら魔法を使うのかもしれないんだろうが、そうだとしたら俺は本当に空想小説の中のような世界に迷い込んじまった事になるんだろうな。


「身を清め、衣を輝かせよ、"カタリスモス!"」


 まあそんなことを考えてはいたが、ジョセリンが何かの文言を唱えるとたちまち右手に何かの粒子らしきものが集まって幾何学模様やギリシャ文字のようなアルファベットらしき何かの記された白い丸が右手の指の前に出現し、その後に俺が先ほどまでずぶ濡れになっていた事によって感じていた不快感や湿気などは消え去り、濡れていた下半身どころか全身が清潔でかつ乾いている状態になっていた。

 あっという間に全身が清潔になったのに驚いている俺を尻目にジョセリンは特に大したものでもないような素振りでいる。ただジョセリンや魔法のことよりも今はコンテナの開封と中身の確認の方が重要なのでジョセリンの話には適当に相槌でも打っておく。


「人間さん、魔法を見たのは初めて?」

「ああ、見たことはないし、なんなら今初めて見たよ………」

「へぇ、それじゃあ人間さんが初めて見る魔法はボクのになるんだね!」

「まぁ、そうなるな」


 適当に相槌しながらコンテナを開封して中身の確認をしていく。まず最初は泉に落ちたコンテナにしよう、どっちにしろ腐りかねないってのもあるからな。

 そうして泉に落ちたコンテナの邪魔なパラシュートを折り畳んでから開封する。幸いなことに中にまで水はそこまで入り込んでいなかったようで、一応コンテナ内は乾いていると言えるだろうか。そして肝心の中身だが、中身はトンプソンM1928A1短機関銃やらブローニングのM1919A6軽機関銃にM1918 BAR自動小銃、そしてM1ガーランド小銃が入っていた。それから銃剣やナイフに手斧とスコップも少々。

 よし、これの確認は終わったから次に移ろう。今度は問題なく無事に地面に着地できたコンテナにしよう。いつの間にやら俺の側にいたジョセリンは適当にあしらいながら次の作業に取り掛かる。


「ふぅん、これは銃かな?でもボクが見たことあるのとは随分と違うなぁ」

「へぇ、そうなのか」

「こっちはなんだろう?赤い十字があるけど、何に使うんだろうね?」

「それは医薬品だ、傷の治療に使う」


 こっちのコンテナは包帯や止血帯にモルヒネの入ったファースト・エイドやその他医薬品等が詰まっている。少なくともある程度の負傷はなんとかなるだろうし、俺にとってはかなりの助けになるだろう。ただしこれを運べるなら、だが。

 まあそれは良いとして、最後に残ったコンテナの開封に移ろう。索具を外して固定を解き、積み上げられた木箱を地面に並べる。表面には内容物が印字されており、それを見るにこれは弾薬や缶2個1セットのものCレーション紙パックにまとめられたものKレーションチョコバーDレーションだったりのレーション戦闘糧食の詰められた箱をまとめたもののようだ。

 どっちにしろ、保存が効いて携帯性の高い食料と銃器のための弾薬がある間は暫くは保つだろう。しかし、今俺らがいるのは森の中なので急ぎ人里に向かわねば最悪この森にいるであろう獣の養分になってしまう。更にはこのコンテナの物資を隠す必要もある。


「あぁそうだ人間さん、今の今まで人間さんの名前を知らなかったんだけど、教えてくれるかな?」

「あー………そういやそうだったな………」


 そんなことを考えながらもコンテナから物資を回収してバックパックやポケットに押し込んでいた俺だが、そこへジョセリンが俺の名前を聞いてきたので答える。俺としても、降下中に出会ってから今までずーっと俺が"人間さん"と呼ばれていたのを機に求めていなかったが、そもそも名前を知らないんだから当然そんな呼び方になるだろう。


「俺の名前はジョセフ・キルロイ、気軽にジョーとでも呼んでくれ。出身はアメリカ合衆国のボストンで、好物はお袋の作るラム肉のシチューとポークビーンズだ。まあなんだ、こんなもんじゃないか?」

「なるほど、ボクの名前はさっきも言ったけどジョセリン・ミシェル、苗字は無いよ!それで出身は天界で、好きなものは甘いもの!これからよろしくね、ジョー!」

「こちらこそよろしく、ジョセリン。それで、だ。一つ質問があるんだが良いか?」

「何かな?なんでも答えるよ!」

「今俺らはどこにいるのかを知りたいんだが、ここがどこかジョセリンは知っているか?」


 物資を詰め込みながらも俺の自己紹介を済ませ、次にジョセリンも自己紹介をして握手を交わす。とは言っても現状俺は空から降り立ったと言っても現在地が一才わからないのでジョセリンに俺らは今どこにいるのかを訊ねる。


「うーん………多分ここは"十一王国"のどこかじゃないかな?ただボクはある用事で北の方から南へ飛んできたから、北に行けばわかると思うよ。途中で街や村も幾らか見たから、そこで聞いてみればわかるんじゃないかな?」

「オーケイ、じゃあまずは北に進んで村か街まで行こう。案内頼めるか?」

「もちろん!乗りかかった船だから、手伝うよ!それとその箱や筒にあるものはどうするの?置いていくの?」

「あー………持って行けるだけの荷物持って、後はどこかに隠そうとは思っているな。ただその隠した物資が誰かに荒らされる可能性もあるんだよなぁ………」


 さて、俺らは今"十一王国"なる国のどこかにある森の中にいるらしいな。現状俺が持っている地図は紙屑程度の価値しかないし、土地勘なんてあるわけもないからジョセリンとコンパスだけが頼りである。そしてジョセリンの方はどうやら何かしらの用事で北から南の方に飛んでいる途中でいくらか村や街を見たと言うので一旦はジョセリンに案内を頼んで北に向かうことにしよう。

 移動の準備はもう終わっているのであとは移動し始めるだけだが、それをじょせりんは引き留めてくる。コンテナやその中の物資をどうするのか聞いてきたが、隠す以外の選択肢はないだろう。運べる量に限りがある以上、取捨選択は重要である。ただし、ジョセリンはまた別の選択肢を持っているようだが。


「それならボクが良い方法を知っているよ!ジョー、少し手を出してくれるかな?」

「構わないが、一体何をするんだ?」

「うーん………少し魔法のお勉強ってところかな?」

「魔法と無縁な俺でも使えるのか?」

「もしかしたら、だけどね。ダメだったら諦めよっか」

「まあいいさ、とりあえずやってみてダメだったらあれを隠すだけだからな。それによく言うだろ?当たって砕けろってな!」

「砕けるのは違うけど、とにかくやってみることが大事なのはそうだね。それじゃあ魔力を通すね!」


 その選択肢を試すべくジョセリンと手を繋ぐ。何がなんやら俺は正直わからなかったが、その後のジョセリンの言葉でこれから行うことを一応は理解することができた。どうやら俺に魔法のレクチャーをするらしく、今はその準備のようだ。俺としても本心から隠したほうが良いと思っているわけではないし、少しでも良い選択肢があったらそっちを選ぶ。

 そうして準備を終え、ジョセリンは目を瞑る。そうしてほんの数秒後にジョセリンの手から伝わる少し高めな体温とは違う妙な感覚が全身を走り抜ける。これが魔力なのかはわからないが、これで隠すよりも良い方法は取れるのだろうか?


「うんうん、どうやらジョーは魔力をちゃんと使える量持ってて、発動する為に必要な放出力や制御力もちゃんとあるみたいだね!これなら物資を隠さなくても済むよ!」

「へぇ………で、それはどうやるんだ?」

「ボクが言った詠唱文に続いて、それを唱えるんだよ。そうすればすごい真っ黒な穴が開くから、そこに荷物を入れれば良いんだよ!」

「なるほど、ならやってみよう」

「「我が秘密の空虚、時の無き暗闇、いざくだれ、"ティサヴロス"!」」

「いいね!初めてでそこまで上手くやれる人はそうそういないよ!」

「ふーむ、そうなのか?」

「ジョーはすごいよ、もっと胸を張ったら?魔法は普通の人よりもずっと上手く扱えるよ、何せそれはボクがよーくわかっているし、なんなら大天使のボクが保証するからね!」


 さて、発動に必要な条件はしっかりと満たしているみたいだからあとは実行するだけだが、本当にできるんだろうか?疑念はあったがジョセリンの後に詠唱文を唱えると俺の目の前には大体2フィート60.96センチ程のとにかく暗闇より真っ黒でほんの少し指を入れてもその指の先が見えないレベルに真っ黒で薄っぺらくしかも俺に追従する穴が開く。

 ジョセリンは俺のことを褒めているが、正直比較対象がいないのでそれがどんなものかはわからない。ただしジョセリンが大天使であることはわかったので、俺が不敬をやらかしていないか非常に不安になるが。

 とは言ってもジョセリンの性格的に多分そこまで気にしてはいないだろうから、心の広さに感謝しながら物資の詰まっているコンテナや木箱、そしてパラシュートや索具も全て回収して綺麗さっぱり片付ける。これで本当に移動する準備は整ったのでさっさとここを離れるとしよう。


「ジョー、忘れ物はないよね?」

オフコースもちろん、準備はできたさ。さっさとここを離れよう、森に長居はするもんじゃない。ところでこの穴はどうやって消すんだ?」

「"テロス・アナプティクシス"って唱えるか、もしくは消えるよう念じたら消えるよ」

「おぉ、そうやるのか。これでまた一つ俺は賢くなったな」

「そりゃあボクという最高の教師がいるからね、むしろそれは当然だよ!」

「そうかもな、それじゃあさっさと北へ行こう。このまま止まったところで俺が飢え死にするだけだからな」

「よーし、出発しんこーう!」


 忘れ物はなし、物資は全て回収したし、それを詰め込んだ穴もジョセリンから消し方を教わって消せた。これで本当に移動する準備は整ったので、北へ歩いていこう。やっとこの森から離れられる………とは言っても俺らはまだ森の中にいるし、北へ進む前に森を出る必要があるんだがな!

 まあジョセリンがいるから多分ちゃんとこの森は出れるだろう、確実と言うわけではないが。それでもジョセリンは立派な自前の翼で空を飛べるから、空から案内してもらえば問題はないだろうさ。

 そんなこんなで俺らは森を出るべく歩みを進める。勿論途中で獣が出るかもしれないからM1銃剣を着剣したM1ガーランドを構えながら、だがな。


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