その日が来るまで

姫路 りしゅう

ある夜

 カーテンの隙間から差し込んだ一筋の光が、ぼくの上に跨った彼女の横顔を白く照らす。

 ぼくはもうコンタクトレンズを外しているので、彼女の表情はよく見えない。

 でもそこに表情なんて浮かんでいないことは知っている。

 ぼくたちはただ、作業のように性行為をする。

 無表情に、淡々と、まるで義務付けられているかのように。


 六畳の部屋に、控えめな声だけが響く。

 

 もう、お互いの名前を呼ぶこともない。

 終わりが近い。


 彼女を下から見上げる。

 Tシャツにプリントアウトされた間抜けなキャラクタを見て、そういえば行為の時、服を脱がなくなったのはいつからだろうと、そんなどうでもいいことを思った。

 彼女がどんな下着を着けているのかも、もう知らない。


 行為が終わりに近づいてきた時、

 ぽたり、と頬に熱い雫が落ちてきた。


 彼女の顔をまじまじと見る。

 ぼやけたぼくの目に映る彼女は、怒ったような表情で歯を食いしばっていた。

 彼女は決して涙を拭こうとはしなかった。

 ぽた、ぽたと落ちる熱い雫。

 ぼくも、その雫には気が付かないふりをする。



「――――レイ」


 でも、泣いている彼女が急に愛しくなって、ぼくは思わず名前を呼んでしまう。

 レイは少し驚いた表情をする。


 終わりが近い。


 それでもまだ、もう少しだけ続いてしまうだろう。


 ぼくたちはその日が来るのを恐れながら、それでいて、心待ちにしている。

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