第3話 マッチングゥ! 1人目

 自分の部屋で高校の制服に着替えた後、2階の部屋から出て階段を降りた。リビングに行くと、


「おはようっ、しゅん」

「……、うぃ……」


 お母さんのいつもの挨拶に、俺は短く返事をしてテーブルの席に着いた。


 テーブルの上には朝ごはんが用意されいて、普段の朝の光景が広がっている。


 俺は少しため息をついた。


 はあ〜……、これで変なアプリ、『マッチングゥ!』 に悩んでいなけりゃ、いつも通りの平和な日になるんだけどな……。どうやったら消えんだ、あのアプリ……。スマホショップで店員に消去してもらうしかないのか……?

いやいや! それは無しだ!! 店員にこんな恥ずかしすぎるアプリは見せれねぇ……、はぁ〜……。


「どうしたのよ、しゅん」

「えっ?」


 テーブルの対面に、お母さんがいつのまにか座っていて、気になる顔つきで話しかけてきた。


「今日はいつもと違うわねっ」

「はっ!? そ、そんなことないし」

「そんなことあるわよ」


 どんなことだよ。


 お母さんは俺の顔を見て、察したように言う。


「珍しく早起き。珍しく素直に着替えて降りてくる、それから……、珍しく、悩んでる? ってとこかしら。しゅんにも悩むことがあるのね?」


 う、うっとうしい。全部に『珍しく』って付けんなよ。あと何? 悩むこと無さそう? そんなわけあるか、俺にだって悩みごとくらいある。顔や態度に出さないだけで……、でも今回は……『マッチングゥ!』、ほんとどうしよ……。


「お母さんに相談しても良いのよ?」

「そ、そんなことできねぇし!!」

「あら? ほんとに悩みごとがあるのね」

「うぐっ!」


 は、はめられた!! 


 お母さんが少し心配気な顔をした。まずい、否定して無理にでも押し通そう。


「悩みなんてない! ほんと無いから!! あ〜、もうそんな話は終わりでッ。俺、朝飯食うから」


 そう言い放って俺は箸をとる。「しゅん」と言う呼びかけを無視して、おかずに目を向けた。おっ、ハンバーグがあるっ。それに卵焼きも。


 この2つは俺の好きな食べ物だ。朝飯に置いてあるってことは、今日持っていくお弁当にも入ってるってとこだろ。


 ちょっと良いことがあって、少しだがテンションが上がる。

 

「んんっ」


 口の中に小ぶりのハンバーグをほうりこむ。うん、うまいっ。


「まったく……」


 お母さんは諦めたようにつぶやくと、キッチンへ。蛇口から水音が響き、洗い物を始めた。


 うし、これで良しと。


 お母さんの後ろ姿をぼんやり眺めながら、もう一口、ハンバーグを食べたときだった。


 ピコン!


 んんっ??


 俺のスマホから着信音がした。友達から? いや、ぼっちの俺には無いから。じゃあ、チャットアプリ『ら〜いん』になんかクーポンのお知らせきたか。でも、非通知設定してたはずだけど。


 口をもぐもぐさせながら、制服のポケットからスマホを取り出した。画面を見て、思わず目が見開いた。


『マッチングゥ! からメッセージ』



 なっ!? えっ!? な、なな、なんだとぉぉぉぉ!?!?


 ごくりと、おかずを飲み込む。


 えっ、まじで……。これ、どうしたら良いの? ヤバいやつ? ヤバいやつか……!? 


 架空請求、という文字が頭に浮かぶ。


 ど、どうしよ……。み、見なきゃ良いんだよ、そ、そうだよ! 開かなければなんてことは、


「しゅん〜、おかずまだ食べる?」

「はふぅわぁ!?!?」


 ポチ。


 だあああああああ!!!! お、押しちまったじゃねぇかあああああああああ!!!!


 最悪なタイミングで不意に声をかけられて、俺の指が誤ってメッセージを開くという大事故。


 お、俺のせいじゃ無いから!! か、架空請求が来ても、こ、これはお、お母さんのせいだ!!



『マッチングゥしました!』


 はあ!? 何が!?


『マッチングゥのお相手

名前=青木貴子あおきたかこ

性別=女性

年齢=45歳

身分=専業主婦

年収=0円

身長=155.2センチ

体型=普通

恋愛経験=2人

彼氏の有無=無(既婚)』


「なんでだよっ!?」


 お、おかしいだろ!! お、俺の、


「一体どうしたのよっ?」

「いいっ!?」


 キッチンでの洗い物をすませたのか、布巾で手を拭いながら、こっちのテーブルに歩いてくる、俺の、俺のまさかのマッチングゥの、1人目のお相手、


「しゅん?」


 怪訝な顔つきで小首をかしげる青木貴子こと、俺のお母さんがやって来た!!!!

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