第4話 トーク1!
「しゅん、今日はやっぱり変よ?」
「へっ!?!? べ、別にっ……」
と言いながらも俺はかなり焦っていた。なぜお母さん!? なぜお母さん!? なぜ、お母さんと!?!?
『マッチングゥ!』
普通はさ! 俺と同じ高2か、高校生とかじゃないの!?
俺はテーブルの対面にまた座ったお母さんの顔を凝視する。
少しふっくらした顔立ちに、肩まで伸びた黒髪。目鼻立ちはわりと整っていて、改めて見ると大人の女性って感じだ。でもどことなく母親感のある雰囲気で、パッと見は優しそう。実際はそんなことないけど。
ぐっ! 変な気分の悪さが……! お母さんを客観視するのが、すげぇつらい!! 俺はなにをやってんだ……!!
目線を、再度スマホの画面へ。
名前=
性別=女性
年齢=45歳
身分=専業主婦
年収=0円
身長=155.2センチ
体型=普通
恋愛経験=2人
彼氏の有無=無(既婚)
……、合ってる。まじで、俺のお母さんの、個人情報!! 身長はハッキリ知らんけど、だいたい合ってる気がする! てか、恋愛経験!! ふ、2人!? 俺のお父さんと結婚する前に、1回だけ別の男の人と付き合ってたことあんの!? そ、そんな情報知りたくなかった!! へ、変に気まずい!! 俺がねっ!!
ピコン!
「はうっ!?」
突然スマホの着信音。マッチングゥ! からだった。
『マッチングゥ! した青木貴子さんとトークをしましょう』
「は、はぁっ!?」
な、なんでそんなことしなきゃいけねぇんだ!? ふざけんなッ!! お母さんだぞ!!
「ちょっと、しゅん?」
「ひっ!? な、なに!?」
「なにじゃないわよ。どうしたの? さっきから、叫んだり、戸惑ったり……、スマホを見てるみたいだけど」
「いっ!? べ、別に何にもないしッ! だから気にしなーーー」
ピコン!
「おふぅ!?」
だあああああああああー!! もう!!
イラつきながらスマホを見ると、
『共通点や質問などで話題を作ってみましょう』
いやいやいや!? だ・か・ら!! なんでお母さんと、トークすんだよ!! 恥ずかし過ぎるだろ!!
「しゅん?」
ガタッ。
なっ!?
お母さんがリビングのテーブルの席から立ち上がろうとしていた。もう雰囲気で分かった。俺の方に来るって。や、やば過ぎる!! スマホを疑っているし、見せてと言われるだろこれ!? そしたら、俺は終わる!! 『マッチングゥ!』というわけのわからんアプリを見られて、メッセージやお母さんのプロフィール内容はもちろん、お、俺のプロフィールまで
!!
彼女ほしいか=絶対にほしい
「うぐぐっ……!」
そんなの、し、知られたくない!!
「お、お母さん!!」
「へっ!? な、なに!?」
椅子から中腰で、驚いた顔でこっちを見ている。い、今だ!
俺は恥ずかしさを抱えながら、『マッチングゥ!』に、従う!!
「は、ハンバーグ、て、手作り?」
俺の唐突な質問に、お母さんは目を丸くした。てか、戸惑ってるように見える。ど、どうしよ……!
するとお母さんは、上げた腰をイスに下ろしながら、「まあ……、そうだけど?」と返してくれた。う、うしっ! ひとまず危険を回避!
だが、じーっ、と俺を見つめる青木貴子こと、俺のお母さん。怪しんでいる、怪しんでるよすごく!!
静かなリビングがすごくつらい。不倫した夫が味わうような空気感って言えばいいのか? いや、知らんけどねっ! ってとにかく何かしゃべらないと!!
俺は引き続き『マッチングゥ!』に従う!
「あ、あのさ……」
「ん? なに?」
「えっと……、み、皆んな、ハンバーグ、す、好きだよな」
青木家で思いつく数少ない共通点を、俺は何とか口にした。こ、これで、何とかなるんだろうか!?
すると、
「……、ふふっ」
えっ? わ、笑い声?
お母さんが、口元を緩めていた。何故かおかしそうにしていて。
「か、母さん?」
「んん? あっ、ごめんごめん。でも、ふふっ、な〜に、いきなり?」
「えっ!? あ、いや、まあ……、そ、そのなに? ふと今さ、そう思って、だから、その……」
「ふふっ、そうねっ。しゅんや私、お父さんも好きよねっ」
「あっ、う、うん……」
その後、また静かになるリビング。気まずさは変わらなかったが、嫌な雰囲気は消えていた。
こ、これで、よ、良かったのか?
「お父さんがね、すごく好きなのよっ」
話が続いて、「えっ? あ、う、うん」と、俺は反応する。
「デートのとき、ご飯屋さんでハンバーグを選ぶことも多くてねっ」
「えっ? あ、うん」
「ふふっ、何回か怒ったこともあるのよ。他のお店にしてっ! てね。いっときはハンバーグに恨みを持ってたくらいよ」
「へ、へぇ〜……」
ハンバーグに罪は無いのにな、可哀想に……。
「でも、ね。ハンバーグを食べてるお父さんって、すごく幸せそ〜な顔するのよ」
「は、はあ……」
「で、ふと思ったの。私が作ったのでも、そんな顔するのかなぁ〜、って。そこからかなっ、ハンバーグを許せるようになったの」
「ふ、ふ〜ん……」
「ふふっ、今じゃお母さんの一番の得意料理よっ」
そしてお母さんは、楽しそうに笑った。
お……、おいおい、何だこの話。す、すごく、む、むずがゆいんだが!! 急に親の恋バナ!! 朝から聞くもんじゃねえ!! あとハンバーグがなんか理不尽に振り回されて可哀想と思いました。
ピコン!
おふっ!? ま、またかよ!?
チラリとスマホを見ると、
『良いところを見つけて褒めてみましょう』
なっ!? ま、まままま、マジかっ!? そんなのどうやってーーー、
「しゅん?」
「うっ!? あ、えっと……!」
だあああああああああ!! もうどうにでもなれ!!
俺は今聞いた話から、唯一思いついたことを、震える口で、お母さんに伝えた。
「は、ハンバーグ……、お、美味しかった」
「えっ?」
お母さんは短く驚いたような声を発すると、そのまま表情が固まった。や、やばっ! お、俺なんかミスった!?
時間にして、数十秒か、焦っていたときだった。
お母さんの表情が、
にんまぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜りぃ。
超絶に激変した。
めっちゃ顔がニヤけている!?!?
口元はまるでUの字。両頬は薄っすらと色づき、
「ふふっ、うふふふっ……」
口元から、と〜っても優しげな声音が漏れている。や、やばっ!? なんか超怖い!! 怖い!!
「しゅ〜ん♪」
「ひっ!? は、はい!?」
「ふふっ、ふふふっ♪」
また嬉しそうに笑うお母さんが、こ、こえええええ!! 目元が超細い!! あっ!!
リビングの壁掛け時計がふと目に入って、焦った。もう、家を出なきゃまずい! 遅刻する!!
「か、母さん!!」
「んん〜♪ なぁに?」
「お、俺もう学校い、行くから!」
「あら? もうそんな時間ねっ。ふふふっ♪」
超嬉しそうに笑ってるのが怖い怖い怖い!!で、でも気にしてる場合じゃない!
俺は立ち上がり、テーブルに置いてあった弁当を持つ。そしたら、
ピコン!
また!?
『感謝の気持ちも伝えれるとより良いでしょう』
ぐ!? だああああああ!! もう!!
学生カバンに弁当を入れつつ、俺は、母さんに小さく言った。
「お、お弁当、あ、ありがと……」
そしたら、お母さんの…………、今まで見たことない嬉しそうな満面の笑み、笑み、笑み!! や、やばいやばい!! 早く逃げないと!!
「い、行ってきます!!」
「ふふっ、いってらっしゃい♪」
俺は大きな声でそう言って、リビングを出た。駆け足で玄関に行き、慌てて靴を履いて外に出る。晴天の空からくる朝日が眩しい。
そして、すぐ走る、走る、走る!
「はあ、はあ、朝から……、何やってんだ俺はあああああ!!」
ピコン!
スマホを見る。
『とても良いトークでしたねっ。今後もマッチングゥ! をごひいきに』
そ、そんなわけあるか!!
ピコン!
『青木貴子さんのプロフィールが更新されました』
は、はあ!?
名前=
性別=女性
年齢=45歳
身分=専業主婦
年収=0円
身長=155.2センチ
体型=普通
恋愛経験=2人
彼氏の有無=無(既婚)
趣味=ハンバーグ作り(料理)
好きなもの=ハンバーグ、家族
なっ!? ぐ、うぐぐぐ!
「朝から、ほんと最悪だああああああああーーーー!!」
俺はスマホを地面に叩きつけたい気持ちを抑えながら、慌てて高校へと向かった。
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