第6話 錦戸舞花は猫に夢中

名前=錦戸舞花にしきどまいか

性別=女性

年齢=17歳

身分=高校生。バレー部副将

身長=168センチ

体型=スリム

好きなもの=ネコ


 スマホに表示されたプロフィール。俺と同じクラスだが、今まで話したことない女子、……てかクラスの女子たちとしゃべったことないけど……。そ、それは置いといて、


『マッチングゥしました!』

 

 ま、まじかよ。


 ギロリ。


 こわっ!?


 錦戸の切れ長の瞳がこっちをじっと見ている。クラスで見かける強気な姿だ。特に今日は増し増しに感じる。この状況でマッチングしちゃダメな相手だろ!?


「……、ねぇ」

「ひっ……!?」


 突然の低い声音にびびった。裏声でちゃって恥ずかしい!!


 ご、ごくり。


 俺は硬直して、動けない。人って恐怖でほんと動けなくなるもんだね! 


 錦戸は、肩までかかった淡い栗色のキレイな髪を、片手で右耳の少し後ろにかきあげ、何か決意した顔つきで、小さな口元を開いた。


「み、見てたの……?」


 じっと睨みつける錦戸。うっ!? お、俺が一体何したってんだ。てかみ、見てたって何を………………、ん?


 そう言えば錦戸は、俺に気づいていないとき、とても優しい声で、


「ね、猫………」


 と戯れていたよな。


 そうつぶやいた瞬間だった。


 「うっ!? や、やっぱり見てたのねッ!!」


 錦戸が怒気を含んだ声音とともに、顔を赤くさせた。力強い足取りで俺の方に向かってくる。


 こ、怖すぎる!! 逃げないと!? 


 でも今俺がいるのは細い一本道だ。逃げ場なんて、後ろしかない。来た道を戻ることになる。それだと学校に遅刻するかも………、って、そんなこと気にしてる場合じゃないだろ!


 俺は錦戸から目を離し、後ろへ方向転換しようと、


 ピコン!!


「おふっ!?」


 手に持っていたスマホからの着信音に驚いた。


 なんだよこんなときに! いいっ!?


『マッチングゥ! した錦戸舞花さんとトークしましょう』


 あほか!? 無理ゲーすぎるわ!!


『共通点や質問などで話題を作ってみましょう』


 さらに追いメッセージ!? って、やばいやばい!! 錦戸が迫ってきている!?!?


 逃げ損ねた俺に出来ることは一つだけだった。そう……、マッチングゥ! に従う!!

 怒ってる顔つきの錦戸に俺は、震える口元でせいいっぱい声を出した。


「ね、猫が好きなのか……!?」


 ピタリ。


 錦戸が足を止めた。距離にして、手を伸ばしてもちょい俺を捕まえられないほどのところ。


 錦戸は赤らんだ顔で、目を少し丸く見開いた。一瞬だけ、あどけなくなった顔つきに俺はドキッとした。なにこの不意打ち。

 でもそれも束の間。また目を鋭くさせ、


「だったらなにッ?」


 とても不機嫌でいらっしゃる。こ、怖い。俺よりも背が高いから、少し見下ろされてる感も加わってなおさらだ。ど、どうしよ、もう会話ギブアップしたい……、が、そういうわけにもいかない。


「こ、この細道、ね、猫が多いのか?」


 それを聞いて錦戸は、怪訝な顔つきながらも、


「そうよ……。ここって、朝は光がよく当たるから、猫達がよく日向ぼっこしにくるの。なんていうか、猫好きの隠れスポットな感じで」


 そう言うと、錦戸の口元が少しゆるんだ。おおっ?? な、なんか、嬉しそう?? よ、良し、一旦はこの調子でーーー、

 

「なのにあんたが来て台無しッッ………!!」


 と、口元を歪めた。怒った!! 考えが甘かった、ごめんなさい!! って、俺なんも悪いことしてないだろ!!

 

 だが錦戸の怒りは収まらない。顔を赤くして、


「わ、私が、ね、猫と遊んでるところを……、あ、あんたは、み、見て、ううっ!! ぜ、絶対に許さない!!」


 錦戸の顔が真っ赤に染まり、目は少し潤んでいた。お、おいおい、もはや、会話するのは不可能に近い状況だ。ど、とうしたら、


 ピコン!


 俺のスマホが鳴った。


 だあーーー!! この忙しいときに!!


『ハチワレ』


 は、はあ!?


 マッチングゥ! からの謎のメッセージに俺は戸惑う。一体どうしろと!?


「なにスマホ見てんのよッ!!」

「いいっ!? あ、いや、あの!?」


 錦戸が小刻みに体を震わせ俺を睨みつけながら、距離を詰めてくる。やばいやばいやばい!! も、もう、言うしかない!!


 俺は怯えている心を奮い立たせて、精一杯、叫んだ。


「は、ハチワレ………!!」


 ピタリ。


 と、錦戸の動きが止まった。潤んだ鋭い瞳が、みるみるうちに、丸くなっていく。そして、


「……、ねぇ」

「ひっ!? は、はい!」

「今、なんて言ったの??」


 俺はそう促され、もう一度、ゆっくりと、繰り返し答えた。


「は、ハチワレ?」


 にゃあ〜。


 俺が言い終わるちょうど、どこからか、猫の鳴き声がした。声の先は、俺の正面先、錦戸からは、後ろの方向だ。


 錦戸がすぐに後ろを振り返る。俺に背を向け、


「ええっ! うそうそ!? ほ、ほんもの!は、は、は!!」


 と、急に声を荒げながら、ハッキリと嬉しそうに叫んだ。


「ハチワレちゃんだぁーーー!!♡」

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