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あれから小一時間。
いつの間にか、先生は横で眠っていた。
あ、起きた。
「あ… お、おはよ? ってあれ? まだ夕方か… 雷もう鳴り止んでたっぽい、かな」
「あんなに鳴ってて眠りこけるとか信じられないんですけど… わたしこんなに怖いって言ってるのに!」
「そう怒らなくても。落ち着いたら帰ろうか。途中まで一緒に帰るかい? なんてね。しまった、俺明日の講義の準備もできてないんだった…」
膝上の読みかけの本が、ゆっくりと床に滑り落ちる。
ふいに愛おしさが込み上げてきて、キスをしたくなった。
陽だまりにいる猫みたいに、まだうとうと現実と夢の狭間にたゆたう隙だらけの先生に、足音を立てずに近づいて、静かに唇を襲う。
急にこんな事をしたから、びっくりして照れた顔をしたけれど、頭をそっと撫でてくれた。
「はは、かわいいなぁ。俺の事好いていてくれるなんて、本当変わった子だ」
「そうよ、わたし、そんな先生が好きよ」
あぁ、わたしも人間だったらいいのにな。
猫である自分を忘れるくらいに、ふわっと幸せな気持ちに包まれる。
この何ともいえない魔法みたいなふわふわした気持ちを、人は恋と言うのでしょう?
「この感情は、わざわざ分析しなくてもいいんですよ? 猫は難しい事など考えていません」
一緒にいられるだけでいいの。
そのまま先生の膝の上で、わたしは眠ったフリをして丸くなった。
先生は大きく伸びをした後、わたしを落とさないよう長い手を伸ばして窓を開ける。
首に付いている鈴が、風で少しだけ鳴った。
雨上がりの匂いが、湿気とともに部屋になだれ込んでくる。
先生の眼鏡に映る空には、虹がかかっていた。
今日はもう少しだけ、この魔法の余韻が続きますように――
魔法 haru. @matchan0307
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