7
ボクの好きな人には、好きな人が居て。それは決してボクではない人だと、そう気付いた時に胸が痛んだ。でも、決して叶うことが無いと確定したのに、ボクはまだキミを好きで、しょうがないらしい。
どうしたら風化するのやら。
不意に外を見ると、キミとキミの好きな人が楽しそうに話しながら歩いているところが視界に入る。相変わらず仲が良いことで何よりだ。そのまま眺めていると、二人はボクに気付いたようで手を振られたので振り返す。二人ともボクのクラスメイトで、数少ない気楽に話せる相手だ。だからこそ、この関係性を壊したくは無いのだけど……。
「今日はどうかしましたか?元気が無いように見えますが」
「……、特になにもない」
放課後。今日は日直だから最後の仕事である日誌を書いていると、目の前の席にキミが座ってそんなことを言う。今日のボクは元気が無いのか?元々目立たないように過ごしているから、たまたま今キミにはそう映っているだけだろう。そう思って返事をしたのに疑いの眼差しを向けられる。そんな目をされても、ボクが言えることなんて……、そうだ。
「どう告白したらキッパリフられるか、考えてた」
「ん?フられる前提なのですか?」
「その人には好きな人が居るから」
「……そ、ですか」
ああ、そんな困ったような顔をさせたい訳では無かったのに。やっぱりこんなこと言うんじゃなかった。と言うか好きな人にそんな話をするなんて、自分で思っているより参っているらしい。日誌も書き終わったしこの話は有耶無耶にしてしまおう。そう考えて日誌を閉じて帰り支度をする。
「さっきの話は、」
「それって!必ず言わなきゃいけない、ですか」
「……。ボクは、もう。この想いを捨てたいんだ」
「ですが。……私はあなたが傷付く姿は、見たく、ない。です」
そう呟くように言うキミは、何故か苦しそうな顔をしている。キミがボクをフるのに、キミがボクを傷付ける人なのに。こういうところが、好きで、……とても、きらいだ。
「ありがとう。でも、もう気にしなくて良いから。今の話は忘れて」
「……」
「変なことを言ってごめん。じゃあ、また明日」
日誌と鞄を持って教室を出ようと立ち上がって歩みを進める。キミが何も言わなくなったのは気になりはするけど、これ以上の失言は避けたい。告白してフられるタイミングは、何となく、今じゃないし。教室の扉に左手をかけたところで、バンッと音が鳴り視界が暗くなる。
「好きです」
突然頭上から降ってきた言葉は理解し難いもので、頭が真っ白になる。何と言われたのだろう。好き、と、言われた……?いやでも。キミは優しいからボクを哀れんで心にないことを言ったのだろう。ボクは知っている。キミの好きな人はボクではないことを。だからこの言葉は、真っ赤なウソだ。聞こえなかったフリをして教室の扉を開こうとしたが、キミが阻止してくるのかちっとも開かない。
「あなたが好きです。私の恋人になってください」
ボクの腰に右腕を回され後ろから抱き締められた。その突然の行動に気を取られてて、扉にかけていたボクの左手がキミの左手によって、いとも容易く扉から離され握られる。こういうことは本命にすれば良いのに。こんな誰が目撃するか分からない場所でこんなことをして……、噂になったら困るのはキミなのに。
「返事、待っていますね」
頬に何かが当たった感触を認識した頃にはキミが居なくなっていて、遠くで教室の扉が閉まる音がする。一体何が起こったのだろう。理解したいのに有り得ないが先行して、上手く処理が出来ない。ひと、まず。冷静ではない頭で考えても無意味だし、これ以上教室に居ても何も得られないので、やることを済まして帰ろう。もしかしたら夢オチの可能性だって……、ある。あってくれ。そんな現実的では無いことを考えながら、一度深呼吸をして教室の扉を開けた。
短編集の予定。 まゆずみ @0yzm_
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。短編集の予定。の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます