第60話

「ようやく完成か」

「まあね。みんなのおかげだ。俺一人だったらもう少し時間が掛かっていたと思う」


 ニケーの格納庫でオレグが神住に話しかけていた。


「ほんっと、ようやくって感じだよな。ニケーを作る前からだから、三年ちょい前か」


 目を細めしみじみとした口調で陸がいった。


「もっとさ。俺に技術が何もない頃からだからね」


 見上げる神住の目線の先にあるのはシリウスの背中にあるものと同じシールド翼。これまで一つだったそれがもう一つ、整備ハンガーのアームにマウントされる形で機体に取り付けられる瞬間を今か今かと待っているのだ。


「真鈴のおかげで制御プログラムも完成したからさ。それにぶっつけ本番だったけどトラムプル・ライノにソード・ビットを使ったのも良いデータになったよ」

「そんな……神住さんの役に立てたなら良かったです」

「この子の趣味の玩具ロボット作りも役に立つこともあるのね」

「趣味と言っても真鈴の腕は中々のものだからな。既にプログラム作成なら俺よりも上手いのは間違いないな」

「もうっ、わたしをおだてるのはやめてください」


 美玲と神住に褒められて赤面する真鈴を見て、オレグは頬を緩ませていた。


「さて、こっちも最終調整に入るぞ。真鈴、坊主、手を貸せ」

「はい!」

「わかった」


 オレグに呼ばれ真鈴と神住は早足で駆けて行く。

 三人がいる整備ハンガーではシールド翼から取り外されて整備されている四本のソード・ビットと一振りの剣が右側の壁に並べられ規定の位置にマウントされている。床には修復されたライフルと再建されたシールドが。反対側の壁には長短二つずつ、計四つのグリップのない銃身だけの銃が並べられていた。

 こうして武装が増えてくるとそろそろ真面目に武装に名称を付けた方がいい気がしてくる。せめてソード・ビットと同じような武装を示す呼び名くらいは考えておくべきだと近頃、神住は思うようになっていた。

 とはいえ今大事なのはそれではない。整備ハンガーにあるコンソールを操作して各種設定画面を確認していく。


「制御プログラムも正常にインストールされています。システム、オールクリア。異常は検出されていません。新規シールド翼、完成です」

「よっしゃ。電源を落とせ」

「はい」

「良くやった。流石だな真鈴」


 くしゃくしゃと乱暴に頭を撫でてくるオレグに真鈴は「やめてくださいよー」と言いながらも顔はどこか喜んでいるようだった。


「こっちのシールド翼はすぐに取り付けるんだろ」

「もちろん。シールド翼のサブリアクターと本体のルクスリアクターの同機も確認しないといけないからさ」

「わかった。準備するから坊主はコクピットで少し待ってろ」

「ああ。頼んだ」


 神住がコクピットに乗り込む。

 電源が入り、格納庫の様子を映し出す360モニターに表示される機体の情報。

 整備ハンガーのアームが新たなシールド翼を掴みシリウスの背後に運んできた。


「坊主、準備はいいな?」

「ああ」

「よっしゃ、いくぞ」


 シリウスのバックパックの左側に新たな翼が繋がる。


「接続完了。そっちはどうだ」

「確認した。エラーは出ていない」

「わかった。とりあえずいつものように右側だけを動かしてみろ」

「了解。ルクスリアクター起動。右翼サブリアクター、起動」


 胴体胸部に内蔵するメインのルクスリアクターが右のシールド翼にあるサブリアクターに光粒子を送る。それと同時に右のシールド翼に備わるサブリアクターからも光粒子がメインのルクスリアクターへと送られた。


「右翼サブリアクターとルクスリアクターの同機を確認。光粒子の相互循環、問題ありません」

「了解」

「続けて左翼サブリアクターを起動してください」

「ああ」


 モニタリングしている真鈴の指示通りに新たなシールド翼に備わるサブリアクターを起動する。

 途端シリウスが吐き出す光の粒子が爆増した。

 光の色は全てが澄んだ青。しかし、どことなく左のシールド翼から噴き出されている粒子の色が濁っているように見える。


「出力のバランスが崩れています。一度実験を止めますか?」

「いや、このまま行くさ」


 真鈴に答え、神住は敢えてルクスリアクターの出力を上げた。それに伴い左のシールド翼にあるサブリアクターに送られる光粒子が増加する。

 続けて右のサブリアクターに流れていく粒子量が増える。が、こちらは正しくルクスリアクターに循環していた。

 右のシールド翼のように左のシールド翼でも循環させることができれば。

 神住が願うように目を閉じた。


「大丈夫。出来るさ。お前は俺が作り、皆で完成させたんだからな」


 優しく語りかけるように独り言ちる神住。

 途端、神住の言葉に応えるようにシリウスの内部で光の循環が始まった。

 胸のルクスリアクターを中心に右翼のサブリアクターと光粒子が巡り、続いて左翼のサブリアクターに同僚の光粒子が送り込まれる。一方的な力の奔流では意味が無い。この光は巡ることで真価を発揮するのだ。

 左のシールド翼から噴き出されている光の質が変わる。微かな濁りは消え、澄んだ青色になった。

 二つの光の循環がより質の高い光粒子を全身に巡らせる。

 頭部にある人間の瞳のようなカメラアイに光が灯り、シリウスは両翼となったシールド翼から凄まじい量の光粒子を噴き出した。

 満天の星空に煌めく無数の星々のように、格納庫に漂う青く煌めく光の粒子。

 仲間達の手を借りて、幼い頃から神住が思い描いていた【シリウス】が完成したのだった。

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アルカナ戦記 蒼空のシリウス いつみ @Itumineko

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