後編
「そういえば、聞いた?シエナ憧れの騎士様大活躍して帰ってきたそうよ」
「えっ!?知らないですっ!まだ半年とちょっとしか経ってないですよね……あと半年近くは帰ってこないのかと」
「活躍したから褒美で早く帰還したとかじゃない?」
「ど、どんな活躍をっ?」
「私はそこまで知らないわよぉ……街をふらふらすれば噂話くらい聞けるんじゃないかしら?」
幸い今日は素材の入荷待ちのため薬屋もお休みだ。噂話を集めに行こう!
「お師匠さま、噂話集めにいってきます!」
「はいはい、いってらっしゃーい……スリと人攫いと迷子に気をつけるのよー」
「はーい!って、王都そこまで治安悪くないですよー」
「念には念をよ!人攫いはともかくスリと迷子はあり得るでしょう?」
「確かに……いってきます!ビットくん、いくよー!」
「キュッ」
慌てて出ていくシエナの影にタルちゃんが潜り、ビットくんはシエナの肩掛けバッグに飛びこんだ。スリがバッグから盗もうとしてもビットくんに返り討ちにあう仕様である……
「ふふ……まぁ、何かあってもタルちゃんがいるから大丈夫でしょうけどね」
早速、街で噂話を集めてみる。
まずは噂好きの奥さんがいるお店やカフェをまわってみようかな……
「いらっしゃい」
「あ、この果物ください!」
「はいよー……そういえば聞いたかい?」
お、きたきた!ここの奥さんは何か買うと噂話を提供してくれるんだよね!
「なんですか?」
「第三騎士団のことさ!数日前に王都に帰還したって話だよ!」
「帰ってくるの早くないですか?あ、お代です」
「はい、確かに……本来は1年の予定だったけど騎士の面々の活躍によりスタンピードが起こる前に増加した魔物を間引くことに成功したらしくて、褒美をかねて半年ほど早く帰ってくることになったらしいよ?あ、これ商品ね」
「はい」
「また寄ってね」
と、こんな具合に噂話を集めた結果……
第三騎士団は数日前に王都に帰還した。
本来は1年の予定だったが、騎士の面々の活躍によりスタンピードが起こる前に増加した魔物を間引くことに成功したらしい。それもあり、褒美をかねて半年ほど早く帰ってくることになったとか。
さらにタイラー様が所属する分隊は辺境伯の軍や傭兵と協力し、スタンピード時厄介になる上位個体を複数討伐したとか……タイラー様とその上官の分隊長は活躍が認められ出世するかもしれないこと。
他の騎士団が負けてられないと普段は避ける辺境行きを競っているらしいこと……などがわかった。
すべてが本当ではないだろうけど、言霊魔法は無事に役目を果たしてくれたみたいだ。
タイラー様の怪我の噂はひとつもなくてよかったー。
◇ ◇ ◇
「あぁ~!失敗したぁ……」
「集中が切れたでしょ?」
「……はい」
「考え事してても完璧に作れるようにならないと一人前とは呼べないわよ」
「わかってますよぉ……」
お守り作りはお師匠さまにも一人前だって太鼓判押してもらえたけど、他はまだまだ半人前なんだよねぇ……はぁ、また素材を無駄にしてしまった。
カラン、カラン……
「いらっしゃいませー」
「やっと、見つけた……」
「え?」
タ、タイラー様っ!?
「無事、戻ってまいりました」
「あ、おかえりなさいっ!」
ん?なんか違うような……
「あなたにお礼をしたいと思っていました」
「お礼ですか?」
あの時のお礼をわたしが言うならまだしも、タイラー様にお礼されるようなことあったっけ?
「ええ。このお守りのことです」
タイラー様が懐から取り出したのはわたしが半年前に渡したお守りだった。少し汚れてるけど、捨てないで持っててくれたんだ……感動。
「辺境で幾度となく不思議な力で危機を回避できたのはこのお守りのおかげだそうですね。なんとなく捨てることが出来ず持っていたら辺境で流れの傭兵の方が教えてくれましたよ」
「そ、そうですか……でも、それはお守りのおかげではなくタイラー様たちが……」
「最初はなんとも思ってなかったんです……でも、自分の身に危険が迫ったとき何度も不思議な力に助けられて……傭兵の言葉も半信半疑でした。それでもゲン担ぎのつもりで持ち続けていたんです」
確かにお守りの効果はモリモリにしたけど……でも見た目はシンプルに騎士団の模様を刺繍したお守りにしたので、なかを開けたりよくよく調べなければわからないはず。
効果を増やそうとすると緻密な刺繍がいるから裏布に頑張って刺したんだよね。もしかしたらその傭兵さんもどこかでそんなお守りを貰ったことあるのかも。
それに、すべてがお守りや言霊魔法のおかげではないと思う。本当にそうできたなら魔女として誇らしいけれど、タイラー様たちの努力や機転をきかせただけかもしれないし……当人の行動によっては効果が変化することもあるっていうし。
言霊魔法は特に難しいんだよね……『ご武運をお祈りしております!タイラー様が幸せな人生を歩めますように』って祈ったけど本人が戦いの場所から身を引き平凡な暮らしが幸せだと思い行動すれば矛盾が起きて効果は薄れるし、そもそもわたしの魔法だと数年持続すれば良いほうなんだけどね。
「でも、こちらへ帰還してきちんと調べてもらったらお守りにはかなり高度な魔方陣がびっしりと……そう簡単に作れるものではないし、素材もなかなか手に入れられないものだと知ったのです。そして、あなたが王都で数少ないお守りの作り手だと知りました」
え、王都でお守り作ってる魔女ってそんなに少ないの……だから、よく売れるのかぁ。
「いや、あの……そんな」
「それに、いつからかあなたの『どうかお体にお気をつけて!ご武運をお祈りしております!タイラー様が幸せな人生を歩めますように!遠くからお祈り申し上げます!』って言葉が頭に思い浮かんで……勇気づけられたのです」
え、言霊魔法ってそんな風に頭に思い浮かんだりするの?刷り込まれてるじゃんっ!
はっ!まさしくお師匠さまの言う吊り橋効果ってやつなのでは?
「私の顔を見て寄ってくる令嬢は多いし、ご武運をと言ってくれる方やお守りをくれた方もいたけど、それはすべて使用人に買わせたもので忍び込んでまで渡してくれるひとも、さらには自ら作って渡してくれたりはしなかった。ここへ来てあなたの行動や気持ちが嬉しかったのだと再確認しました……」
タイラー様、わたしが作ったことも忍び込んだことも全部調べたのか……短期間でよくそこまで……ただ、自ら作るのは魔女か魔女見習いくらいしかできないと思うけど。
っていうかこんな近距離でタイラー様とまた会えるなんて思ってなかったから心臓ばくばくしてきた。お師匠さまはニヤニヤとして助けてはくれなさそう。
「シエラさん、あの時 『タイラー様が幸せな人生を歩めますように!』って言いましたよね?」
「あ、はい!」
言いましたとも!
「では、それにシエラさんが協力してくれるのですね」
「あ……え、はい?」
「ではこれからはそばで手伝ってくださいね」
あれ?めったに笑わないと噂のタイラー様が満面の笑み……ど、どうしようっ!?
「これからよろしくお願いしますね?」
「でも、遠くからお祈り申し上げます!とも言いましたよぉ……」
あぁ、それ以上近づかれたら心臓爆発しちゃうからぁ……くっ、笑顔が眩しすぎるっ。
「……よろしくお願いしますね?」
「ハイ……」
顔を真っ赤にして今にも倒れそうなシエラとニコニコのタイラーは警戒モードのビットくんと生温かい目のタルちゃん、ニヤニヤのお師匠さまにしばらくの間、見守られ続けましたとさ……
言霊の魔女、命の恩人に恩返ししたらいつの間にか外堀が埋められつつあるようです 瑞多美音 @mizuta_mion
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