溺愛エネルギーを注ぎました
藤泉都理
溺愛エネルギーを注ぎました
サブカル。
サブカルチャーの略称。
全体的な流れや主流となる文化とは異なり、独特の行動様式や価値観を表す「文化の中の文化」を指す言葉として誕生。
具体例として、漫画・アニメ、アイドル、コスプレなどが挙げられる。
「なるほど」
或るサイトの説明文を読み終えた私は、姪からサブカル読んでみてと紹介された漫画を手に取った。
題名は【溺愛】。
内容も溺愛ものらしい。
具体的には、学園のみんなに溺愛される少女が主人公で、そのみんなの溺愛のエネルギーをいつもいつも持ち歩いている栄養ドリンクの瓶に吸収。薬草と一緒に煮詰めて、永遠の若さを手に入れているらしい。
つまりは、見た目年齢に何十倍かけた数が実年齢とのこと(実際に何歳か記されていない)。
姪から熱弁された私はもうその説明だけでいいやと思い、読む気は皆無だったのだ。
あーはいはいみんながあなたにメロメロね~と茶化すだけで十分だ。
けれど、横になって休んでいる時に、ふと、机に置いていたその漫画が目に入って。
ちらちらちらと、目に入って。
仕方ない読んであげよう。と、手に取ったわけだ。
主人公である少女の名は、「みなと」。
その主人公のライバルの少女の名は、「なるえ」。
「みなと」はどうやら悪の魔女らしく、聖の魔女である「なるえ」に栄養ドリンクの瓶を奪われるのを回避しつつ、みんなの溺愛エネルギーを吸収する話らしい。
「みなと」は時々「なるえ」をそそのかす。
あなたも永遠の若さがほしいでしょう、と。
「なるえ」は断固として拒む。
老いも若きも人生を楽しむためのスパイスだから永遠の若さなんてほしくない。
いや~。
私は「なるえ」の考えに待ったをかける。
若いなら若い方がいいよ。年を取るともうあちこちガタが来て大変だよ。腕が上がらなくなった時は本当に絶望したからね。気合入れるのに、栄養ドリンクがかかせなくなったからね、しかも超高いの。
「きーちゃん。読んでくれてんだ?」
「おー。あっちゃん」
おばさんと呼んでほしくなくて、姪であるあっちゃんにはきーちゃんと、名前の頭文字を取って呼んでもらっている。
「おばあちゃんとおじいちゃんには挨拶した?」
「うん」
ソファに寝転がっていた私は身体を起こすと、重厚な机を挟んで向かいのソファに座ったあっちゃんに向かい合った。
「どう?面白いでしょ?私は「みなと」押しだけど、きーちゃんは?」
「んー。どっちかって言われたら、「みなと」だけど」
「だよねー。「なるえ」は正論ばっかで面白くないよね?「みなと」はぶっ飛んでるし」
「はあ」
青春だな、悪ぶりたいお年頃か。
あっちゃんの若さに目をしばたかせてから、立ち上がると何か飲むと尋ねた。
「さっきおばあちゃんからコーラもらった」
「おばあちゃんの今のブームね」
「へえ。きーちゃんは今何かブームあるの?」
「栄養ドリンク。一番値段が高いの」
「………」
あっちゃんは無言で机の上に置いてあった栄養ドリンクの瓶を両手で強く握ると、私にどうぞとくれた。
お疲れ様です溺愛エネルギーを注ぎましたと言って。
私はその瓶を受け取ると、ごくりと一気に飲み干した。
溺愛という割には、とても爽やかでちょっぴり苦い味がした。ような気がした。
(2023.5.28)
溺愛エネルギーを注ぎました 藤泉都理 @fujitori
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